90 / 135
3章 恋の証明
10 ミスキャンパス
しおりを挟む
容赦なく日々は過ぎていく。
インターンシップの申し込みをするために会社を選び、エントリーシートを10通くらい書くことになった。
事前に本やインターネットで調べて、大体、こう書けば受かるのだというエントリーシートの理想の形は理解した。
理解したのだけど……。
いざ書こうとしても、自分と他者との差別化が思っていた以上にできなくて、自分がいかに没個性であるのかを痛感させられる。
自分で自分をそう思うのだから、孝幸さんから見ても私は雅が今まで付き合って別れてきた子となんら変わらずに映っていたんだろう。
あぁ……悔しいなぁ……。
季節は梅雨で、どんよりとした空にじめじめした暑さが続く。
講義が終わった後、図書室で調べ物をしていると、窓にポツポツとしずくの跡がつき始めた。
暫くぼーっと窓がぼやけていくのを眺めて、鞄に折り畳み傘が入っているのを確認してから席を立った。
モヤモヤした気持ちを胸に抱えたまま、廊下を抜けて階段を下りる。
雨脚は5分も経たないうちに強くなって、雨音が外からの音を遮断する。
静まり返った構内には私の足音だけが響いていた。
誰もいない雨の校舎は非現実的で、白昼夢でも良いから、目の前の曲がり角から雅が現れたら良いのに、と思う。
「……会いたい……なぁ……」
気がつけば想いが口から零れていた。
偶然でも良いからどこかですれ違ったり、遠目に、ひと目だけでも姿が見れたらいいのに。
可愛い笑顔が見たい。
声が聞きたい。
「美亜」って響きが耳の奥にまだ残ってる。
もう一度名前を呼んでもらいたい。
いつも頭のどこかでそう願うけど、別れた日から一度も雅に会うことは無かった。
これで良いんだろうな……。
会っても普通に接せられる自信は無い。
だからと言って無視したくないし、されたら悲しいけれど、友達になんてなれる気がしない。
気持ちが溢れて、辛い思いを全て無駄にして、好きだと伝えてしまいそうになる。
両手で頬をペチペチ叩いて、ぐ、と歯を食いしばる。
しっかりしなきゃ。
地に足つけて、今は……自分のことだけを考えなきゃ……。
エントランスに向かって渡り廊下を進んでいくと、女の子の人だかりができていた。
皆、手にはピンク色のチラシを手にして一様に浮足立っているように見える。
? 何ごとだろう。
「参加しちゃいなよぉ、いけるって!」
「えぇ~、やだよぉ~」
冷やかしあっている女生徒たちの中央にいるのは、チラシの束を持っている男子学生ふたり。
季節外れだけどサークルの勧誘か、宗教の勧誘でもしているのだろうか。
いずれにせよ、あまり関わりたくはない。
肩が雨に濡れる覚悟で女子の輪に混ざらないように壁際を歩きながら、早足でその場を立ち去ろうとした。
「あぁ! ねぇ、君、綺麗だね」
まさか話しかけられているのが自分だとは思わず、進行方向をチラシで塞がれるまで無視してしまった。
「これ良かったら参加してみない?」
視界に飛び込んできたのは鮮やかなピンク、そして『今年の学祭 ミスキャンパス、エントリー募集』と書かれた文字。
それは、毎年学祭で主催されてきた行事だった。
普段の私なら気にも留めない、『出ようかな』なんてまず思わない。
自他共に認める女子力の低さに加え……大勢の前で自分の魅力をPRするなんて、最も苦手で敬遠してきたことなのだから。
だけど。
もう一度、孝幸さんの顔が脳裏にちらついた。
他人から評価を得る努力を、私はどうにかして積み上げていかきゃならない。
少なくとも、今の私では駄目なのだから。
インターンシップの申し込みをするために会社を選び、エントリーシートを10通くらい書くことになった。
事前に本やインターネットで調べて、大体、こう書けば受かるのだというエントリーシートの理想の形は理解した。
理解したのだけど……。
いざ書こうとしても、自分と他者との差別化が思っていた以上にできなくて、自分がいかに没個性であるのかを痛感させられる。
自分で自分をそう思うのだから、孝幸さんから見ても私は雅が今まで付き合って別れてきた子となんら変わらずに映っていたんだろう。
あぁ……悔しいなぁ……。
季節は梅雨で、どんよりとした空にじめじめした暑さが続く。
講義が終わった後、図書室で調べ物をしていると、窓にポツポツとしずくの跡がつき始めた。
暫くぼーっと窓がぼやけていくのを眺めて、鞄に折り畳み傘が入っているのを確認してから席を立った。
モヤモヤした気持ちを胸に抱えたまま、廊下を抜けて階段を下りる。
雨脚は5分も経たないうちに強くなって、雨音が外からの音を遮断する。
静まり返った構内には私の足音だけが響いていた。
誰もいない雨の校舎は非現実的で、白昼夢でも良いから、目の前の曲がり角から雅が現れたら良いのに、と思う。
「……会いたい……なぁ……」
気がつけば想いが口から零れていた。
偶然でも良いからどこかですれ違ったり、遠目に、ひと目だけでも姿が見れたらいいのに。
可愛い笑顔が見たい。
声が聞きたい。
「美亜」って響きが耳の奥にまだ残ってる。
もう一度名前を呼んでもらいたい。
いつも頭のどこかでそう願うけど、別れた日から一度も雅に会うことは無かった。
これで良いんだろうな……。
会っても普通に接せられる自信は無い。
だからと言って無視したくないし、されたら悲しいけれど、友達になんてなれる気がしない。
気持ちが溢れて、辛い思いを全て無駄にして、好きだと伝えてしまいそうになる。
両手で頬をペチペチ叩いて、ぐ、と歯を食いしばる。
しっかりしなきゃ。
地に足つけて、今は……自分のことだけを考えなきゃ……。
エントランスに向かって渡り廊下を進んでいくと、女の子の人だかりができていた。
皆、手にはピンク色のチラシを手にして一様に浮足立っているように見える。
? 何ごとだろう。
「参加しちゃいなよぉ、いけるって!」
「えぇ~、やだよぉ~」
冷やかしあっている女生徒たちの中央にいるのは、チラシの束を持っている男子学生ふたり。
季節外れだけどサークルの勧誘か、宗教の勧誘でもしているのだろうか。
いずれにせよ、あまり関わりたくはない。
肩が雨に濡れる覚悟で女子の輪に混ざらないように壁際を歩きながら、早足でその場を立ち去ろうとした。
「あぁ! ねぇ、君、綺麗だね」
まさか話しかけられているのが自分だとは思わず、進行方向をチラシで塞がれるまで無視してしまった。
「これ良かったら参加してみない?」
視界に飛び込んできたのは鮮やかなピンク、そして『今年の学祭 ミスキャンパス、エントリー募集』と書かれた文字。
それは、毎年学祭で主催されてきた行事だった。
普段の私なら気にも留めない、『出ようかな』なんてまず思わない。
自他共に認める女子力の低さに加え……大勢の前で自分の魅力をPRするなんて、最も苦手で敬遠してきたことなのだから。
だけど。
もう一度、孝幸さんの顔が脳裏にちらついた。
他人から評価を得る努力を、私はどうにかして積み上げていかきゃならない。
少なくとも、今の私では駄目なのだから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
53
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる