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1章 そんな風に始まった
05 爽やかな朝にリス
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軽やかな小鳥のさえずり、トラックが大通りを行き交う音、まだ人の声が聞こえるような時間帯では無いけれど、意識の奥底で朝が来たことを認識する。
視界がぼんやりと白んで……。
「すぅ……」
小さな――自分以外の呼吸に、心臓が止まりかけた。
やってしまった。
規則正しい息遣い。
確かに隣に存在している温もりに、私は頭を抱え込む。
未だ体の節々に倦怠感が残っている、こんなに疲れた目覚めの悪い朝は初めてだった。
視界に入れないように努めていた、脱ぎ捨てられた服が散乱しているこの部屋を、私はどこか他人事のようにボケっと眺め溜息をつく。
行きずりで男の人と寝るなんて、そんなの、起きたとしたって対岸の火事っていうか、絵空事っていうか。
千夏に借りた漫画にあったわよ。
酔って記憶を失って、朝目が覚めたら隣に知らない男の人が寝てるんだよね。
びっくりしたヒロインが胸元を慌てて隠しながら、こう言うの。
『わ……わたし……わたし……もしかして……あなたと……』
男はゆっくり煙草を吹かしながら、余裕たっぷりにこう答える。
『昨日は、可愛かったよ』
まぁ、今のこの状況は……。
男女のポジションが、まったく逆なんだけど。
私が起き上がった反動で布団がめくれ、雅は寒そうに体をまるめている。
小さくてちゃちなパイプベッドに、やっと収まるように眠っている、その姿はまるで。
「冬眠中の……リス……?」
雅の寝顔は、それはそれは幸せそうで。
もしかしたら昨夜の続きで、ミナとよりを戻せた夢でも見ているのかもしれない。
隣に知らない――ミナではない女が寝ていたら残念がるんだろうな……。
私がそんなことを気にする立場ではないんだけど、少し複雑な気持ちになる。
さてどうしようか……起こすべきか、否か。
「ん……」
カーテンの隙間から入り込む朝日が眩しいのか、雅は寝がえりをうちながら日差しから逃れようとしている。
布団の中に退避しようと試みるものの、狭くてそれもままならず眉間にしわが寄る。
これは別に私が起こさなくても――。
時間の問題かな、と思ったのと、雅が目を覚ましたのはほぼ同時。
「………」
覗きこんでいた私と、数秒、目が合う。
くりっとした瞳からは、あれ? っという声が聞こえてきそうで、雅はこの状況をまるで理解できていないようだった。
雅は大きく瞬きを一、二回繰り返して、一糸縫わぬ私の姿を確認する。
驚くんだろうなぁ、とは思っていたけれど、案の定相当驚いたようで。
「うわあああぁぁ!? ……あ、わ、うわあああぁぁぁ……っ!!」
最初の「うわぁ」は私に、最後の「うわぁ」はバランスを崩したことによる叫び。
驚いて私から飛びのいた雅は、その拍子にベッドから落っこちた。
「…………」
なんていうか、真っ裸であることも手伝って、それはすごく滑稽な姿だったんだけど。
私は、ぷ、と吹き出したい気持ちを懸命に抑え込んだ。
雅は慌てふためいて真っ青になっているので、さすがに笑うのは躊躇われる。
「あ……ぇ……えと……」
しどろもどろになりながら、酔いの抜けきらない頭をフル回転させている。
とりあえず夢から覚めて現実に戻ってきてくれたようで何よりだ。
「俺……あの……君に……え……えっと……」
何かいかがわしいことしましたか? きっとそう聞きたいんだろう。
緊張した面持ちで、ベッドの上には帰って来ず、床の上で正座している。
多分、悪い人じゃぁ……ないのよね。
でも昨夜から散々振りまわされた。
何もなかったわよ、なんて。
庇ってあげるほど私はお人よしでもないけどね。
「酔って私を元カノと勘違いした挙句、私のバージンをかっさらっていったけど?」
それが何か? なんて。
にこっと笑顔を作って言ってやると、雅は青いを通り越して蒼白になった。
衝撃を受けて、口が四角の状態で固まっている。
「ご……」
誤解です?
視界がぼんやりと白んで……。
「すぅ……」
小さな――自分以外の呼吸に、心臓が止まりかけた。
やってしまった。
規則正しい息遣い。
確かに隣に存在している温もりに、私は頭を抱え込む。
未だ体の節々に倦怠感が残っている、こんなに疲れた目覚めの悪い朝は初めてだった。
視界に入れないように努めていた、脱ぎ捨てられた服が散乱しているこの部屋を、私はどこか他人事のようにボケっと眺め溜息をつく。
行きずりで男の人と寝るなんて、そんなの、起きたとしたって対岸の火事っていうか、絵空事っていうか。
千夏に借りた漫画にあったわよ。
酔って記憶を失って、朝目が覚めたら隣に知らない男の人が寝てるんだよね。
びっくりしたヒロインが胸元を慌てて隠しながら、こう言うの。
『わ……わたし……わたし……もしかして……あなたと……』
男はゆっくり煙草を吹かしながら、余裕たっぷりにこう答える。
『昨日は、可愛かったよ』
まぁ、今のこの状況は……。
男女のポジションが、まったく逆なんだけど。
私が起き上がった反動で布団がめくれ、雅は寒そうに体をまるめている。
小さくてちゃちなパイプベッドに、やっと収まるように眠っている、その姿はまるで。
「冬眠中の……リス……?」
雅の寝顔は、それはそれは幸せそうで。
もしかしたら昨夜の続きで、ミナとよりを戻せた夢でも見ているのかもしれない。
隣に知らない――ミナではない女が寝ていたら残念がるんだろうな……。
私がそんなことを気にする立場ではないんだけど、少し複雑な気持ちになる。
さてどうしようか……起こすべきか、否か。
「ん……」
カーテンの隙間から入り込む朝日が眩しいのか、雅は寝がえりをうちながら日差しから逃れようとしている。
布団の中に退避しようと試みるものの、狭くてそれもままならず眉間にしわが寄る。
これは別に私が起こさなくても――。
時間の問題かな、と思ったのと、雅が目を覚ましたのはほぼ同時。
「………」
覗きこんでいた私と、数秒、目が合う。
くりっとした瞳からは、あれ? っという声が聞こえてきそうで、雅はこの状況をまるで理解できていないようだった。
雅は大きく瞬きを一、二回繰り返して、一糸縫わぬ私の姿を確認する。
驚くんだろうなぁ、とは思っていたけれど、案の定相当驚いたようで。
「うわあああぁぁ!? ……あ、わ、うわあああぁぁぁ……っ!!」
最初の「うわぁ」は私に、最後の「うわぁ」はバランスを崩したことによる叫び。
驚いて私から飛びのいた雅は、その拍子にベッドから落っこちた。
「…………」
なんていうか、真っ裸であることも手伝って、それはすごく滑稽な姿だったんだけど。
私は、ぷ、と吹き出したい気持ちを懸命に抑え込んだ。
雅は慌てふためいて真っ青になっているので、さすがに笑うのは躊躇われる。
「あ……ぇ……えと……」
しどろもどろになりながら、酔いの抜けきらない頭をフル回転させている。
とりあえず夢から覚めて現実に戻ってきてくれたようで何よりだ。
「俺……あの……君に……え……えっと……」
何かいかがわしいことしましたか? きっとそう聞きたいんだろう。
緊張した面持ちで、ベッドの上には帰って来ず、床の上で正座している。
多分、悪い人じゃぁ……ないのよね。
でも昨夜から散々振りまわされた。
何もなかったわよ、なんて。
庇ってあげるほど私はお人よしでもないけどね。
「酔って私を元カノと勘違いした挙句、私のバージンをかっさらっていったけど?」
それが何か? なんて。
にこっと笑顔を作って言ってやると、雅は青いを通り越して蒼白になった。
衝撃を受けて、口が四角の状態で固まっている。
「ご……」
誤解です?
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