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3章 恋の証明
38 雅の独白 懐かしい声・3
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ヴーヴー。
感傷的な気分を現実へと引き戻す低音。
ポケットに振動を感じてスマホを取り出せば、メールが1件着ていた。
送信者を確認して、思わず声が出そうになった。
え? 龍一から!?
卒業以来会っていなかったから、というのも驚いた理由のひとつだけど、龍一とスマホで通話以外のやりとりをするのはこれが初めてだった。
龍一は文字を入力するのが面倒くさいという理由で仲間内のSNSには混ざろうとしなかったし、何かあったら電話をするというスタンスを貫いていた。
そんな龍一らしく、メールには必要最低限のことしか書かれていない。
件名は『おまえのことだろ』という訳のわからないもの。
本文には『25:34:05』と書かれていて、リンクが貼り付けてある。
アドレスを見る限りだと動画サイトみたいだ。
久しぶりなのに何だよ、この脅迫めいた件名は……。
俺は引き出しからイヤホンを探り出して、指定されたリンク先をクリックした。
想像通り動画サイトにアクセスし……て、え? み……ミスキャン?
表示されたタイトルを二度見してしまった。
タイトルと中身が間違っていなければ、リンク先の動画は母校のミスキャンの……PRムービーだった。
何故にミスキャン……の、本戦ですらなくPRムービー?
公開日は3年前。
親父の元に連れ戻されて一番バタバタしていた時期。
内輪の揉めごとで頭がいっぱいで、学祭なんて縁遠いイベントだったし、ミスキャンに誰が出ていたとか誰が優勝したのかなんて全然知らない。
『おまえのことだろ』と言われた所で全く心当たりはない。
「うー……ん?」
それでも面倒くさがりな龍一が連絡をよこすなんて、俺にとっては青天の霹靂だったから、本文にかかれている時間まで動画を飛ばした。
そして、口を開けたまま固まった。
だってミスキャンなんて、天地がひっくり返っても参加しそうにない人が映っていたんだから。
『法学部3年の浅木美亜です。宜しくお願いします』
え? は?
本人の口から名前を聞いても実感がわかない。
画面の向こうにいる美亜は非現実的で。
真っ白でふわふわした服が風に揺れて、光をまとった天使みたいに見えた。
『はい。じゃあ、意気込みをどうぞ』
『ミスキャンパスに申し込んでからは毎日ひと駅分走ってます、家ではストレッチを続けています。心なしかお腹と太ももが硬くなってきて、割れるまであともう少し、と言った所でしょうか……』
ギャラリーからドッと笑いが起こって我に返った。
あ、この空気読まない、ちょっと残念な感じ。
間違いなく美亜だ。
スマホを持つ手が震えて、久々に見る姿に胸が苦しくなった。
別れて少し経ったくらい、か。
もう自分の彼女でもないし、3年前の動画だし、何を今更って感じだけど。
綺麗すぎる美亜にヤキモキした。
広川さんと安西さんにアドバイスでも受けたのかな。
ミスキャンだからかもしれないけど、美亜が普段選んでは着ないようなショートパンツにヒールの靴。
大人びた外見にはよく似合っているんだけど……目のやり場に困るっていうか……。
ショートパンツの丈、かなり短くない……?
ここにいる人、全員見たよね?
この動画、誰でも見れるよね?
誰にも見せたく……なかったなぁ……。
『はい。ではミスキャンパスに出場を決めた理由は?』
そう司会者に問われて、表情筋を動かさずに淡々と話していた美亜がいきなり日溜まりのような笑顔を見せた。
まるで恋に落ちるみたいに胸がドクッと高まって、それと同時に、そうなったのは自分だけじゃ無いんだろうな、とも考えて切なくなる。
駄目だ。これ……結構キツい。
このまま見続けたら、美亜の一挙一動に心拍数が跳ね上がって疲労困憊しそうだ。
仕事を始める前にそうなるのはどうかと思うし、もう見るのはやめておいた方がいいんじゃない?
理性的な自分に咎められるけど、そんなことできる訳がなかった。
『好きな人がいるからです』
次いで美亜から出た言葉に、頭をガツンと殴られたような衝撃を受ける。
『その人に恥じない、魅力的な女性になりたくて出場を決意しました。これから何があっても堂々として、誰に自分を批判されても否定されても負けない心の強さが欲しい。この出場をきっかけにして、私はもっと強くなりたいです』
『そっか、そっかー。美亜ちゃんは好きな人がいるんだねー。でもそれってさ~、ミスキャンでは幸と出るか不幸と出るのかなー? ちなみにどんな人なのー?』
『え、と』
問われた美亜が、少し恥ずかしそうに視線を下にずらす。
美亜の好きな人がどんな人か、なんてミスキャンには関係ない。
美亜の自己PRからは、どんどんかけ離れていく内容なのに、ネタになるとでも思ったのか、ギャラリーを増やしたいのか、誰も司会者の暴走を止めようとはしない。
『夢に向かって頑張っている素敵な人です』
それが美亜の好きな人。
好きな、人……?
メールの件名を思い出して、まさか、と思う。
自惚れてから地獄に叩き落とされる展開なんて、まっぴらごめんだ。
それでも、どこまで本気にしていいのかわからなかった、いつかの美亜の言葉が脳裏に蘇る。
好きになるなら雅がいい。
私はこの先もずっと、雅以外の男の子とは付き合わない。
雅だけに心も操も立てるから。
雅は私にとって、そのくらいの存在。
大切な人だから。
だから、これからも一緒にいてください。
感傷的な気分を現実へと引き戻す低音。
ポケットに振動を感じてスマホを取り出せば、メールが1件着ていた。
送信者を確認して、思わず声が出そうになった。
え? 龍一から!?
卒業以来会っていなかったから、というのも驚いた理由のひとつだけど、龍一とスマホで通話以外のやりとりをするのはこれが初めてだった。
龍一は文字を入力するのが面倒くさいという理由で仲間内のSNSには混ざろうとしなかったし、何かあったら電話をするというスタンスを貫いていた。
そんな龍一らしく、メールには必要最低限のことしか書かれていない。
件名は『おまえのことだろ』という訳のわからないもの。
本文には『25:34:05』と書かれていて、リンクが貼り付けてある。
アドレスを見る限りだと動画サイトみたいだ。
久しぶりなのに何だよ、この脅迫めいた件名は……。
俺は引き出しからイヤホンを探り出して、指定されたリンク先をクリックした。
想像通り動画サイトにアクセスし……て、え? み……ミスキャン?
表示されたタイトルを二度見してしまった。
タイトルと中身が間違っていなければ、リンク先の動画は母校のミスキャンの……PRムービーだった。
何故にミスキャン……の、本戦ですらなくPRムービー?
公開日は3年前。
親父の元に連れ戻されて一番バタバタしていた時期。
内輪の揉めごとで頭がいっぱいで、学祭なんて縁遠いイベントだったし、ミスキャンに誰が出ていたとか誰が優勝したのかなんて全然知らない。
『おまえのことだろ』と言われた所で全く心当たりはない。
「うー……ん?」
それでも面倒くさがりな龍一が連絡をよこすなんて、俺にとっては青天の霹靂だったから、本文にかかれている時間まで動画を飛ばした。
そして、口を開けたまま固まった。
だってミスキャンなんて、天地がひっくり返っても参加しそうにない人が映っていたんだから。
『法学部3年の浅木美亜です。宜しくお願いします』
え? は?
本人の口から名前を聞いても実感がわかない。
画面の向こうにいる美亜は非現実的で。
真っ白でふわふわした服が風に揺れて、光をまとった天使みたいに見えた。
『はい。じゃあ、意気込みをどうぞ』
『ミスキャンパスに申し込んでからは毎日ひと駅分走ってます、家ではストレッチを続けています。心なしかお腹と太ももが硬くなってきて、割れるまであともう少し、と言った所でしょうか……』
ギャラリーからドッと笑いが起こって我に返った。
あ、この空気読まない、ちょっと残念な感じ。
間違いなく美亜だ。
スマホを持つ手が震えて、久々に見る姿に胸が苦しくなった。
別れて少し経ったくらい、か。
もう自分の彼女でもないし、3年前の動画だし、何を今更って感じだけど。
綺麗すぎる美亜にヤキモキした。
広川さんと安西さんにアドバイスでも受けたのかな。
ミスキャンだからかもしれないけど、美亜が普段選んでは着ないようなショートパンツにヒールの靴。
大人びた外見にはよく似合っているんだけど……目のやり場に困るっていうか……。
ショートパンツの丈、かなり短くない……?
ここにいる人、全員見たよね?
この動画、誰でも見れるよね?
誰にも見せたく……なかったなぁ……。
『はい。ではミスキャンパスに出場を決めた理由は?』
そう司会者に問われて、表情筋を動かさずに淡々と話していた美亜がいきなり日溜まりのような笑顔を見せた。
まるで恋に落ちるみたいに胸がドクッと高まって、それと同時に、そうなったのは自分だけじゃ無いんだろうな、とも考えて切なくなる。
駄目だ。これ……結構キツい。
このまま見続けたら、美亜の一挙一動に心拍数が跳ね上がって疲労困憊しそうだ。
仕事を始める前にそうなるのはどうかと思うし、もう見るのはやめておいた方がいいんじゃない?
理性的な自分に咎められるけど、そんなことできる訳がなかった。
『好きな人がいるからです』
次いで美亜から出た言葉に、頭をガツンと殴られたような衝撃を受ける。
『その人に恥じない、魅力的な女性になりたくて出場を決意しました。これから何があっても堂々として、誰に自分を批判されても否定されても負けない心の強さが欲しい。この出場をきっかけにして、私はもっと強くなりたいです』
『そっか、そっかー。美亜ちゃんは好きな人がいるんだねー。でもそれってさ~、ミスキャンでは幸と出るか不幸と出るのかなー? ちなみにどんな人なのー?』
『え、と』
問われた美亜が、少し恥ずかしそうに視線を下にずらす。
美亜の好きな人がどんな人か、なんてミスキャンには関係ない。
美亜の自己PRからは、どんどんかけ離れていく内容なのに、ネタになるとでも思ったのか、ギャラリーを増やしたいのか、誰も司会者の暴走を止めようとはしない。
『夢に向かって頑張っている素敵な人です』
それが美亜の好きな人。
好きな、人……?
メールの件名を思い出して、まさか、と思う。
自惚れてから地獄に叩き落とされる展開なんて、まっぴらごめんだ。
それでも、どこまで本気にしていいのかわからなかった、いつかの美亜の言葉が脳裏に蘇る。
好きになるなら雅がいい。
私はこの先もずっと、雅以外の男の子とは付き合わない。
雅だけに心も操も立てるから。
雅は私にとって、そのくらいの存在。
大切な人だから。
だから、これからも一緒にいてください。
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