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1章 そんな風に始まった
06 あさちゅんの続き
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「ご……ごめん!! ごめんなさいっ!! お……俺……っ……君になんてこと……。本当、これ……警察に突き出されても何も文句言えないっていうか……っ」
床に頭が付きそうな勢いで土下座してくる。
あれ?
なんかちょっと拍子抜けした。
男の子なんてもっとドライなもんだと思ってた。
酔った俺を家に連れ込んだんだから、君もOKってことだったんでしょ? なんて。
都合よく押し切られて、次の日から何事もなかったかのように接するもんだと思ってた。
記憶が無いなら言い訳くらい始めるかと思ってたのに。
自ら警察とか言い出すなんて……なんて馬鹿な人なの。
本当に突き出されたらシャレにならないのに、自爆にもほどがある。
「パンツくらい履けば?」
私はそう言って、ベッドの脇に脱ぎすてられているアロハ柄のトランクスを指さす。
雅は、全裸だったことに今頃気づいたらしく、あわあわとトランクスに手を伸ばした。
「酔ってても時々急に、妙に理性的になるんだよね」
「……え……?」
「酔っててもちゃんと避妊はしてたわよ。大切にしてたのね。ミナ」
コンドームが捨てられているゴミ箱を指さす。
避妊率が100パーセントではないにしても、もう生理予定日の一週間を切っている。
妊娠する可能性は限りなく低いだろう。
淡々と口にする私に、雅は少し困惑した表情を浮かべる。
「なん……で、そんなに冷静なの……」
私は変なのだろうか。
この人が変なのだろうか。
雅が散らばった服を掻き集め、着替えを始めたので、私もベッドから体を起して床に落ちている下着に手を伸ばす。
体を隠しもしない私から、雅は真っ赤な顔をして必死に見まいと目を逸らしていた。
昨夜、あなたが脱がせたんですけど?
飲むと性格が変わるのか、ミナの前では違うのか。
別にどっちでも、いいけれど。
雅は着替え終わると、そろそろとゴミ箱に近づいて、動かぬ証拠を前に落胆していた。
それこそ背中にキノコが生えてくるんじゃないかと思うくらい、ズーン……と。
もしかしたら、まだちょっと夢だったら良かったな……って思っていたのかもしれない。
まぁ、私も悪かった。
元カノと勘違いされている状況で、期待を持たせるようなことを言ってしまった。
箍を外してしまった自覚はある。
ただ、男の人という生き物を全然理解していなかったので、あんなことであんなことになるなんて想像もしていなかったんだけど。
ジメジメしている隣に一緒に屈んでみる。
「イマドキ、大学生なんて普通なんでしょう? 知らないけど」
そう言うと、雅はちょっと複雑な顔をして黙り込んだ。
雅だってミナとしていたのに、それと何が違うと言うのか。
「別にいい。処女なんて恋愛するのに重いだけだと思っていたし」
「そんなこと……絶対ないよ……」
この状況下でそれを言っても、全然説得力が無いけれど。
承知の上でなのか、苦しそうに雅はそう口にした。
その後はまた暫く黙り、難しそうな顔で何かを考え込んでいるようだった。
「なんか……」
「え?」
「もっと、普通は…………」
雅は少し躊躇いがちに言葉を続ける。
「怒ったり、ショックを受けるんじゃない? 傷ついたりとか」
何を言い出すんだろう、この人は。
「私がショックを受けたり、傷ついた方が良かった? 警察呼ばれた方が良かったとでも言いたいの?」
「…………」
雅は俯き、やはり口にするべきではなかったと思い直したらしい。
小さく「……ごめん……」と呟いた。
この人が何を言いたいのか、私にはさっぱり理解できなかった。
ただ、私が『普通』でないのは、欠落している人間であることは、私が一番良く分かっているつもりで。
恋心を理解できないと、理解できない気持ちが人よりも多いのかもしれないなんて。
そう考えたら、そっちの方が傷ついた。
「もう帰って。大丈夫だから。私もバイト行かなくちゃ」
なんだか面倒くさくなってきた。
どうでもいい。
私は押入れに備え付けてあるキャスターケースから、押し込まれている服を適当に引っ張り出す。
「好きな人、いないの?」
「いない、それが何? 関係ないでしょう」
つい、トゲトゲした言い方になってしまった。
初恋もしたことがない。
千夏と涼子に恋人ができたから。
繰り返す毎日に、何かを頑張る理由が欲しかったから。
彼氏が欲しいとは、思ったけど。
好きな人が欲しいのか。
恋をしたいのか。
私は何を望んでいるのか。
そう問われるとよくわからない。
私の気持ちの根源は、未だにとても曖昧だった。
「じゃあ」
私の思考は雅の発言によって途切れる。
「良かったら俺と付き合ってください」
今度は私が、不思議そうな顔で雅を見つめ返す番だった。
罪悪感からか。
俺は一晩寝たらさよならなんて、そんな人間じゃないんです、とでも言いたいのか。
ミナに振られた寂しさの穴埋めをしたいのか。
色々な考えが頭をよぎったけれど、この際どうでもいいのかもしれないと思った。
昨夜も似たような提案を聞いたのを思い出した。
私も手っ取り早く彼氏が欲しかったのだから。
そっちがそういうのなら、それに便乗して利用すればいいだけのこと。
「いいわよ」
別に、有野くんが雅になっただけのこと。
私にとっては、ただ、それだけのこと。
「宜しくね、俺、神庭雅」
雅は懐っこい笑顔で、本当はもう知っていたその名前を、改めて口にした。
「私は、浅木美亜」
差し出された右手に右手を添える。
こうして私に彼氏ができた。
床に頭が付きそうな勢いで土下座してくる。
あれ?
なんかちょっと拍子抜けした。
男の子なんてもっとドライなもんだと思ってた。
酔った俺を家に連れ込んだんだから、君もOKってことだったんでしょ? なんて。
都合よく押し切られて、次の日から何事もなかったかのように接するもんだと思ってた。
記憶が無いなら言い訳くらい始めるかと思ってたのに。
自ら警察とか言い出すなんて……なんて馬鹿な人なの。
本当に突き出されたらシャレにならないのに、自爆にもほどがある。
「パンツくらい履けば?」
私はそう言って、ベッドの脇に脱ぎすてられているアロハ柄のトランクスを指さす。
雅は、全裸だったことに今頃気づいたらしく、あわあわとトランクスに手を伸ばした。
「酔ってても時々急に、妙に理性的になるんだよね」
「……え……?」
「酔っててもちゃんと避妊はしてたわよ。大切にしてたのね。ミナ」
コンドームが捨てられているゴミ箱を指さす。
避妊率が100パーセントではないにしても、もう生理予定日の一週間を切っている。
妊娠する可能性は限りなく低いだろう。
淡々と口にする私に、雅は少し困惑した表情を浮かべる。
「なん……で、そんなに冷静なの……」
私は変なのだろうか。
この人が変なのだろうか。
雅が散らばった服を掻き集め、着替えを始めたので、私もベッドから体を起して床に落ちている下着に手を伸ばす。
体を隠しもしない私から、雅は真っ赤な顔をして必死に見まいと目を逸らしていた。
昨夜、あなたが脱がせたんですけど?
飲むと性格が変わるのか、ミナの前では違うのか。
別にどっちでも、いいけれど。
雅は着替え終わると、そろそろとゴミ箱に近づいて、動かぬ証拠を前に落胆していた。
それこそ背中にキノコが生えてくるんじゃないかと思うくらい、ズーン……と。
もしかしたら、まだちょっと夢だったら良かったな……って思っていたのかもしれない。
まぁ、私も悪かった。
元カノと勘違いされている状況で、期待を持たせるようなことを言ってしまった。
箍を外してしまった自覚はある。
ただ、男の人という生き物を全然理解していなかったので、あんなことであんなことになるなんて想像もしていなかったんだけど。
ジメジメしている隣に一緒に屈んでみる。
「イマドキ、大学生なんて普通なんでしょう? 知らないけど」
そう言うと、雅はちょっと複雑な顔をして黙り込んだ。
雅だってミナとしていたのに、それと何が違うと言うのか。
「別にいい。処女なんて恋愛するのに重いだけだと思っていたし」
「そんなこと……絶対ないよ……」
この状況下でそれを言っても、全然説得力が無いけれど。
承知の上でなのか、苦しそうに雅はそう口にした。
その後はまた暫く黙り、難しそうな顔で何かを考え込んでいるようだった。
「なんか……」
「え?」
「もっと、普通は…………」
雅は少し躊躇いがちに言葉を続ける。
「怒ったり、ショックを受けるんじゃない? 傷ついたりとか」
何を言い出すんだろう、この人は。
「私がショックを受けたり、傷ついた方が良かった? 警察呼ばれた方が良かったとでも言いたいの?」
「…………」
雅は俯き、やはり口にするべきではなかったと思い直したらしい。
小さく「……ごめん……」と呟いた。
この人が何を言いたいのか、私にはさっぱり理解できなかった。
ただ、私が『普通』でないのは、欠落している人間であることは、私が一番良く分かっているつもりで。
恋心を理解できないと、理解できない気持ちが人よりも多いのかもしれないなんて。
そう考えたら、そっちの方が傷ついた。
「もう帰って。大丈夫だから。私もバイト行かなくちゃ」
なんだか面倒くさくなってきた。
どうでもいい。
私は押入れに備え付けてあるキャスターケースから、押し込まれている服を適当に引っ張り出す。
「好きな人、いないの?」
「いない、それが何? 関係ないでしょう」
つい、トゲトゲした言い方になってしまった。
初恋もしたことがない。
千夏と涼子に恋人ができたから。
繰り返す毎日に、何かを頑張る理由が欲しかったから。
彼氏が欲しいとは、思ったけど。
好きな人が欲しいのか。
恋をしたいのか。
私は何を望んでいるのか。
そう問われるとよくわからない。
私の気持ちの根源は、未だにとても曖昧だった。
「じゃあ」
私の思考は雅の発言によって途切れる。
「良かったら俺と付き合ってください」
今度は私が、不思議そうな顔で雅を見つめ返す番だった。
罪悪感からか。
俺は一晩寝たらさよならなんて、そんな人間じゃないんです、とでも言いたいのか。
ミナに振られた寂しさの穴埋めをしたいのか。
色々な考えが頭をよぎったけれど、この際どうでもいいのかもしれないと思った。
昨夜も似たような提案を聞いたのを思い出した。
私も手っ取り早く彼氏が欲しかったのだから。
そっちがそういうのなら、それに便乗して利用すればいいだけのこと。
「いいわよ」
別に、有野くんが雅になっただけのこと。
私にとっては、ただ、それだけのこと。
「宜しくね、俺、神庭雅」
雅は懐っこい笑顔で、本当はもう知っていたその名前を、改めて口にした。
「私は、浅木美亜」
差し出された右手に右手を添える。
こうして私に彼氏ができた。
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