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狂気の沙汰
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「たしかに。まあ、気持ちはわからなくもないですよ。だって、対岸の火事に目を向けてれば、自分の住んでる岸の火事なんて気にせずに済みますからね。現実逃避ですよ、言ってみれば」
真紀子はふーっとため息を吐く。
「でも、たかがゲームにそこまで本気でキレることあります?そりゃあ、マンガとかドラマとかゲームとかに本気で腹が立ったり悲しくなったりはしますよ。だけど、それってほんの少しの間のことですよね?」
ここで真紀子は、取材しているうちに知った界隈のトラブルを思い出した。
だいたいはSNSで声優や漫画原作者などに無礼なメッセージを送っただとか、その界隈の人間でしか知らないような細かいマナーやルールに違反したとか、その程度のものだ。
基本的には「単なる迷惑行為」と見なされるレベルだが、中には本当に法を犯す者までいたりするので、びっくりさせられた。
「個人的に、一番意味がわからなかったのがね……ラノベってご存知ですかね?」
「ああ、ライトノベルのこと?なんか、アニメっぽいカンジの表紙の小説でしょ?中高生とかが好きそうなヤツ。実際読んでるのは結構いい歳した人たちみたいだけど」
「そうです。今から10年くらい前の話にはなるんですけど、好きなラノベの原作者に脅迫メールを大量に送って逮捕された人がいるんですよ」
「どんなメール送ってたの?」
「えっとね、「探偵を雇ってでもお前ら詐欺師の住所を割り出してやる」とか「逃げられると思うなよカスが」とかですね。ちなみに動機は「自分の好きなヒロインがバカにされてる!原作者はファンや作品を裏切った!と思ったから」だそうです」
真紀子はこの話を知ったときのことを思い出して、また大きなため息を吐いた。
「え?その人は何でそう思ったの?」
真紀子の呆れとは裏腹に、編集者は興味津々といった様子だ。
「その人が好きなキャラクターがね、作中でだんだん出番が無くなってきたんですって。よくある話みたいですね。初期に出たキャラクターが、後から出てきたキャラクターより人気が出てきて、出番も少なくなるって話」
「ああ、よくあるね」
編集者がうなずく。
「この人、この手のメールを合計で9000件くらい送ったらしいです。」
真紀子はさらに詳しく説明するため、スラックスのポケットからスマートフォンを取り出し、当該事件の詳細が載っているニュースサイトを開いた。
「へ?9000件⁈」
編集者の声が、異常に大きくなる。
「呆れちゃうでしょ?犯人は高校中退して実家暮らしの32歳ニートだったそうで。たぶん、有り余る時間を全部こんなメール送るためだけに使ってたんだと思いますよ。こんなことするヒマあるなら働くか、高卒認定でも受ければいいのに」
真紀子はスマートフォンをポケットに戻した。
「強烈だねー。原作者さん、相当怖かっただろうに…」
驚愕冷めやらぬ編集者は、まるでその犯人を目撃したかのような顔で真紀子を見つめた。
「いい歳した大人の男が架空の女の子にそこまで入れ込むとか、イカれてるとしか思えない。「成功者への妬みからややりました」って、理由でバスケ漫画の作者や編集者やグッズ売ってる小売店にまで脅迫状送ったヤツがいたでしょう?あの人、まだマトモだったんだなって思いますよ。この手のオタク見てると特にね」
真紀子は盛大にため息を吐いた。
真紀子はふーっとため息を吐く。
「でも、たかがゲームにそこまで本気でキレることあります?そりゃあ、マンガとかドラマとかゲームとかに本気で腹が立ったり悲しくなったりはしますよ。だけど、それってほんの少しの間のことですよね?」
ここで真紀子は、取材しているうちに知った界隈のトラブルを思い出した。
だいたいはSNSで声優や漫画原作者などに無礼なメッセージを送っただとか、その界隈の人間でしか知らないような細かいマナーやルールに違反したとか、その程度のものだ。
基本的には「単なる迷惑行為」と見なされるレベルだが、中には本当に法を犯す者までいたりするので、びっくりさせられた。
「個人的に、一番意味がわからなかったのがね……ラノベってご存知ですかね?」
「ああ、ライトノベルのこと?なんか、アニメっぽいカンジの表紙の小説でしょ?中高生とかが好きそうなヤツ。実際読んでるのは結構いい歳した人たちみたいだけど」
「そうです。今から10年くらい前の話にはなるんですけど、好きなラノベの原作者に脅迫メールを大量に送って逮捕された人がいるんですよ」
「どんなメール送ってたの?」
「えっとね、「探偵を雇ってでもお前ら詐欺師の住所を割り出してやる」とか「逃げられると思うなよカスが」とかですね。ちなみに動機は「自分の好きなヒロインがバカにされてる!原作者はファンや作品を裏切った!と思ったから」だそうです」
真紀子はこの話を知ったときのことを思い出して、また大きなため息を吐いた。
「え?その人は何でそう思ったの?」
真紀子の呆れとは裏腹に、編集者は興味津々といった様子だ。
「その人が好きなキャラクターがね、作中でだんだん出番が無くなってきたんですって。よくある話みたいですね。初期に出たキャラクターが、後から出てきたキャラクターより人気が出てきて、出番も少なくなるって話」
「ああ、よくあるね」
編集者がうなずく。
「この人、この手のメールを合計で9000件くらい送ったらしいです。」
真紀子はさらに詳しく説明するため、スラックスのポケットからスマートフォンを取り出し、当該事件の詳細が載っているニュースサイトを開いた。
「へ?9000件⁈」
編集者の声が、異常に大きくなる。
「呆れちゃうでしょ?犯人は高校中退して実家暮らしの32歳ニートだったそうで。たぶん、有り余る時間を全部こんなメール送るためだけに使ってたんだと思いますよ。こんなことするヒマあるなら働くか、高卒認定でも受ければいいのに」
真紀子はスマートフォンをポケットに戻した。
「強烈だねー。原作者さん、相当怖かっただろうに…」
驚愕冷めやらぬ編集者は、まるでその犯人を目撃したかのような顔で真紀子を見つめた。
「いい歳した大人の男が架空の女の子にそこまで入れ込むとか、イカれてるとしか思えない。「成功者への妬みからややりました」って、理由でバスケ漫画の作者や編集者やグッズ売ってる小売店にまで脅迫状送ったヤツがいたでしょう?あの人、まだマトモだったんだなって思いますよ。この手のオタク見てると特にね」
真紀子は盛大にため息を吐いた。
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