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マキナ
しおりを挟む苦手意識で言うならば、きゃさりんだって同じだ。
彼女の年齢を聞いたことがないので、具体的にはいくつかは知らないが、外見や言葉づかいから察するに、おそらく40代後半から50代前半。
馬面で貧相な体つき、無造作に伸ばした艶のない髪。
基本的にキャラクターTシャツを着ていることが多いのだけれど、伸びていたりところどころほつれていることが多い。
今日着ているのは、だいぶ前に発売されたプチプラブランドとダークサイド・ストーリーのコラボ商品だ。
これも、結構に劣化が進んでいる。
きゃさりんはこのグループ内では最年長だが、いつも心ここにあらずといったカンジで、薄気味が悪いほどマイペース。
かと思えば、興味を引く対象に出会うと、その話をいつまでも繰り返す。
誰かが話している最中でもお構いなしだ。
要するに、彼女は極端に空気の読めない人だった。
残るメンバーのひとり、マキナはこのグループの中ではいちばん若く、それでいてグループの中でいちばん理性的で理知的。
さらに、コレは久実子の主観なのだけど、グループの中でいちばん美人だ。
なんでも、マキナは祖母が元女優なのだそうだ。
サラサラした茶色の長い髪は自然に艶めき、肌は赤ちゃんみたいにきめ細やかで、真珠のように白い。
祖母から受け継がれた女優の血がそうさせるのだろうか。
年齢は25歳。
過去にはその美貌を活かして劇団に在籍していたこともあったが、体を壊したことをきっかけに退団、現在はアニメ雑誌の編集をしているという。
過去の経歴から芸能界にもコネがあり、編集部員として声優やアニメ監督に何度も取材したことがあるそうだ。
これはほかの人に教えてもらったプロフィールで、マキナ本人は自身のことをなにひとつ語ることはなかったが、それがまた、マキナの神秘性を高めているような気がした。
聞き上手で話し上手で人当たりが良く、性格も温厚なマキナは、ネット上で数々の考察レポートや創作小説を発表しているダクスト界隈のアイドル的存在だった。
マキナの作品はどれも素晴らしく、中には原作を凌駕しているという人もいる。
彼女の持つアカウントは「ダークサイド・ストーリー」の創作のためのものなのだけど、フォローしている人の中にはマキナの小説目当ての、マキナ本人の信奉者まで出てきている。
そういう人は日に日に増えていて、いわば久実子もその1人だった。
どの人もみんな、ほどよく距離を保ちながら常にマキナの動向を気にしている。
それは久実子だって、例外ではない。
「そういえば、えぐみ子さん。3日くらい前にTwitterにアップされたイラスト見ましたよ。とてもステキでした」
マキナが優雅にコーヒーを飲みながら、声をかけてきた。
「ああ!それ、オレも見た!」
ハイリが、女性にしてはハスキーな低い声で同調してきた。
カレーライスはもう食べ終わったらしい。
よく見ると、胸元にごはん粒が1つ付いている。
「あ、アーシも!アーシも見ましたあ!!」
今度はうってぃが割って入る。
正確には彼女の1人称は「アタシ」なのだけど、あまりに早口なので、久実子には「アーシ」と聞こえる。
「ローゼンにライダースジャケットとロックTシャツを着せるなんて、ステキなアイデアだと思いました。えぐみ子さん、服のセンスもいいですね。ローゼンは普段、ロングコートやケープばかり着てるから、新鮮味が感じられてステキです。ホント、えぐみ子さんが描く絵はステキです」
マキナに笑いかけられて、久実子はポーッと顔が熱くなるのを感じた。
「そんな…とんでもない」
口では否定するけれど、本当はマキナに見てほしくて描いたのだ。
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