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第4章 婚約、そして女王教育の始まり

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ニコルが女王になる決意をしてから三ヶ月後。エランヴェール国内、特に貴族やニコルの周囲では大きな変化が起きた。
ニコルの決意を聞いた国王は、すぐに女王制を確立。さらに、国内外にニコルの存在を発表した。その際に、忌み子は迷信であり神から授かった命の重さを説いた。
うしなわれたと思っていた後継者の存在に国民の興奮冷めやらぬ中、ニコルは再び王城へ入ることになる。
だが、前回と違って次期女王として足を踏み入れるのだ。次にこの領地へ戻る時は、王女または女王としての視察になり、辺境伯家のニコルではない。
「私が王女になっても、父様と母様は2人だけよ。もちろん兄様もね」
ニコルはそう言うと、父、母、兄、義姉とハグをした。
「ごめん。ニコル。俺が不甲斐ないせいで」
アルテューユはこの三ヶ月ずっとニコルに謝っている。
「兄様。私は私の役目を果たすだけ。兄様は何も悪くないわ。でもね、もし兄様の代で領地の織物が売れなくなったら、責任は取ってもらうからね」
ニコルが笑うと、アルテューユは「そんなことにはならない」と笑う。つられるように、アランとアゲハが笑った。その後ろでは、ハヤテがずっと号泣している。
「ハヤテ。長生きして兄様の子供達も鍛えてあげてね」
「もちろんです」
ハヤテは手ぬぐいで顔をグイグイこすりながら答える。
「ハヤテをいくつだと思っているのだ。いい加減、隠居してもらう」
アランが呆れたように言うが、ハヤテは「まだまだ現役です」と胸を張る。
「まぁ、気の済むようにさせましょう」
アゲハも呆れたように笑う。
「母様はハヤテに頼りすぎです」
アルテューユが渋い顔をすれば、同じ表情でアランが「そうだな」と頷いた。
ニコルはいつも通りの家族風景に心が温まる。
その一方で味方のいない王城へ乗り込むのだという事実が頭をよぎる。
「ニコル。城に私達はいないけど、アルディ公爵様がいらっしゃるわ。それに、貴方ならすぐに周りの人達を味方にできるわ」
アゲハはニコルの両手を包む。
「ありがとう。母様」
ニコルはアゲハを安心させるように笑って見せた。
「そろそろ、参りましょう。ニコル王女殿下」
ルイが馬車の扉を開ける。
「えぇ」
ニコルはルイの手を取って馬車に乗り込んだ。
「行ってらっしゃい。ニコル」
別れの挨拶をする前にアゲハが声を掛けた。
「行ってらっしゃい」
アランやアルテューユ夫妻、ハヤテや使用人達が続く。
ニコルは今日で別れではない。また会えるのだと気が付く。
「行ってきます」
大きな声で手を振る。
馬車が走り出しても両親や兄夫婦、使用人達は手を振り続ける。さらに、領民達が、あちらこちらで見送ってくれる。ニコルはみんなに向かって「行ってきます」と声を掛ければ「ニコル様行ってらっしゃい」と返してくれた。幼い頃から温かく見守ってくれた人達との思い出がよみがえり、涙がこみ上げて来る。
慌ててハンカチを取りだそうとすると、向かいの席からハンカチを渡された。
「ありがとう」
ニコルは車窓に視線を送ったまま、ハンカチで涙を拭う。
「どういたしまして」
どこか皮肉めいた声に対面を向く。
「マカオン。貴方、マカオンなの」
ニコルが驚くのも無理はない。
ニコルが女王になることを宣言した日、マカオンは別れも告げずラーンジュ領を去った。それ以来、音信不通になっていたのである。さらに、目の前にいるマカオンは腰まであった髪を短く切り、優美な雰囲気が薄れ軍人のような精悍さが増していた。
「俺じゃなかったら、ここにいるのは誰だ」
「そうだけど」
ニコルは口ごもる。言いたいことは山ほどある。別れも言わずに姿を消して何をしていたのか。何度か、アルディ家に手紙を送ったのに、返事はどうしたのか等々。
「それより、俺を無視しすぎだ」
「仕方がないでしょう。しばらく会えなくなるのだから」
「ふうん」
「いつから、騎士になったの」
「文官にはなったが、騎士になってはいない」
文官と言い張るマカオンだが、王城の護衛服を身に纏っている。
ニコルには訳がわからない。自分の領地に引きこもっていたはずのマカオンが、なぜ王城で文官をしているのか。護衛服を着てここにいるのか。
「この服は、馬車に乗り込むのに都合が良かっただけだ」
「はぁ?どういうこと」
ニコルが胡乱うろんな目を向けると、マカオンは短い髪をぐしゃぐしゃと掻いた。
「お前一人で王城へ行かせたら何が起きるかわからないだろう。だから、父上の下で文官として働くことにした」
「嘘」
「本当だ。それに、アルディ公爵家の跡取り問題を片付けるのに忙しかったのだ」
「は?公爵家の跡取り問題って何?」
アルディ公爵家の跡継ぎはマカオンだ。それはニコルでも分かっている。それをどうして話し合わないといけないのか。
「それはもう片付いた。だから、俺がお前の王配になってやる」
「え・・・・・・」
唐突すぎるプロポーズにニコルは目を白黒させる。
「なんだ。嫌なのか」
マカオンは扉に手を掛け「仕方ない。降りるか」と呟く。
「ちょっと、まだ何も言ってないでしょ」
ニコルはマカオンの腕を掴む。慌てるニコルにマカオンはしたり顔をする。
「でも、いいの。王になりたくないのでしょう」
「王にはなりたくないとは言ったが、王配になりたくないとは言ってない」
詭弁きべんよ。後悔しても知らないから」
マカオンは掴まれた腕を返すとニコルの手を掴んだ。
「お前を一人で行かせたら後悔する。だから公爵家は親に任せて来た」
マカオンはニコルの手を引っ張る。ニコルは対面に座るマカオンの腕に飛び込むような形になると、マカオンは力強く抱き締めた。
「ありがとうマカオン。本当は不安だったの。でも、マカオンとなら、何でもできそう」
先程まで寂寥せきりょうの涙が流れていたニコルの目から喜びの涙がこぼれる。
「あんまり無茶するなよ」
マカオンはニコルの背中を優しくさすった。

◇◇◇
ニコルとマカオンは無事に王城へ入った。
ところが、早速ニコルは女官長を困らせたのである。
ニコルの部屋は国王夫妻の私室と同じ階に用意されていた。
「どうして私の部屋がここなの?」
王族なのだから当然なのだが、ニコルは納得がいかないらしい。困り顔の女官長はどう説明しようかとマカオンをチラリと見た。
「どこか希望の部屋があったのか」
マカオンは仕方がないとニコルに声をかける。すると、ものすごい早さでニコルが振り返って答えた。
「後宮よ」
「はぁ?」
マカオンは呆れた。なぜ、王女が後宮に入るのだ。
「恐れながらニコル様。後宮は・・・・・・」
「後宮にはお姉様方がいらっしゃるじゃない。教えて欲しいことがあればすぐに聞きに行けるわ。ここだと、後宮へ行きにくいじゃない」
マカオンはそこで女王になると決意した時、ニコルが後宮の女達から刺繍や社交術を習おうとしていたことを思い出した。
「お前、本気だったのか」
「当たり前でしょ」
ニコルは胸を張る。
「そう言われてもなぁ」
マカオンが女官長を振り向くと女官長は絶対にダメだ、と首を振る。
「国王陛下に自分で交渉するしかないな。女王になるのなら、それぐらいできないと厳しいぞ」
「わかったわ。それで、陛下はどこにいらっしゃるの?」
ニコルは早速、交渉しようとする。
「陛下とは後で挨拶をする時間が設けてある。それまで、ここで休んでおけ」
マカオンはニコルを部屋に残して、その間に父のアルディ公爵に相談しようとするがニコルはじっとしていなかった。
「それなら、後宮のお姉様達に挨拶に行くわ。前回、騙したことを謝りたいし、これからのこともお願いしたいもの」
「お待ちください。後宮は陛下以外立ち入り禁止です。王女殿下が足を踏み入れるなどもってのほかです」
女官長が必死に止める。
「大丈夫よ。私は騎士として入ったことあるし」
「以前は騎士だったかも知れません。ですが、今は王女殿下です」
2人はマカオンに助けを求める視線を送る。
「あぁ、もう、面倒くさい。ニコル行くぞ」
「やったぁ」
「マカオン様。ニコル様」
「済まないが、このことは内密に頼む」
マカオンは女官長にウインクしてみせた途端に、険しい顔をしていた女官長はポーッとした女性の顔になる。
女官や侍女に無理なお願いをする時にウインクして見せると、たいてい上手くいく。文官として働くうちに身に付けたマカオンの処世術である。
マカオンはニコルの腰に手を回すと後宮へ案内した。

後宮へ向かうと丁度、庭でお茶会をしていた。
マカオンとニコルが姿を現すとジルとアデールが立ち上がる。
「ごきげんよう。マカオン様」
2人は揃って挨拶をした。
「ごきげんよう」
レナータは座ったまま挨拶する。
「お寛ぎのところ失礼します」
マカオンは挨拶をするとニコルも頭を下げた。
「ニコル王女がご挨拶したいというので、お連れしました」
「まぁ、そうでしたの。早く仰ってください」
レナータは慌てて立ち上がった。
「初めまして。ニコルと申します」
ニコルは王城の作法に則ってお辞儀をする。
レナータとジル、アデールは驚いた表情をした。
「お姉様方、お座りください」
ニコルは事情を説明するために、レナータ達に座ってもらう。
「実は、お姉様方とは以前お会いしているのです」
ニコルの発言にレナータ達は顔を見合わせる。
「以前、こちらで療養していたフランソワーズは私です」
「まぁ、そうでしたの。どうりで声が同じだと思ったわ」
レナータが言うとジルとアデールも頷く。
「お声だけではなく、立ち姿が一緒ですもの。双子とはいえ、王女として育った方と騎士だった方では立ち方が違います」
ジルが鋭い指摘をした。
「まぁ、素晴らしい観察眼です。やっぱり、お姉様方にお願いしたいわ」
ニコルは一人ではしゃぐ。
「きちんと説明しないとわからないだろう」
マカオンが小声で囁く。
「あぁ、そうだった。あの、私の王女教育をお姉様方にお願いできませんか」
ニコルの提案にレナータ達は、キョトンとしている。
「王女ではなく、女王になるための教育です」
マカオンが訂正した。
「どっちでもいいわ。それで、お姉様方の特技を私に教えていただきたいのです。アデール様には刺繍とレース編み、ジル様には社交術と貴族達の情報、レナータ様には王族としての振るまいとグラディス帝国の歴史など教養全般です」
ニコルが一気に話すと、レナータが堪えきれずに笑い出す。すると、つられるようにジルとアデールが笑い出した。
「まぁ、ニコル様って面白い方。私達は構いません。暇を持て余していますもの。ねぇ」
レナータがジルとアデールに同意を求めると、2人は微笑みながら頷く。
「ですが、陛下がお許しになるかしら。そもそも、後宮へ立ち入ることさえ、お許しにならないのではなくて」
レナータの問いかけにニコルは笑って答える。
「それは、これから取ります」
「でも、すでに立ち入っていますよね」
ジルが不安そうにニコルとマカオンを見る。
「ですから、今ここでのことは内緒にしてください。お願いします」
ニコルが頭を下げる。
「やっぱり、面白い方。いいですよ。黙っておきます。後宮の護衛や侍女達にも口止めしておきますわ」
レナータが約束してくれた。
「やっぱり、お姉様方は、お優しいわ。大好き」
ニコリと笑う。
「まぁ、困りましたね。レナータ様。王女殿下は手強そうですよ」
「そのようね」
「えぇ」
ジルの言葉にレナータとアデールが相槌を打つ。だが、3人ともニコニコしながらニコルを見つめていた。

夕方、国王夫妻へ挨拶の機会が、国王夫妻の私室で設けられた。
互いに儀礼的な挨拶を交わすと国王がニコルに言った。
「ニコル、必要なモノがあったらなんでもいいなさい」
ニコルは待っていましたとばかりに、ニコリと笑う。マカオンはニコルの隣でハラハラした。
「それでは早速ですが、部屋を後宮に移してください。以前、私が騎士として使っていた部屋で構いません。それと、後宮のお姉様方を私にください。私の教育係になっていただきます」
一方的にニコルが要求を突きつけると、国王夫妻は互いの顔を見合わせて唖然としている。
「ちょっと待て。なぜ、後宮に部屋を移す必要がある」
「そうです。本来、後宮には陛下以外、入れないのですよ」
国王だけではなく、王妃も眉をひそめる。
「後宮のお姉様方にいつでも教育していただくためです」
「帝王学ならば、こちらで一流の講師を用意している。あそこの女達に教わることは何もない」
国王は不機嫌に言い放つ。だが、ここで諦めるニコルではない。
「陛下はレナータ様やジル様、アデール様の特技をご存じですか」
「興味がないな」
「人質として閉じ込めていればそれでいいと?人材は有効に使うものです。私は、両親からそう教わりました」
辺境地では人は宝だ。互いの特技を活かし、知恵を出し合って領地を豊かにして来たのである。
ニコルは女王になることを決めてから、改めて前の大戦や復興までの過程を勉強し直した。そこで、少ない資源をいかに活かすかが大切だと学んだのである。
「それならば聞こう。誰から何を学ぶのだ」
「まず、アデール様には淑女の嗜みである刺繍やレース編みを。ジル様には社交術や情報収集を。レナータ様には王女としての振る舞いとグラディス帝国の歴史を学びます」
ニコルの提案を国王は鼻で笑う。
「どれも一流の講師を招く。素人に教わる必要はない」
「そうでしょうか」
「どういうことだ」
「私は幼い頃から珠璃の剣豪と呼ばれた人物から剣術と珠璃国のことを学び、エランヴェールの王子であった父から国のことを学びました。どちらも、生きた知識です。学者の先生から学ぶのも大切ですが、それなら本で読むのと変わりません。グラディス帝国のことはグラディスの皇女として生まれ育ったレナータ様から、レナータ様自身が見聞きしたことや体感したことを含めて教わりたいのです。それはジル様やアデール様も同じです。ジル様ご自身が実践してきたことや、アデール様が生み出した技術を学んだ方がより実践的ではありませんか。私には猶予が残されていません。座学で悠長に学んでいるわけにはいかないのです」
ニコルの説得に国王は考え込む。
「では、ニコル。ローリエ王国とレジン国のことは誰から学ぶのですか」
王妃の問いにニコルは笑って答えた。
「もちろんレジン国のことは、マカオンから。ローリエ王国のことは王妃様に教えていただきます」
「そう。私は構いませんよ。マカオンはどうかしら」
「私も異存はありません。私はレジン国に何度も行っています。レジン国ことはレジン国王から学びましたので、ニコル王女の希望を叶えられると思います」
ニコルはマカオンがレジン国に行っていたことを知らなかったので、驚いたが表情に出さないように堪えた。
「ちょっと待て。私は許可した覚えはない。勝手に進めるな」
勝手に話が進んでいることに気が付いた国王が止めるが、王妃は「ふふふ」と笑う。
「こんなにしっかり考えて決めたことです。すでに後宮の方々からお返事をいただいているのでしょう?」
「はい」
ニコルが返事をすると王妃は国王に笑いかける。
「ねぇ、もう止めるのは難しいと思いますよ」
諦めなさいとばかりに王妃は国王を宥めた。
「仕方がないな。マカオン。ニコルの習熟度を調べて必要な講師を伝えなさい」
「承知しました」
マカオンは頭を下げる。
「ただし、後宮に住むのは反対だ」
「なぜですか。ここから後宮へは遠いです。それに、言いたくはありませんが国王陛下と王妃様は私とは距離を置いた方がいいと思います」
頭に血が上ったニコルは禁句だと言い聞かせていたことを口にした。
「どういうことだ」
「お2人とも、私から目を逸らしていますよね」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
挨拶をした時から今まで国王と王妃は、ニコルと視線が合いそうになるとスッと視線を外していた。
「王女殿下を亡くした後ですから仕方のないことだと思います。お2人の気持ちに整理がつくまで、私は後宮で勉強に集中します。それではいけませんか」
ニコルは無理に自分を認めて欲しいとは思っていない。離ればなれになったうえ、姉を亡くしたばかりの3人が、家族に戻るのは今ではないとニコルは感じていた。そもそも、家族に戻れるのかもわからないが、どちらにせよ今は互いの傷を癒やす時間が必要だ。
「そうだな。わかった」
「・・・・・・。ありがとう。ニコル」
「いいえ。では、後宮に住んでもいいのですか」
「・・・・・・。あぁ。ただし、後宮という名は廃止だ。離宮が消失した今、後宮を離宮と改めて王女の宮殿としよう」
「陛下。それでは離宮ではなく太陽宮(ソレイユ)という名前にしませんか。ニコルにぴったりだと思います」
王妃が提案すると国王は少し考え、初めて笑みを見せた。
「それはいい。後宮をソレイユとしよう。2人ともいいな」
「はい。ありがとうございます」
ニコルは希望が叶うと共に、新しい名前宮殿を与えられて満足した。
「それから。お前達の婚約は時期をみて国民に発表する」
「へ?」
ニコルは驚いて素っ頓狂な声を上げた。
プロポーズされて承知したのは数時間前だ。なぜ、こんなに早く事が運ぶのか。
ところが、ニコルの驚きを国王は違う意味に捉えた。
「まぁ、すぐに婚約して結婚したいのはわかるが、まずは女王になる準備が必要だ。マカオンも王配として、お前を支えるためには経験不足だ。わかるな」
国王は幼い子供に言い聞かせるように優しく諭した。
「・・・・・・。はい」
「承知しております」
ニコルは状況を理解できないまま頷いた。

国王夫妻の私室を後にしたニコルは膨れ面をしてマカオンに詰め寄る。
「どうして婚約の話になるの」
「お前は承諾してくれただろう」
「・・・・・・。そうだけど、展開が早すぎるわ。どうして国王陛下が知っているの」
ニコルは、そこが一番引っかかっていた。マカオンはずっとニコルの側にいたので、国王夫妻に婚約の許可を貰う時間がなかったはずだ。
「・・・・・・。お前の決意を聞いた後、両親に王配になることを告げた。父に許しをもらったが、文官として働くことと、子供をアルディ公爵家に継がせる条件を出された」
「え・・・・・・」
そんなに前からマカオンが王配になる決意をしていたのを知り、ニコルは唖然とした。
「文官として働きながら、辺境伯夫妻にも王配になる許しを得て、国王夫妻に許しをもらうための後押しをしてもらった。つまり・・・・・・」
マカオンはそこで言葉を句切り、気まずそうにニコルを見た。
「私にプロポーズする前に、周りを固めていたのね」
キッと睨みつけるニコルにマカオンは狼狽える。
「王配になるのは普通に結婚するのと違う。根回しが必要なのだ」
「そうだとしても、私の意志はどうなるのよ」
「俺だって、ここまでしてお前に断られたら・・・、って不安だったのだ。でも、お前一人に国を背負わせる訳にはいかない。それに、その・・・・・・」
マカオンは首まで真っ赤になりながら言い淀む。
「何よ」
ニコルは喧嘩腰のままだ。
「だから・・・・・・。お前を守れるのは俺しかいないだろ」
マカオンは言い終わる直前にニコルを抱き寄せた。
突然のことでニコルは声も出せない。だが、ニコルはそっとマカオンの腰に腕を回す。
「・・・・・・。ごめんなさい。マカオンがそんなに頑張ってくれているとは思わなかった」
「気にするな。根回しは俺の仕事だ」
マカオンはニコルの頭はポンポンと撫でた。
国王夫妻の私室があるフロアで人が少ないとはいえ、護衛が立っていることも忘れて2人は抱き締め合っていた。

◇◇◇
ソレイユと名を改めた後宮へ移ってすぐ、ニコルは抜き打ちテストを受けさせられたうえ、アデールから刺繍の課題を出された。
「ニコル様の好きな刺繍をしてください」
アデールは一枚のハンカチを差し出す。
「はぁ・・・・・・」
ニコルは狼狽えた。刺繍は習ったが真面目に取り組まなかったので、縁取りをするのが精一杯だった。
それでも、なんとか縁取りだけを完成させてアデ―ルに提出すると、盛大な溜息が返って来た。
「こんなに血が付いていたら、気味悪がられます」
確かにアデールに渡したハンカチは、ニコルの血が付いていて使える状態ではない。
「ごめんなさい」
項垂れるニコルにアデールは優しく諭した。
「刺繍は慣れです。毎日少しずつ指を慣らしましょう」
アデ―ルはバスケットから何枚か生地を取り出すと、様々な形の線を描いた。
「この線に沿って針を刺してみましょう。まずは大きな形のものから。大丈夫です。出来るようになりますよ」
「はい」
ニコルは笑って答えたが自信が持てなかった。
さらに、レナータとジルは他の講師陣と話し合った末、2人でニコルに礼儀作法や社交術を教えることになったという。
レナータの作法はグラディス帝国のものでエランヴェール国とは作法が異なる。現国王に嫁がせようという父親の意向で、ジルは幼い頃から、一流の講師に礼儀作法や社交術、教養を学んでいるので2人で教えるのが一番という結果になったらしい。
仲が良いのか悪いのか分からない2人だが、タッグを組まれれば、ニコル一人では太刀打ち出来そうにない。
「まぁ、がんばれ」
怯えるニコルにマカオンは素っ気なく言うと、仕事に戻ってしまった。
「はぁ・・・・・・」
自分が決意して選んだ道とはいえ、茨の道は果てしなく続きそうだ。
ニコルはアデールに渡された刺繍の課題が山積みになっているテーブルを目の前に、もう一度溜息をついた。
翌日は、化粧とドレスコーディネートをジルが中心になって教えてくれた。
ニコルは化粧が好きではない。
髪を肩につかないぐらい短くしているのは闘いやすいのもあるが、髪をきつく縛って纏めるのが嫌いなのである。
「髪の纏め方もいろいろありますが、髪が伸びてからやりましょう」
「はい」
張り切るジルに対して気乗りしない返事をするニコル。
「ニコル様。今からそんな顔をしていたら、議会の爺達になめられます」
同席しているレナータがぴしゃりと言う。
「はい」
ニコルは居住まいを正した。
「化粧をすることで仮面を変えるように気分を切り替えます。執務の時はキツイ印象を与える化粧、国民の前に出る時やパーティーに出席する時はニコル様の愛らしさを前面に出す化粧、プライベートの時はナチュラルな化粧と分けましょう」
「え、一日に何度も化粧をするのですか」
ニコルが驚くとジルとレナータが驚いた顔をした。
「当然です。お化粧は汗で崩れますもの。何度も直します。ニコル様はその時にメイクを変えるようにすればいいのですよ」
「ドレスも1日何度も着替えるようになります。ドレスに合わせて化粧を変えるのは貴族のたしなみですわ」
「はぁ」
実家の母や義姉は領民と同じような生活をしているので、何度もドレスを着替えることも化粧をすることもない。
ニコルは自分が知らない世界へ足を踏み入れたことを実感した。
「仮面を被ることでニコル様の良さを消してしまうのは心苦しいですけど、政治の世界や社交界はみんな仮面を被って、その場にふさわしい人物を演じなければなりません。初の女王となれば、所詮女だと馬鹿にする男の方が多いでしょう。威厳を保つためにも化粧とドレスの力を借りる必要がありますわ」
レナータの説得にニコルの心が動いた。
初代女王が馬鹿にされるようでは、ニコルが最初で最後の女王になってしまうかも知れない。もしくは、女王とは名ばかりの傀儡かいらいが生まれかねない。
「わかりました。お姉様方、お願いします」
ニコルが腹を括ると、ニコルは夕食まで何回も化粧をされ、20着以上ドレスを着せられた。最後の方は立っているのも辛くなった。
「あの、執務中はドレスでないといけないのでしょうか」
ニコルは倒れ込むようにソファーに座る。
「ドレスでなければ何をお召しになるのですか」
ジルが目をつり上げた。
「騎士団の制服のような・・・・・・」
「なりません」
ニコルが言い終わる前にジルがぴしゃりと言う。
「いつぞやのパーティーでは、ドレスから騎士姿に一瞬で着替えたようですが、あのような格好も禁止です」
「なぜ、そのことを・・・・・・」
ジルやレナータ、アデール達はパーティーに参加できなかったはずだ。
「私達に知らないことなどありませんわ。ねぇ、レナータ様」
「えぇ、ニコル様にはフランソワーズ様の件で騙されましたけれど、それ以外のことはアデール様も含めて存じていますわ」
意味深に微笑むジルとレナータ。
ニコルの好奇心が疼いた。
「どうやって情報を仕入れているのですか」
「それは、これから勉強しましょう。とにかく、お召しになるのはドレスです。ワンピースも控えてください。いつ来客があるのかわかりませんからね」
ジルに念を押されたニコルは項垂れた。
「はい。わかりました」
自分の決意は甘かったのかも知れない。
ニコルは初日から後悔し始めていた。
翌日からもニコルはジルとレナータに注意されてばかり。
「ニコル様、走ってはなりません」
「ニコル様、は最後まで聞いてください」
「ニコル様、感情を出してはいけません」
半日以上、ジルとレナータにしごかれ、クタクタになって部屋に戻るとアデールから出された刺繍の課題に取り組む。
ニコルの一日は、あっという間に過ぎていくのだった。
そうこうしているうちに2週間が過ぎ、ニコルの様子を見にマカオンがやって来た。
「だいぶしごかれているようだな」
グッタリした表情で刺繍に取り組むニコルを見て、マカオンは片方の口角をあげて笑う。
「もう、疲れた」
ニコルは刺繍の道具を放り出すと、ソファーに横になった。
ジルとレナータにワンピースを着ることを禁じられているので、プリンセスラインのドレスにベルスリーブ、腰には大きなリボンを結んだだけのシンプルなドレスを身に纏っている。だが、ドレスの下にはコルセットがあるので、着ているだけで疲れる。
騎士時代に胸を押さえるためにサラシを巻いていたが、コルセットは上半身を固定されるうえ、ウエストを細く見せるために限界まで締め付けられるので苦しい。
「おい、淑女を目指しているのではないのか」
マカオンが呆れ顔でニコルを見下ろす。
「だって、苦手なことばかりなんだもん」
ゴロゴロしながら不満を漏らす。
「俺もお前も苦手なことから逃げて来た罰だな」
「マカオンも大変なの?」
「まぁな。お前ほどではないが。おい、いい加減起きろ。襲われたいのか」
マカオンは寝転がっているニコルの足下に立つと、ニコルの頭の上にある肘掛けを掴む。まるでニコルに覆い被さるような姿勢だ。
「ちょっと・・・・・・」
目の前にあるマカオンは、会っていない間にまた男らしく変化している。
ニコルの胸が痛いぐらいに早鐘を打ち始めた。
「お前には黙っていたが、アルディ公爵家の存続問題もあるから、陛下からは婚前交渉は認められている」
「・・・・・・。婚前交渉って」
ニコルは真っ赤になった。
「どうする」
「・・・・・・。どう、って言われても」
ニコルはマカオンから顔を背けた。この場合、どう答えるのが正解なのだろう。
嫌かと聞かれれば、嫌ではない。
だが、心の準備ができていない。
そもそも、ねやの作法も知らないのだ。
ニコルがあれこれ考えを巡らせていると、「・・・・・・。ははは」と、マカオンが吹き出した。
「・・・・・・」
「冗談だ。じゃあな」
マカオンはニコルの頭を子供のように撫でると、部屋を出て行った。
「・・・・・・。なんなのよ。もう」
ニコルは少しがっかりしたような、安心したような複雑な気持ちになった。

それからニコルは、刺繍をしながらマカオンのことを考える日が続いた。
アデールの出した課題は、アデールの描いた線と同じ幅で針を刺していくものだが、徐々に幅が短くなり難しくなる。
マカオンとは会ってから間もないが、命を預け合うような濃密な時間を過ごした。だが、恋人らしいことは一度のキスだけだ。
承諾はしたが急にプロポーズされ、子供を作るとか、ニコルには考えられない。
「痛っ」
針を指に刺してしまいう。すぐに侍女が飛んで来て手当をする。
「はぁ、やっぱりダメだわ・・・・・・」
ニコルは刺繍を置くと刺繍道具とは別の裁縫箱を開け、縫い針を出すと縫い始めた。
するとノックの音が聞こえて、侍女が対応する。
「どなたかしら」
ニコルが訊ねると侍女が焦った表情でやって来た。
「アデ―ル様がお見えになりました」
「え・・・・・・」
ニコルは慌てて今縫っていたものを、ソファーとクッションの間に詰め込む。
「前触れもなく申し訳ございません」
「いいえ。どうなさいました?」
アデールに刺繍を教わるのは、レナータやジル、他の講師達との勉強がない時間にニコルがアデールに声を掛けるという約束になっている。
「刺繍の進捗状況を見ておこうと思っただけです」
「まぁ、そうでしたか」
アデールは悪気のない笑みを浮かべている。
ニコルは悪いことをしている気分になった。
「申し訳ございません。まだ、あまりできていないのです」
ニコルは席を勧めながら、素直に謝る。
「まぁ、何か難しい部分でもありましたか」
アデールは座りながら刺繍を確認した。
アデ―ルは控え目でおっとりとしていて、優しい。だが、ソレイユで働く侍女の中からニコルと同じように刺繍が苦手な侍女を見つけると、同じ課題を出して教えている。
侍女は働いているので刺繍に取り組む時間が少ない。つまり、講義漬けのニコルと条件は同じである。
その侍女がニコルよりも課題を終えるのが早いと「集中力が足りません」と注意をし、侍女より早く仕上がっても「早くできればいいものではありません」と小言を言われる。
ニコルは侍女を捕まえて「課題に取り組むスピ―ドを遅くして、雑にして欲しい」とお願いをしたが、すぐにアデールにバレて叱られた。
アデールはヒステリックな怒り方はしないが、穏やかに注意されるのもなかなか怖い。
アデールには、レナータやジルとは違う手強さがある。
「・・・・・・。確かに進みが遅いですね」
「申し訳ございません」
「今まで集中力が原因だと思っていましたが、違うようですね」
「え?」
アデールは屈むとドレス裾の下からシュルリと何かを取り出した。
「あ」
思わず声を上げたニコルは慌てて口を押さえる。
「ドレスのリボンですよね」
アデールはリボンとニコルのドレスを見比べる。
アデールが手にしているリボンは、今ニコルが着ているドレスの共布でできた腰に巻くリボンである。
「・・・・・・。はい」
ニコルは項垂れた。
アデールはニコルの縫い目を見ながら考え込んだ。
「ニコル様」
「は、はい」
ニコルは緊張した。
「これでは強度が足りませんし、デザイン性にも乏しいです」
「へ?」
怒られると思っていたニコルは、思わぬ提案に素っ頓狂すっとんきょうな声を上げた。
「それに、リボンだからといってこの縫い目は・・・・・・」
アデ―ルは渋い表情でニコルに訴えた。
「すみません」
ニコルは小さくなった。
アデールはリボンを机に置いた。
「どうしてこのようなことをなさっているのか、教えていただけますか」
アデールは普段と変わらない穏やかな表情と声でニコルを見つめる。
「自分の身は自分で護りたいのです。恐らく、今でも女王制に反対の方もいらっしゃいます。いつ、襲われてもおかしくありません」
レナータにグラディス帝国の歴史や事情を、ジルから貴族同士の対立関係を教わる度にニコルの危機感は増して来ていたのである。
「そうですね。みんなが諸手を上げてニコル様を歓迎しているとは言えません。でも、そういうことでしたら、お手伝いしますわ」
「本当ですか」
「えぇ。強度を付けながらデザイン性を持たせたリボンに仕上げましょう」
ニコルは満面の笑みを見せた。
「ありがとう。アデール様」
アデールはニコリと微笑む。
「ニコル様。今の話し方はいけません。レナータ様とジル様に叱られますよ」
「はい」
ニコルはしょんぼりする。
「ニコル様。喜怒哀楽を出してはいけません」
「はい」
しょんぼりしたままのニコルを見てアデールは「ふふふ」と笑った。
「仕方がありませんね。今のは内緒にしておきます」
「はい。ありがとうございます」
「そのかわり刺繍はきちんとやってくださいね」
「・・・・・・。はい」
アデールは手強いな、とニコルは思ったが顔に出さないように気を付けた。


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