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3章 恋の証明
34 雅の独白 新しい場所で・4
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美亜との別れもそう。
俺はずるい。
一番辛い選択を、自分がしなければいけなかった選択を、全部美亜に押しつけてしまった。
会社のことも、美亜のことも、どっちも大事で諦めきれなくて……向かい合うこと、考えること自体から逃げようとしていた。
あの時、本当に逃げていたら何もかもが中途半端になっていたと思う。
美亜は正しい。
でも、ずっと一緒にいたいって、守りたかった気持ちだけは本当だったから。
頭のどこかで美亜なら俺の背中を押すと分かっていたのに、実際にそうなると、冷静な美亜に自分への愛情を計りかねて……。
馬鹿だなぁ、俺。
自分ひとりで生きていくこともできないくせに、内心では美亜に『私を選んで』と感情的に求められることを願っていたんだ……。
どれだけ勝手?
メロドラマならひとりでやってろって話。
「あー……もう……。ガキ過ぎて自分が嫌になる……」
あの時のことを思い出すと罪悪感と後悔で胸が潰れそうになる。
美亜も美亜だよ。
口では別れるって言ってるのに、俺のすることは全て受け入れて何の抵抗もしないんだから……。
最悪の出会いになってしまった分、つきあってからは大事に大切にしようって思ってきたのに。
最低だ。
最後の最後であんなキス無理強いして。
でもキスだけで……あのまま勢いで一線越えなくてほんと良かった。
良かったのに、心のどこかでは別の後悔もしてる。
いつかは、ちゃんとしたかった。
シラフの時にすっごい気持ちよくさせてから、ちゃんと美亜を美亜として抱きたかっ……。
「……………」
本郷さんが仏のような眼差しでこちらを見ていて我に返る。
いや。
今のは無しで。
最後のは無し。
無言で微笑んでいる本郷さんに、邪な考えすらも全て見透かされている気がして、手元の回覧物を取る振りをして目を逸らした。
死ぬほど気まずい。
「とにかく。親父を恨むことは簡単だけど、誰かのせいにするのはもうやめたの!」
「……雅さんはお優しいですよね……」
「何それ急に。気持ち悪いなぁ」
「……気持ち悪いとは心外ですね」
言葉とは裏腹に、本郷さんは穏やかに笑う。
「自己都合で終わらせたいなら振られた方が楽なんでしょうけど、雅さんが自分から望んで終わらせた恋愛なんて今まで一度も無かったじゃないですか。いちいちお相手の代わりに全力で傷ついて……いつも見ていられませんでしたよ」
えー……と。いつも見てたんですかね? というツッコミは面倒くさいので敢えてしないでおく。
「誰にでもプライドはあります。自分を否定されるのは、傷つくことは恐いし辛いですよ。自分が傷ついても相手を傷つけたくないなんて発想、普通はあまりできないと思います」
「そんなこと言わないで。俺を甘やかさないで」
できることならいつまでも落ち込んでいたい。
決断できなかった、弱い、ずるい自分を責めて許さないで欲しい。
ずっと居場所を探していた美亜の帰る場所になれなかった。
中途半端に放り出してしまった。
本意じゃなかった筈なのに、全部俺のせいで別れることになったのに、美亜は最後まで笑ってくれた。
傷つくなら、俺だけが傷つきたかった。
傷つかなきゃいけなかったのに。
「やめてよ……。俺は自分で自分が嫌になるぐらい傲慢で……勝手わがままなんだから……」
「いいえ、お優しいんですよ」
言い切る本郷さんに毒気が抜かれる。
この人は……まったく……。
俺はずるい。
一番辛い選択を、自分がしなければいけなかった選択を、全部美亜に押しつけてしまった。
会社のことも、美亜のことも、どっちも大事で諦めきれなくて……向かい合うこと、考えること自体から逃げようとしていた。
あの時、本当に逃げていたら何もかもが中途半端になっていたと思う。
美亜は正しい。
でも、ずっと一緒にいたいって、守りたかった気持ちだけは本当だったから。
頭のどこかで美亜なら俺の背中を押すと分かっていたのに、実際にそうなると、冷静な美亜に自分への愛情を計りかねて……。
馬鹿だなぁ、俺。
自分ひとりで生きていくこともできないくせに、内心では美亜に『私を選んで』と感情的に求められることを願っていたんだ……。
どれだけ勝手?
メロドラマならひとりでやってろって話。
「あー……もう……。ガキ過ぎて自分が嫌になる……」
あの時のことを思い出すと罪悪感と後悔で胸が潰れそうになる。
美亜も美亜だよ。
口では別れるって言ってるのに、俺のすることは全て受け入れて何の抵抗もしないんだから……。
最悪の出会いになってしまった分、つきあってからは大事に大切にしようって思ってきたのに。
最低だ。
最後の最後であんなキス無理強いして。
でもキスだけで……あのまま勢いで一線越えなくてほんと良かった。
良かったのに、心のどこかでは別の後悔もしてる。
いつかは、ちゃんとしたかった。
シラフの時にすっごい気持ちよくさせてから、ちゃんと美亜を美亜として抱きたかっ……。
「……………」
本郷さんが仏のような眼差しでこちらを見ていて我に返る。
いや。
今のは無しで。
最後のは無し。
無言で微笑んでいる本郷さんに、邪な考えすらも全て見透かされている気がして、手元の回覧物を取る振りをして目を逸らした。
死ぬほど気まずい。
「とにかく。親父を恨むことは簡単だけど、誰かのせいにするのはもうやめたの!」
「……雅さんはお優しいですよね……」
「何それ急に。気持ち悪いなぁ」
「……気持ち悪いとは心外ですね」
言葉とは裏腹に、本郷さんは穏やかに笑う。
「自己都合で終わらせたいなら振られた方が楽なんでしょうけど、雅さんが自分から望んで終わらせた恋愛なんて今まで一度も無かったじゃないですか。いちいちお相手の代わりに全力で傷ついて……いつも見ていられませんでしたよ」
えー……と。いつも見てたんですかね? というツッコミは面倒くさいので敢えてしないでおく。
「誰にでもプライドはあります。自分を否定されるのは、傷つくことは恐いし辛いですよ。自分が傷ついても相手を傷つけたくないなんて発想、普通はあまりできないと思います」
「そんなこと言わないで。俺を甘やかさないで」
できることならいつまでも落ち込んでいたい。
決断できなかった、弱い、ずるい自分を責めて許さないで欲しい。
ずっと居場所を探していた美亜の帰る場所になれなかった。
中途半端に放り出してしまった。
本意じゃなかった筈なのに、全部俺のせいで別れることになったのに、美亜は最後まで笑ってくれた。
傷つくなら、俺だけが傷つきたかった。
傷つかなきゃいけなかったのに。
「やめてよ……。俺は自分で自分が嫌になるぐらい傲慢で……勝手わがままなんだから……」
「いいえ、お優しいんですよ」
言い切る本郷さんに毒気が抜かれる。
この人は……まったく……。
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