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2章 あなたと共に過ごす日々
08 策士、策に溺れる・2
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「誘い方が悪い」「雅くんと美亜に何かが起こるのは五分五分」などと言われた汚名を返上するためにも。
『守ってあげたくなっちゃう大作戦』を決行してみる価値はある気がする。
無意識にじいぃっと視線を投げつけていた私に気づいて、雅が不思議そうな顔をする。
「……な、何?」
「これ観たくなってきた」
「えぇ!? 本当に? 今の今まで興味なさそうな顔してなかった?」
「なんか、じわじわ観たくなってきた。観よう」
「……いいけど……」
雰囲気を出すため、部屋の明かりを少し落としてみる。
「そこまでするの!?」
私の気合いの入れように、雅は若干引いていた。
でも、いいの。ドンマイ。
ほら、ちょっとした工夫で恐怖倍増、良い感じだ。
そして観始める。
内容としては、視聴者から投稿されたホームビデオや、動画サイトで人気のあった選りすぐりの恐怖映像100本を、怖い順にランキングして放映していくというもの。
もう既に40本くらいは終わっており、後半戦にスタジオが沸いているところだった。
誰も住んでいない筈のアパートの窓辺に佇む人影が映される。
でもなんだか形がハッキリしない。人影かと言われればそうかもしれないと思うし、太陽の光が作りだした陰影だと言われればそんな気もする。
「人間て無意識に人のカタチとか顔を、空間の中に探してしまう生き物よね」
「ああ。心霊写真とかも、そうだっていうよね」
私も雅もまだ余裕。
さすがにここで「きゃー!」と抱きつくのは早いし、わざとらしいだろう。
そう思っていたら、ナレーターがすかさず説明を付け加えてくれる。
数年前、その部屋で自殺をした人がいた、か。 ……ふ、ふーん。
続いて、真夜中のオフィス。監視カメラに映っている椅子が少しずつ動いている。
「えーと、これは何、どういうことだろう。地盤沈下?」
「ポルターガイストなんじゃない?」
「ほ……本気で言ってるの? 雅」
ポルターガイスト繋がりで、今度は海外から動画サイトに投稿された映像に変わる。
部屋の中にいる犬たちが、皆同じ方角を、一点を見つめている。
飼い主が気を引いても犬達は空間を漂う”何か”を目で追うのをやめない。
一匹が後ずさって、キャン! と高い鳴き声をたてると、クローゼットがバタン! と音を立てて閉まる。
「…………」
「これは、怖いね」
再び日本。入院している友達にビデオを向けている投稿主。
今日はその子の誕生日らしく、数人の友達と集まりささやかにお祝いしている。
みんな談笑しているはずなのに、それよりも大きな音でビデオに残っている低い男の呻き声。
「…………」
「まぁ、病院だしなぁ」
雅はさも当たり前のようにそう言うけど……。病院だから?
入院してる子も友達も皆女の子で、部屋に男の人なんかいないのに?
鏡の前で真顔で座っている子供。それなのに、鏡の向こうの子は笑いながらこちらを見ている。そんなのどうやって撮ったんだ? と首を傾げたくなるものから。
押入れの隙間から伸ばされている白い手。カメラを回している人は絶対にそれが見えている筈なのに、ずっと気がつかずファミリービデオを撮り続けている……などの違和感があるもの。
光の陰影、なんてぼんやりしたもんじゃなく、記憶に鮮明に焼きつくような映像も多かった。
こんなの作りものだ、と思うけど、カメラを一瞬背けると跡形もなく消えているものもあるし。
撮影者の驚いたり怯えている反応が、なんだか嘘にも見えなくなってきて、わけがわからない。
バン! という大きな効果音と供に現れた恐ろしい形相の女の人に、思わず仰け反ったら、背後に鎮座していたヤシ男さんの葉っぱの先が頬を掠めて息が止まりそうになった。
「……ぅ」
思わず低く呻いて、扉や押し入れの隙間から、誰かがこちらを覗いていないか確認してしまう。
雅に抱きつく、とか当初の目的は頭の中から吹き飛んでいた。
体全体が食い入るようにテレビに見入り、カチンと凍りついてしまう気がした。
「こういうのってさ。どこにでもある、ありふれた日常の一瞬なだけに、恐怖心を煽るよね……」
そう言ってる割に、雅はさっきから全然怖そうに見えない。
私は、ツー……と額に嫌な汗をかき始める。
ちょっと、なんだこの番組。話が違う。普通に怖いじゃないか。
席を立とうとする雅のトレーナーの裾を、咄嗟に捕まえる。
「ちょ……っ! どこ行くのっ」
「え、トイレ」
「……そう……」
「…………」
「…………」
「…………怖いなら、消そうよ」
「こ、怖くなんかないわよ」
「無理して観なくても……」
「別に無理じゃない!」
観ようと提案したのは自分なのに、無理でしたとは言い辛いじゃないか。
それより何より、この映像の先に映っていたものは――!? でCMに突入された不完全燃焼感をどうすればいい。
「電気はちゃんと全部点けてから行ってね。躓いたら危ないから……」
「あ……うん」
「はやく行ってきて! あ、でも、CM終わるまでには戻ってきて」
「……ん、うん。わかった。わかったから……。服から手を離してもらえる?」
その言葉で、ようやく我に返る。
雅は伸びきった服の端にしがみついている私の指を、苦労しながら一本一本剥がしていた。
『守ってあげたくなっちゃう大作戦』を決行してみる価値はある気がする。
無意識にじいぃっと視線を投げつけていた私に気づいて、雅が不思議そうな顔をする。
「……な、何?」
「これ観たくなってきた」
「えぇ!? 本当に? 今の今まで興味なさそうな顔してなかった?」
「なんか、じわじわ観たくなってきた。観よう」
「……いいけど……」
雰囲気を出すため、部屋の明かりを少し落としてみる。
「そこまでするの!?」
私の気合いの入れように、雅は若干引いていた。
でも、いいの。ドンマイ。
ほら、ちょっとした工夫で恐怖倍増、良い感じだ。
そして観始める。
内容としては、視聴者から投稿されたホームビデオや、動画サイトで人気のあった選りすぐりの恐怖映像100本を、怖い順にランキングして放映していくというもの。
もう既に40本くらいは終わっており、後半戦にスタジオが沸いているところだった。
誰も住んでいない筈のアパートの窓辺に佇む人影が映される。
でもなんだか形がハッキリしない。人影かと言われればそうかもしれないと思うし、太陽の光が作りだした陰影だと言われればそんな気もする。
「人間て無意識に人のカタチとか顔を、空間の中に探してしまう生き物よね」
「ああ。心霊写真とかも、そうだっていうよね」
私も雅もまだ余裕。
さすがにここで「きゃー!」と抱きつくのは早いし、わざとらしいだろう。
そう思っていたら、ナレーターがすかさず説明を付け加えてくれる。
数年前、その部屋で自殺をした人がいた、か。 ……ふ、ふーん。
続いて、真夜中のオフィス。監視カメラに映っている椅子が少しずつ動いている。
「えーと、これは何、どういうことだろう。地盤沈下?」
「ポルターガイストなんじゃない?」
「ほ……本気で言ってるの? 雅」
ポルターガイスト繋がりで、今度は海外から動画サイトに投稿された映像に変わる。
部屋の中にいる犬たちが、皆同じ方角を、一点を見つめている。
飼い主が気を引いても犬達は空間を漂う”何か”を目で追うのをやめない。
一匹が後ずさって、キャン! と高い鳴き声をたてると、クローゼットがバタン! と音を立てて閉まる。
「…………」
「これは、怖いね」
再び日本。入院している友達にビデオを向けている投稿主。
今日はその子の誕生日らしく、数人の友達と集まりささやかにお祝いしている。
みんな談笑しているはずなのに、それよりも大きな音でビデオに残っている低い男の呻き声。
「…………」
「まぁ、病院だしなぁ」
雅はさも当たり前のようにそう言うけど……。病院だから?
入院してる子も友達も皆女の子で、部屋に男の人なんかいないのに?
鏡の前で真顔で座っている子供。それなのに、鏡の向こうの子は笑いながらこちらを見ている。そんなのどうやって撮ったんだ? と首を傾げたくなるものから。
押入れの隙間から伸ばされている白い手。カメラを回している人は絶対にそれが見えている筈なのに、ずっと気がつかずファミリービデオを撮り続けている……などの違和感があるもの。
光の陰影、なんてぼんやりしたもんじゃなく、記憶に鮮明に焼きつくような映像も多かった。
こんなの作りものだ、と思うけど、カメラを一瞬背けると跡形もなく消えているものもあるし。
撮影者の驚いたり怯えている反応が、なんだか嘘にも見えなくなってきて、わけがわからない。
バン! という大きな効果音と供に現れた恐ろしい形相の女の人に、思わず仰け反ったら、背後に鎮座していたヤシ男さんの葉っぱの先が頬を掠めて息が止まりそうになった。
「……ぅ」
思わず低く呻いて、扉や押し入れの隙間から、誰かがこちらを覗いていないか確認してしまう。
雅に抱きつく、とか当初の目的は頭の中から吹き飛んでいた。
体全体が食い入るようにテレビに見入り、カチンと凍りついてしまう気がした。
「こういうのってさ。どこにでもある、ありふれた日常の一瞬なだけに、恐怖心を煽るよね……」
そう言ってる割に、雅はさっきから全然怖そうに見えない。
私は、ツー……と額に嫌な汗をかき始める。
ちょっと、なんだこの番組。話が違う。普通に怖いじゃないか。
席を立とうとする雅のトレーナーの裾を、咄嗟に捕まえる。
「ちょ……っ! どこ行くのっ」
「え、トイレ」
「……そう……」
「…………」
「…………」
「…………怖いなら、消そうよ」
「こ、怖くなんかないわよ」
「無理して観なくても……」
「別に無理じゃない!」
観ようと提案したのは自分なのに、無理でしたとは言い辛いじゃないか。
それより何より、この映像の先に映っていたものは――!? でCMに突入された不完全燃焼感をどうすればいい。
「電気はちゃんと全部点けてから行ってね。躓いたら危ないから……」
「あ……うん」
「はやく行ってきて! あ、でも、CM終わるまでには戻ってきて」
「……ん、うん。わかった。わかったから……。服から手を離してもらえる?」
その言葉で、ようやく我に返る。
雅は伸びきった服の端にしがみついている私の指を、苦労しながら一本一本剥がしていた。
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