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2章 あなたと共に過ごす日々
22 ショッピングに行こう!・2
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「今までそういうのにお金を使ってこなかった美亜が?」
「どういう心境の変化なの」
ぽかんとしたふたりの表情が、私の顔が赤くなっていることに気付き、笑みを含んだものへと変わる。
行き交う人の邪魔にならないよう壁際にそそくさと避ける私を、キラキラしたふたりの瞳が追ってくる。
「え、やだ、なに、そういうこと?」
「え、わかんない、どういうこと?」
大体想像つくんだろうから、聞かないで。
今はデリケートな時期なんだからそっとしておいて……と思いつつも、もちろん無理な話だというのも承知している。
話を聞いてもらったりアドバイスをしてくれたふたりを邪険にすることもできず、どう話したものだろうと悩んでしまう。
「『スイッチが入る』なんて感覚、理解できないと思ってたんだけど……」
「は、入ったんだ!?」
なんの情緒も感慨なく、間髪入れずに涼子から横やりが入る。
「えー、なんで? いつの間に!? どーやって!?」
「ハグとかちゅーとかえっちして?」
「え、ち、違う。違……全然、違うかっていうと、わかんないんだけど……」
昨日さっそく母との電話の後で雅に抱きしめてもらったことを思い出し、顔からシュワッと湯気が上る。
怖い時、不安な時、いつも優しく抱きしめて傍にいてくれた雅に、恋愛感情を抱かなかったのかと訊かれたら、多分そんな訳はないのだ。認めるのが遅かっただけで。
「……なんて、言ったらいいんだろ。恋人なのに、なんで今更って、思うかもしれないけどね」
「うん、うん」
「『惚気るなよ、ば、ばかやろー』って思って呆れられちゃうかもしれないけどね」
「うん、うん」
「雅に、ね。『好き』とか『可愛い』って言われるのが、すごく、う、嬉しくて……」
あ、あ、あ。言ってしまった。
本当に何それ、何言っちゃってるの。自分で言っててばかやろーって感じ。
耳まで熱くなってきたけど、野次が入る前になんとか気を持ち直して言葉を続ける。
「今まではそう言われても、どうせ私なんかって思ったり、どうしたらいいのかわからなくて、うろたえてそこで終わってたんだけど。最近は少し考え方が変わったんだ……」
きゅっと一度、唇を真一文字に結ぶ。
「おんなじにね、雅にも嬉しくて幸せな気持ちになってもらいたいの、でも、私の今までが今までだっただけに、言葉だけじゃ上手く伝えきれてなくて……その、どうにか実感、してもらえないかなぁって……」
桐羽さんが言ってた。
思いを通い合わせることができる人、信じることができる人、大切に思い合える人がきっとどこかにいる筈だって。
諦めずに手を伸ばし続ければ、いつか巡り会えるって。
雅が昔、人と関わることで辛い思いをしたのだとしたら、それが全部報われて欲しい。
他力本願で願うのではなくて、私が雅に報いたい。
もしも心の中にスイッチがあるんだとしたら、入ったのはあの日。
私が自分の力で幸せにしたいんだって思った。
「わ、私……変なこと、言ってる?」
恐る恐るふたりを見れば、満面の笑みで答えが返ってきた。
「ううん、ちっとも!」
涼子の言葉に私がホッとするのも束の間。
「それで?」
千夏からの追尾攻撃が始まった。
「実感、て何のこと?」
「え?」
「そんな含みのある言い方じゃ、私はまだよくわかんないなぁ」
「え、だ……だから……」
私に全部言わせる気か、言わせる気……なんだな。
ふたりから、ゴクリと唾を飲む音が聞こえてくる気がする。
返ってくる言葉なんてわかりきっているんだから、そんな真剣な目で見つめないでよ。
「わ……私が、雅を大好きだって……ことを、だよっ」
絞り出すような声で私が言うと「きゃーっ!」とふたりが騒ぎ出す。
何だこれ、もう。中学生かっ!
まだショッピング序盤だと言うのに、既に精神体力共に消耗してしまった気がする。
恥ずかしかった。けど、ちゃんと言って良かったんだよね?
いや、しかし、これからもっとからかわれるのかなぁ……。
複雑な思いで歩いていると、立ち止まった涼子が声を上げた。
「あー、私ここの服好きなんだよね~、見てきて良い~?」
「まぁ、それもいいけどさ……今日は美亜の服を見てあげようよ」
千夏の言葉に、涼子はプゥと頬を膨らませる。
「え……や……」
気持ちはとてもありがたいけれど、そんなことを言われると焦ってしまう。
見てあげると言われた所で、何をどう選んで意見を請えばいいのかわからない私は、「いいよ。涼子の好きなお店、行こうよ」と千夏を促した。
涼子に続いて入ったお店は、黒い壁紙にピカピカの床、反射するミラーボールが眩しい異空間だった。
背後に大音量で流れているユーロビートが、より一層、私を場違いな気持ちにする。
千夏曰く、ここの服は露出が多いので好みではないらしい。
もちろん私も着こなせる気はしない。
恐る恐る、ハンガーにかかっている服を手にとってみる。
例えばこの肩を半分出している服はどう着るんだろう。
私が着て歩いていたら「何でこの人の服、伸びちゃったの」みたいな感じになるんじゃなかろうか。
しかし、お店の女の子が背中がばっくり開いた服を堂々と着こなしている様を見て、着るべき人が着れば服は生きるものだな、なんて感心してしまう。
開いた背中からちらりと見せているヒョウ柄のストラップレスキャミソールもエロかっこいい。
それでも、やっぱり、私が着たところは想像できないし、そんな自分を見たいとも思わないんだけど……。
店員さんも、千夏がまったく興味がない、私が場違いなのを承知のうえなのか、涼子にだけ熱心に話しかけて私達は空気と化していた。
お気に入りが見つかり、ほくほくした涼子を隣に従え、次のお店へと歩を進める。
「美亜はさ、どういう系を目指したいの?」
「どういう……系!?」
今まで考えたこともなかった難易度の高い質問が飛んできた。
でも確かに、自分の目指すべき姿というのは明確にしておいた方がいい気がする。
「え……。えーと、えーと、ね」
通路の中央に設置してあったフロアマップを手にとってみるものの、店の名前じゃ何ひとつわからない。
今まで通過したお店の記憶をたぐり寄せ、ぐるり、ぐるり、と挙動不審気味に周りを見まわす。
「あ……あんなの……可愛い……着てみたいなぁ、と思うけど」
悩んだ挙げ句に私が指した先を見て、ふたりの顔がスッと真顔になる。
「どういう心境の変化なの」
ぽかんとしたふたりの表情が、私の顔が赤くなっていることに気付き、笑みを含んだものへと変わる。
行き交う人の邪魔にならないよう壁際にそそくさと避ける私を、キラキラしたふたりの瞳が追ってくる。
「え、やだ、なに、そういうこと?」
「え、わかんない、どういうこと?」
大体想像つくんだろうから、聞かないで。
今はデリケートな時期なんだからそっとしておいて……と思いつつも、もちろん無理な話だというのも承知している。
話を聞いてもらったりアドバイスをしてくれたふたりを邪険にすることもできず、どう話したものだろうと悩んでしまう。
「『スイッチが入る』なんて感覚、理解できないと思ってたんだけど……」
「は、入ったんだ!?」
なんの情緒も感慨なく、間髪入れずに涼子から横やりが入る。
「えー、なんで? いつの間に!? どーやって!?」
「ハグとかちゅーとかえっちして?」
「え、ち、違う。違……全然、違うかっていうと、わかんないんだけど……」
昨日さっそく母との電話の後で雅に抱きしめてもらったことを思い出し、顔からシュワッと湯気が上る。
怖い時、不安な時、いつも優しく抱きしめて傍にいてくれた雅に、恋愛感情を抱かなかったのかと訊かれたら、多分そんな訳はないのだ。認めるのが遅かっただけで。
「……なんて、言ったらいいんだろ。恋人なのに、なんで今更って、思うかもしれないけどね」
「うん、うん」
「『惚気るなよ、ば、ばかやろー』って思って呆れられちゃうかもしれないけどね」
「うん、うん」
「雅に、ね。『好き』とか『可愛い』って言われるのが、すごく、う、嬉しくて……」
あ、あ、あ。言ってしまった。
本当に何それ、何言っちゃってるの。自分で言っててばかやろーって感じ。
耳まで熱くなってきたけど、野次が入る前になんとか気を持ち直して言葉を続ける。
「今まではそう言われても、どうせ私なんかって思ったり、どうしたらいいのかわからなくて、うろたえてそこで終わってたんだけど。最近は少し考え方が変わったんだ……」
きゅっと一度、唇を真一文字に結ぶ。
「おんなじにね、雅にも嬉しくて幸せな気持ちになってもらいたいの、でも、私の今までが今までだっただけに、言葉だけじゃ上手く伝えきれてなくて……その、どうにか実感、してもらえないかなぁって……」
桐羽さんが言ってた。
思いを通い合わせることができる人、信じることができる人、大切に思い合える人がきっとどこかにいる筈だって。
諦めずに手を伸ばし続ければ、いつか巡り会えるって。
雅が昔、人と関わることで辛い思いをしたのだとしたら、それが全部報われて欲しい。
他力本願で願うのではなくて、私が雅に報いたい。
もしも心の中にスイッチがあるんだとしたら、入ったのはあの日。
私が自分の力で幸せにしたいんだって思った。
「わ、私……変なこと、言ってる?」
恐る恐るふたりを見れば、満面の笑みで答えが返ってきた。
「ううん、ちっとも!」
涼子の言葉に私がホッとするのも束の間。
「それで?」
千夏からの追尾攻撃が始まった。
「実感、て何のこと?」
「え?」
「そんな含みのある言い方じゃ、私はまだよくわかんないなぁ」
「え、だ……だから……」
私に全部言わせる気か、言わせる気……なんだな。
ふたりから、ゴクリと唾を飲む音が聞こえてくる気がする。
返ってくる言葉なんてわかりきっているんだから、そんな真剣な目で見つめないでよ。
「わ……私が、雅を大好きだって……ことを、だよっ」
絞り出すような声で私が言うと「きゃーっ!」とふたりが騒ぎ出す。
何だこれ、もう。中学生かっ!
まだショッピング序盤だと言うのに、既に精神体力共に消耗してしまった気がする。
恥ずかしかった。けど、ちゃんと言って良かったんだよね?
いや、しかし、これからもっとからかわれるのかなぁ……。
複雑な思いで歩いていると、立ち止まった涼子が声を上げた。
「あー、私ここの服好きなんだよね~、見てきて良い~?」
「まぁ、それもいいけどさ……今日は美亜の服を見てあげようよ」
千夏の言葉に、涼子はプゥと頬を膨らませる。
「え……や……」
気持ちはとてもありがたいけれど、そんなことを言われると焦ってしまう。
見てあげると言われた所で、何をどう選んで意見を請えばいいのかわからない私は、「いいよ。涼子の好きなお店、行こうよ」と千夏を促した。
涼子に続いて入ったお店は、黒い壁紙にピカピカの床、反射するミラーボールが眩しい異空間だった。
背後に大音量で流れているユーロビートが、より一層、私を場違いな気持ちにする。
千夏曰く、ここの服は露出が多いので好みではないらしい。
もちろん私も着こなせる気はしない。
恐る恐る、ハンガーにかかっている服を手にとってみる。
例えばこの肩を半分出している服はどう着るんだろう。
私が着て歩いていたら「何でこの人の服、伸びちゃったの」みたいな感じになるんじゃなかろうか。
しかし、お店の女の子が背中がばっくり開いた服を堂々と着こなしている様を見て、着るべき人が着れば服は生きるものだな、なんて感心してしまう。
開いた背中からちらりと見せているヒョウ柄のストラップレスキャミソールもエロかっこいい。
それでも、やっぱり、私が着たところは想像できないし、そんな自分を見たいとも思わないんだけど……。
店員さんも、千夏がまったく興味がない、私が場違いなのを承知のうえなのか、涼子にだけ熱心に話しかけて私達は空気と化していた。
お気に入りが見つかり、ほくほくした涼子を隣に従え、次のお店へと歩を進める。
「美亜はさ、どういう系を目指したいの?」
「どういう……系!?」
今まで考えたこともなかった難易度の高い質問が飛んできた。
でも確かに、自分の目指すべき姿というのは明確にしておいた方がいい気がする。
「え……。えーと、えーと、ね」
通路の中央に設置してあったフロアマップを手にとってみるものの、店の名前じゃ何ひとつわからない。
今まで通過したお店の記憶をたぐり寄せ、ぐるり、ぐるり、と挙動不審気味に周りを見まわす。
「あ……あんなの……可愛い……着てみたいなぁ、と思うけど」
悩んだ挙げ句に私が指した先を見て、ふたりの顔がスッと真顔になる。
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