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「昨日は迷惑をかけてごめんなさい」
宿を出た場所でローブを来た人間の姿になったシアンに謝る。
「本当にそう思っているなら金輪際、酒を飲むな」
「言い訳するわけではないけど、私はブドウジュースしか飲んでいないわ」
「ブドウジュースで酔っ払うのなら、ブドウジュースを飲むのを止めるのだな」
「えぇ。そんな・・・・・・」
綺羅はがっくりと肩を落として歩き始めた。
シアンは杜撰な店員が綺羅に出されたワイングラスに入っていたのが、ブドウジュースかワインかを確認せずにワインを注ぎ、話に夢中になった綺羅が飲んでしまっただけだと知っている。知らぬは本人ばかりなのだが、シアンには教える義務はない。
今日は妖魔の痕跡を見つけるために、指揮者の家へ向かった。
中心街にある噴水の前を通ると、豪華な櫓が組み立てられているのを見かける。
「何かしら」
綺羅が周囲の声に聞き耳を立てていると、近々ファッションショーが行われるらしい。
ファッションショーは自分には縁がない、と綺羅が通り過ぎようとした時エキセントリックな声が耳をつんざく。「私の衣裳はハニーブロンドの子じゃないと似合わないって言ったでしょ。どうして次から次へと居なくなるのよ。この前の子は?連絡が取れないってどういうこと?」
「居なくなる」「連絡が取れない」という言葉が耳に入り、綺羅はエキセントリックに叫ぶ女と、困り顔の男に近づいた。
「失礼します。こういう者です」
綺羅は手袋を外して見せた。
「龍使い様」
「龍使い?」
エキセントリックな女は綺羅を上から下まで不躾なまでに見つめる。
「人が居なくなったというのが聞こえました。詳しく聞かせてもらえますか」
困り顔だった男が語った話では、エキセントリックな女はデザイナーで、モデルは必ずハニーブロンドの女性に決めているという。
ところが、衣裳合わせから今日までに10人以上のモデルが消えているという。
消えた女性達のポートレートを見ると、スタイル抜群で美しいハニーブロンドを持つ。
しかし、瞳の色は緑や青、茶とさまざまな色だった。
「ハニーブロンド好きの妖魔なのかしら」
「わかりやすいな」
シアンは馬鹿にしたように鼻で笑う。
「妖魔?妖魔がモデルの子を攫ったというの?」
綺羅とシアンのやり取りを聞いた、デザイナーが綺羅の肩を掴んだ。
「・・・・・・。恐らく・・・・・・。」
もの凄い形相で綺羅に詰め寄るデザイナーこそ妖魔のようだと綺羅は思う。しかも、長い爪が肩に食い込んで来るので痛い。
「だったら、ファッションショーまでに連れて帰って来てちょうだい。龍使いなのだからできるでしょ」
綺羅の肩を急に離したので、綺羅は一瞬ふらついてシアンに抱き留められた。
「申し訳ございませんが、皇帝陛下の命で他の失踪者について調査をしている最中です。お約束することはできません」
綺羅は丁寧に説明をしてきちっと頭を下げた。
「そんな!!」
「しかし、皇帝陛下の命で動かれているのなら仕方がありません」
ショックを受けるデザイナーを困り顔の男が舞台袖に連れて行った。
綺羅は申し訳ない気持ちを抱えてファッションショー会場を後にする。しかし、綺羅の隣に居るシアンは何か思いついたようだった。
「いいヒントを貰えたな」
「なんのこと?」
「ハニーブロンド好きの妖魔だと分かった」
「だから、何?」
綺羅はシアンが何を言っているのか理解できない。
「金色の髪をしていれば、妖魔をおびき出せる」
シアンの提案に綺羅の背筋が凍る。
「・・・・・・。まさか・・・・・・」
「お姫さんが元の髪色に戻れば妖魔は攫いに来る。そうすれば妖魔の城に簡単に入れる」
シアンの提案は願ってもない展開だ。だが、それよりも綺羅には引っかかることがある。
「元の髪色って、私の髪色はずっと亜麻色よ」
「違う。それは俺が封印をしているからだ。いわば、人間として暮らすための髪色ということだ」
「じゃあ、私の髪色は金色ということ?」
「あぁ。瞳もな」
「・・・・・・」
ガルシャム帝国の人間は多くがブロンドの髪である。他に黒に近い茶色やハニーブロンドがいるが、赤みを帯びた亜麻色は珍しい。この髪色のせいで綺羅は嫌な思いをたくさんしてきた。
まさかそれがフェイクだったとは・・・・・・。
今までの悩みはなんだったのか。
「では、早速ハニーブロンド好きの妖魔をおびき出そうか」
シアンが綺羅に手をかざそうとする前に、綺羅はシアンの腕を叩いた。
「待って。私が金髪になっても妖魔が攫いに来るとは限らない。それより、貴方が城に連れて行ってくれればいいじゃない」
シアンは妖魔の居所を城だと言った。初めからシアンには妖魔が何処に居るのか知っていたのだ。
「構わないが、招かれざる客が城に近づけば総攻撃に出て来るぞ。覚悟はできているか」
シアンはいつも通り無表情だ。その無表情で恐ろしいことを言った。
「・・・・・・。でも、封印を解くのは嫌よ」
自分が誰かに操られているような感覚を思い出して綺羅は顔を歪める。
「髪色を元に戻すだけなら完全に封印を解く必要はない。お姫さんが恐れるようなことは起きない」
シアンは綺羅の不安を読み取って断言した。
「そう。それならいいわ。でも、私の容姿では妖魔は魅力を感じないと思うわ。そこはどうするの?」
妖魔は美意識が高い。金髪になっても綺羅の容姿は平凡で、スタイルも良いとは言えない。
「確かにそうだが。お姫さんが半妖だとわかれば容姿よりも魅力的に感じるはずだ。美しいものが好きな者は、初めは眺めているだけで満足するが、次第に自分のものにしたいと思うようになる。つまり、人間の髪に固執する妖魔なら、自分の髪を金色にしたいと思うはずだ。だが、人間の器に自分の魂は入らない。だが、半妖なら自分の魂を入れる器になり得る。妖魔は自分の色彩は変えられないが、顔立ちやスタイルはどうにでもなる。」
「そういうものなの?」
「そういうものとは?」
「金色の髪になりたいからと、他人の身体に魂を移すという発想が信じられないと言っているのよ」
綺羅は思わず大声を上げてしまい、周囲の注目を浴びてしまう。
「ちょっと、今すぐ宿に戻って」
気まずい綺羅はいつもならシアンの力を頼らず歩いて帰るが、続きを知りたい綺羅は瞬間移動してもらった。
「妖魔にとって肉体など入れ物にすぎない。飽きたら捨てる。傷がついたら捨てる。そういうものだ。生まれついた肉体で死ぬまで生きる人間とは違う」
「・・・・・・」
シアンは事もなげに説明するが、綺羅には理解できない。
服を着替えるように肉体を変える。
「・・・・・・。わからないわ」
「理解しろとは言わない。妖魔と人間は違うからな。ただ、半妖は妖魔の受け皿になりやすいってことだけ覚えておけ」
「・・・・・・。わかったわ」
今でさえ、妖魔の自分に肉体を乗っ取られそうになるのに、さらに妖魔の魂が入ってくるなど御免だ。
綺羅は目を閉じた。すると自分の心が一部だけ開かれたような感覚に襲われた。
その途端、シアンから「いいぞ」と言われ、綺羅は指に髪を絡ませて目の前に持ってくる。
「金色」
これが本当の髪の色。さらに掌から鏡を出して覗き込む。瞳も金色に変わっている。じっと鏡を見つめるが自分のような気がしない。
「いつまでそうしているつもりだ」
シアンに声をかけられてハッとする。
「・・・・・・。わかっているわよ」
綺羅はシアンと目を合わせないように俯く。そこで、騎士服が目に入って気がついた。
「ねぇ、この髪にこの服って目立たない?街の人は私が龍使いだと知っているのよ。髪や目の色が変わったらおかしいと思うわ」
「確かにそうだな」
シアンは綺羅の指摘に腕を組む。
「術で町娘の衣裳に見えるようにできる?」
騎士服の上からワンピースを着ることは不可能である。気は進まないがシアンの力に頼るしかない。
「できるが、他の妖魔に見破られるぞ」
「そう・・・・・・」
困ったな、と綺羅が首を傾げていると、侍女が水色に白いファーの付いたケープコートとピンク色の布を持って来た。
宿を出た場所でローブを来た人間の姿になったシアンに謝る。
「本当にそう思っているなら金輪際、酒を飲むな」
「言い訳するわけではないけど、私はブドウジュースしか飲んでいないわ」
「ブドウジュースで酔っ払うのなら、ブドウジュースを飲むのを止めるのだな」
「えぇ。そんな・・・・・・」
綺羅はがっくりと肩を落として歩き始めた。
シアンは杜撰な店員が綺羅に出されたワイングラスに入っていたのが、ブドウジュースかワインかを確認せずにワインを注ぎ、話に夢中になった綺羅が飲んでしまっただけだと知っている。知らぬは本人ばかりなのだが、シアンには教える義務はない。
今日は妖魔の痕跡を見つけるために、指揮者の家へ向かった。
中心街にある噴水の前を通ると、豪華な櫓が組み立てられているのを見かける。
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綺羅が周囲の声に聞き耳を立てていると、近々ファッションショーが行われるらしい。
ファッションショーは自分には縁がない、と綺羅が通り過ぎようとした時エキセントリックな声が耳をつんざく。「私の衣裳はハニーブロンドの子じゃないと似合わないって言ったでしょ。どうして次から次へと居なくなるのよ。この前の子は?連絡が取れないってどういうこと?」
「居なくなる」「連絡が取れない」という言葉が耳に入り、綺羅はエキセントリックに叫ぶ女と、困り顔の男に近づいた。
「失礼します。こういう者です」
綺羅は手袋を外して見せた。
「龍使い様」
「龍使い?」
エキセントリックな女は綺羅を上から下まで不躾なまでに見つめる。
「人が居なくなったというのが聞こえました。詳しく聞かせてもらえますか」
困り顔だった男が語った話では、エキセントリックな女はデザイナーで、モデルは必ずハニーブロンドの女性に決めているという。
ところが、衣裳合わせから今日までに10人以上のモデルが消えているという。
消えた女性達のポートレートを見ると、スタイル抜群で美しいハニーブロンドを持つ。
しかし、瞳の色は緑や青、茶とさまざまな色だった。
「ハニーブロンド好きの妖魔なのかしら」
「わかりやすいな」
シアンは馬鹿にしたように鼻で笑う。
「妖魔?妖魔がモデルの子を攫ったというの?」
綺羅とシアンのやり取りを聞いた、デザイナーが綺羅の肩を掴んだ。
「・・・・・・。恐らく・・・・・・。」
もの凄い形相で綺羅に詰め寄るデザイナーこそ妖魔のようだと綺羅は思う。しかも、長い爪が肩に食い込んで来るので痛い。
「だったら、ファッションショーまでに連れて帰って来てちょうだい。龍使いなのだからできるでしょ」
綺羅の肩を急に離したので、綺羅は一瞬ふらついてシアンに抱き留められた。
「申し訳ございませんが、皇帝陛下の命で他の失踪者について調査をしている最中です。お約束することはできません」
綺羅は丁寧に説明をしてきちっと頭を下げた。
「そんな!!」
「しかし、皇帝陛下の命で動かれているのなら仕方がありません」
ショックを受けるデザイナーを困り顔の男が舞台袖に連れて行った。
綺羅は申し訳ない気持ちを抱えてファッションショー会場を後にする。しかし、綺羅の隣に居るシアンは何か思いついたようだった。
「いいヒントを貰えたな」
「なんのこと?」
「ハニーブロンド好きの妖魔だと分かった」
「だから、何?」
綺羅はシアンが何を言っているのか理解できない。
「金色の髪をしていれば、妖魔をおびき出せる」
シアンの提案に綺羅の背筋が凍る。
「・・・・・・。まさか・・・・・・」
「お姫さんが元の髪色に戻れば妖魔は攫いに来る。そうすれば妖魔の城に簡単に入れる」
シアンの提案は願ってもない展開だ。だが、それよりも綺羅には引っかかることがある。
「元の髪色って、私の髪色はずっと亜麻色よ」
「違う。それは俺が封印をしているからだ。いわば、人間として暮らすための髪色ということだ」
「じゃあ、私の髪色は金色ということ?」
「あぁ。瞳もな」
「・・・・・・」
ガルシャム帝国の人間は多くがブロンドの髪である。他に黒に近い茶色やハニーブロンドがいるが、赤みを帯びた亜麻色は珍しい。この髪色のせいで綺羅は嫌な思いをたくさんしてきた。
まさかそれがフェイクだったとは・・・・・・。
今までの悩みはなんだったのか。
「では、早速ハニーブロンド好きの妖魔をおびき出そうか」
シアンが綺羅に手をかざそうとする前に、綺羅はシアンの腕を叩いた。
「待って。私が金髪になっても妖魔が攫いに来るとは限らない。それより、貴方が城に連れて行ってくれればいいじゃない」
シアンは妖魔の居所を城だと言った。初めからシアンには妖魔が何処に居るのか知っていたのだ。
「構わないが、招かれざる客が城に近づけば総攻撃に出て来るぞ。覚悟はできているか」
シアンはいつも通り無表情だ。その無表情で恐ろしいことを言った。
「・・・・・・。でも、封印を解くのは嫌よ」
自分が誰かに操られているような感覚を思い出して綺羅は顔を歪める。
「髪色を元に戻すだけなら完全に封印を解く必要はない。お姫さんが恐れるようなことは起きない」
シアンは綺羅の不安を読み取って断言した。
「そう。それならいいわ。でも、私の容姿では妖魔は魅力を感じないと思うわ。そこはどうするの?」
妖魔は美意識が高い。金髪になっても綺羅の容姿は平凡で、スタイルも良いとは言えない。
「確かにそうだが。お姫さんが半妖だとわかれば容姿よりも魅力的に感じるはずだ。美しいものが好きな者は、初めは眺めているだけで満足するが、次第に自分のものにしたいと思うようになる。つまり、人間の髪に固執する妖魔なら、自分の髪を金色にしたいと思うはずだ。だが、人間の器に自分の魂は入らない。だが、半妖なら自分の魂を入れる器になり得る。妖魔は自分の色彩は変えられないが、顔立ちやスタイルはどうにでもなる。」
「そういうものなの?」
「そういうものとは?」
「金色の髪になりたいからと、他人の身体に魂を移すという発想が信じられないと言っているのよ」
綺羅は思わず大声を上げてしまい、周囲の注目を浴びてしまう。
「ちょっと、今すぐ宿に戻って」
気まずい綺羅はいつもならシアンの力を頼らず歩いて帰るが、続きを知りたい綺羅は瞬間移動してもらった。
「妖魔にとって肉体など入れ物にすぎない。飽きたら捨てる。傷がついたら捨てる。そういうものだ。生まれついた肉体で死ぬまで生きる人間とは違う」
「・・・・・・」
シアンは事もなげに説明するが、綺羅には理解できない。
服を着替えるように肉体を変える。
「・・・・・・。わからないわ」
「理解しろとは言わない。妖魔と人間は違うからな。ただ、半妖は妖魔の受け皿になりやすいってことだけ覚えておけ」
「・・・・・・。わかったわ」
今でさえ、妖魔の自分に肉体を乗っ取られそうになるのに、さらに妖魔の魂が入ってくるなど御免だ。
綺羅は目を閉じた。すると自分の心が一部だけ開かれたような感覚に襲われた。
その途端、シアンから「いいぞ」と言われ、綺羅は指に髪を絡ませて目の前に持ってくる。
「金色」
これが本当の髪の色。さらに掌から鏡を出して覗き込む。瞳も金色に変わっている。じっと鏡を見つめるが自分のような気がしない。
「いつまでそうしているつもりだ」
シアンに声をかけられてハッとする。
「・・・・・・。わかっているわよ」
綺羅はシアンと目を合わせないように俯く。そこで、騎士服が目に入って気がついた。
「ねぇ、この髪にこの服って目立たない?街の人は私が龍使いだと知っているのよ。髪や目の色が変わったらおかしいと思うわ」
「確かにそうだな」
シアンは綺羅の指摘に腕を組む。
「術で町娘の衣裳に見えるようにできる?」
騎士服の上からワンピースを着ることは不可能である。気は進まないがシアンの力に頼るしかない。
「できるが、他の妖魔に見破られるぞ」
「そう・・・・・・」
困ったな、と綺羅が首を傾げていると、侍女が水色に白いファーの付いたケープコートとピンク色の布を持って来た。
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