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2章 あなたと共に過ごす日々
30 雅の独白 サヨナラ、カミサマ・2
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ミナは適当に俺に貢がせた後、すごく分かりやすく浮気して振ってくれた。
別に振る必要なんてなかったのに。
俺は都合の良い男だったでしょ?
ミナなら二股くらい上手くかけるよね。
気まずくなりそうになったら適当にエッチして誤魔化すのが常套手段だったじゃない。
自分が不利にならないように立ちまわるくらいお手の物だったのに。
時折見せる弱音は、全部本物だと思ったし、俺たちの間に愛情はあったと思う。
付き合ったことは後悔していない、傷つけられたことも。
でも、ミナとちゃんと向き合えなかった。
望んでいたこともわからなかった。
振られた理由が「他に好きな人ができた」じゃないこと位はなんとなくわかるよ。
俺がミナのこと、何も知らないふりして都合の良い恋人を演じてたこと、どこまでミナは気付いていたんだろう。
ばーちゃんが教えてくれた人との絆にずっと憧れていたのに。
実際の恋愛は、美亜には教えられないぐらい堕落していた。
都合の良い解釈をして、嘘と妄想で塗り固めて、いつもみたいに何事もなく受け流そうとして。
結果的に見ず知らずの女の子……美亜に手を出してしまったなんて笑えない。
あれから怖くてお酒が飲めなくなったよ。
美亜は優しくて、真面目で純粋で……脆かった。
最初は、その脆さに惹かれていたのかもしれない。
愛情に飢えている美亜につけ入ろうとした。
美亜の母親への気持ちを知って、その執着が俺に向けばいいのにと思った。
歪んでいるよね。
美亜は淡々としていて、何を考えているのかわかりづらい。
だけど伝えてくれる言葉には裏がなくて。
人づきあいが下手だというのも頷けるけど、信頼できる子だった。
美亜が好意に甘えるのが下手なのは、それだけ自分の力で生きていかなきゃと気を張っていた証。
俺はそんなに真面目な人間じゃなかったけど、俺に誠意を示そうとする美亜に、俺も真面目でありたいと襟を正した。
いつだって自分の足で立とうとする美亜に、恵まれながらも自立しようとしていない自分を恥じて、もっと頑張らなきゃ駄目だと思った。
美亜を知るほどに尊敬したし、可愛いと思うことも増えた。
虚勢を張る姿も、すぐ拗ねるとこも、たまに心を許して甘えてくれる所も可愛かった。
「可愛い」と言われて、真っ赤になって怒るところも好きだった。
挙動のひとつひとつが微笑ましくて、美亜といるのは楽しい。
付き合っているうちに、意外と表情が豊かなことにも気が付く。
気が付いたら夢中になって、好きの気持ちが加速していく。
美亜が大切だったから、好意は素直に伝えてきた。
好意を伝えながらも、俺は臆病だったから。
恋愛感情を持てない美亜からの好意は、心のどこかで期待しないようにしてた。
だから、なんだか信じられない。
いつの間に俺の気持ちに追いついたの?
思い返せばあの頃は、そんな関係になれるとは夢にも思っていなかった。
美亜に突き離された時、この子にとっての母親の存在は絶対で、俺はそれを越えられないだろうと思った。
「嫌い」と言われてバイトの迎えを拒否された時、この恋は終わるんだと思っていた。
だけど、それを思いとどまらせたのは、ばーちゃんだった。
いつも自分の意見は言わず、俺の話を聞くのが専門のばーちゃんだったけど、世間話でもするようにこんな話をした。
「親の愛情に恵まれずに里子に出された子はね、里親に反抗して、今度は大丈夫か、どこまで自分が相手を突き放しても大丈夫か、愛情を試す時期がくるそうだよ」
それが俺と美亜の関係を指していて、ばーちゃんが何を言おうとしているのかを察した時はショックだった。
「なに……それ。美亜が俺のこと信頼に値する人間かどうか試してるって……だから、突き離しにかかってるって言いたいの? だって、もう美亜は子供じゃないし、俺は美亜の母親になりたいんじゃない……! 恋人、なのに……」
そこから先は言葉にならなかった。
恋人という存在について、俺自身がそんなに重く考えていなかったのだと思う。
ばーちゃんはそれ以上何も言わず、困ったように微笑んだ。
「乗り越えろ」とも「諦めろ」とも言われなかった。
――私を愛して。
ずっと虚ろな頭の中に残っていた言葉が思いだされた。
夢か現実か曖昧になっていたけど、後になって何故だか急に現実味を帯びてきた。
自分の目に映っていたのはミナじゃない。
確かに美亜だった。
泣きそうな顔で懇願するようにそう言っていたこと、不意に確信が持てた。
考えがまとまらなかった。
美亜との距離の取り方もわからなくなっていた。
謝っても、守りたくても、どうやって美亜に近づけばいいのかわからない。
どうしたら心を許してもらえるようになるんだろう。
楽しそうにしてくれた日も確かにあったのに。
恋愛は楽しい、そう思うのは一時のこと。
本当に楽しい恋愛なんて今までしたことあったかな。
人を好きになるなんて、楽しくなんて全然ない。
苦しいばっかりだった。
ミナと別れたことを「後悔していない」って俺は言ったけど、そう言えたのだって、美亜がいたからだ。
後悔しない付き合い方をしようよ、って。
頑張った自分は残るから、って。
恋愛に消極的だった美亜に俺が言いたかったんだ。
今度の恋はそうありたかったから。
だから。
身は引けない。
無様でも引いちゃいけない。
今のままじゃ俺も美亜も他人を信じられない。
先に進めない。
どんな結末を迎えたとしても無駄じゃないって言ったこと、俺は自分で美亜に証明しなくちゃいけない。
別に振る必要なんてなかったのに。
俺は都合の良い男だったでしょ?
ミナなら二股くらい上手くかけるよね。
気まずくなりそうになったら適当にエッチして誤魔化すのが常套手段だったじゃない。
自分が不利にならないように立ちまわるくらいお手の物だったのに。
時折見せる弱音は、全部本物だと思ったし、俺たちの間に愛情はあったと思う。
付き合ったことは後悔していない、傷つけられたことも。
でも、ミナとちゃんと向き合えなかった。
望んでいたこともわからなかった。
振られた理由が「他に好きな人ができた」じゃないこと位はなんとなくわかるよ。
俺がミナのこと、何も知らないふりして都合の良い恋人を演じてたこと、どこまでミナは気付いていたんだろう。
ばーちゃんが教えてくれた人との絆にずっと憧れていたのに。
実際の恋愛は、美亜には教えられないぐらい堕落していた。
都合の良い解釈をして、嘘と妄想で塗り固めて、いつもみたいに何事もなく受け流そうとして。
結果的に見ず知らずの女の子……美亜に手を出してしまったなんて笑えない。
あれから怖くてお酒が飲めなくなったよ。
美亜は優しくて、真面目で純粋で……脆かった。
最初は、その脆さに惹かれていたのかもしれない。
愛情に飢えている美亜につけ入ろうとした。
美亜の母親への気持ちを知って、その執着が俺に向けばいいのにと思った。
歪んでいるよね。
美亜は淡々としていて、何を考えているのかわかりづらい。
だけど伝えてくれる言葉には裏がなくて。
人づきあいが下手だというのも頷けるけど、信頼できる子だった。
美亜が好意に甘えるのが下手なのは、それだけ自分の力で生きていかなきゃと気を張っていた証。
俺はそんなに真面目な人間じゃなかったけど、俺に誠意を示そうとする美亜に、俺も真面目でありたいと襟を正した。
いつだって自分の足で立とうとする美亜に、恵まれながらも自立しようとしていない自分を恥じて、もっと頑張らなきゃ駄目だと思った。
美亜を知るほどに尊敬したし、可愛いと思うことも増えた。
虚勢を張る姿も、すぐ拗ねるとこも、たまに心を許して甘えてくれる所も可愛かった。
「可愛い」と言われて、真っ赤になって怒るところも好きだった。
挙動のひとつひとつが微笑ましくて、美亜といるのは楽しい。
付き合っているうちに、意外と表情が豊かなことにも気が付く。
気が付いたら夢中になって、好きの気持ちが加速していく。
美亜が大切だったから、好意は素直に伝えてきた。
好意を伝えながらも、俺は臆病だったから。
恋愛感情を持てない美亜からの好意は、心のどこかで期待しないようにしてた。
だから、なんだか信じられない。
いつの間に俺の気持ちに追いついたの?
思い返せばあの頃は、そんな関係になれるとは夢にも思っていなかった。
美亜に突き離された時、この子にとっての母親の存在は絶対で、俺はそれを越えられないだろうと思った。
「嫌い」と言われてバイトの迎えを拒否された時、この恋は終わるんだと思っていた。
だけど、それを思いとどまらせたのは、ばーちゃんだった。
いつも自分の意見は言わず、俺の話を聞くのが専門のばーちゃんだったけど、世間話でもするようにこんな話をした。
「親の愛情に恵まれずに里子に出された子はね、里親に反抗して、今度は大丈夫か、どこまで自分が相手を突き放しても大丈夫か、愛情を試す時期がくるそうだよ」
それが俺と美亜の関係を指していて、ばーちゃんが何を言おうとしているのかを察した時はショックだった。
「なに……それ。美亜が俺のこと信頼に値する人間かどうか試してるって……だから、突き離しにかかってるって言いたいの? だって、もう美亜は子供じゃないし、俺は美亜の母親になりたいんじゃない……! 恋人、なのに……」
そこから先は言葉にならなかった。
恋人という存在について、俺自身がそんなに重く考えていなかったのだと思う。
ばーちゃんはそれ以上何も言わず、困ったように微笑んだ。
「乗り越えろ」とも「諦めろ」とも言われなかった。
――私を愛して。
ずっと虚ろな頭の中に残っていた言葉が思いだされた。
夢か現実か曖昧になっていたけど、後になって何故だか急に現実味を帯びてきた。
自分の目に映っていたのはミナじゃない。
確かに美亜だった。
泣きそうな顔で懇願するようにそう言っていたこと、不意に確信が持てた。
考えがまとまらなかった。
美亜との距離の取り方もわからなくなっていた。
謝っても、守りたくても、どうやって美亜に近づけばいいのかわからない。
どうしたら心を許してもらえるようになるんだろう。
楽しそうにしてくれた日も確かにあったのに。
恋愛は楽しい、そう思うのは一時のこと。
本当に楽しい恋愛なんて今までしたことあったかな。
人を好きになるなんて、楽しくなんて全然ない。
苦しいばっかりだった。
ミナと別れたことを「後悔していない」って俺は言ったけど、そう言えたのだって、美亜がいたからだ。
後悔しない付き合い方をしようよ、って。
頑張った自分は残るから、って。
恋愛に消極的だった美亜に俺が言いたかったんだ。
今度の恋はそうありたかったから。
だから。
身は引けない。
無様でも引いちゃいけない。
今のままじゃ俺も美亜も他人を信じられない。
先に進めない。
どんな結末を迎えたとしても無駄じゃないって言ったこと、俺は自分で美亜に証明しなくちゃいけない。
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