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長兄
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「他に聞きたいことはない?」
拓美がコーヒーを飲むと、安堵したように脱力し、だらしなく姿勢を崩して、椅子の背もたれに体を預けた。
「高貴さんと円さんと、拓美さんが、こうして交流してるのも、そのオメガの人たちがシンプルな人たちだったからと関係してるんですか?」
「そうだね。あと、高貴くんとは昔からずっと仲良しだったから、今もこうして会ってるんだよ。高貴くん、優しいし頼りになるし、他の子たちにも慕われてるの。たくましいもんでね、お父さんの仕事は継がずに独立して、ひとりでこのお店の経営始めて、ひとりで切り盛りしてるんだよ」
拓美が隣に座る高貴を指さすと、高貴が大木に向かってほほ笑んでみせた。
「……そうですか」
大木は拓美と高貴の顔を交互に見た。
「他に聞きたいことはない?」
拓美がぬるくなったコーヒーを口に流し込み、カップを空にした。
「ええ、もう、聞きたいことはないです…その、円さんの家族のこと、知ることができてよかったです。円さんは自分のことも、家族のことも、なかなか話さないので」
「話せるような問題じゃないからねえ。特にオヤジとアイツは……」
高貴が目線を上のほうに持っていき、ぼんやり空中を見つめた。
「ああ、言えてる。あ、カルイザワくん?だったかな?コーヒーのおかわりお願い」
拓美はたまたま近くを通りかかった軽井沢に、カップを手渡した。
軽井沢は「かしこまりました」と告げると、厨房へ引っ込んでいった。
「何故かわからないけど、アイツ最近、ここに来ることが増えたんだよね」
高貴がやれやれといった調子で、眉間にシワを寄せた。
「アイツ?」
大木が首をかしげた。
「一番上の兄さんだよ。ボクの父さんから見たら長男にあたる人。高貴兄さんは次男」
円が大木の疑問に答える。
「そうだったんですね。あの、その長男にあたる人は、あまりよろしくないカンジの人なんですか?」
「うん」
3つの頭が同時に返事してうなずく。
はて、長男にあたる人は、一体どんな人なのだろう。
大木がそう考えているうち、軽井沢がコーヒーのおかわりを持ってきてくれた。
拓美がそれに「ありがとう」と礼を言った瞬間、ドアベルが鳴った。
来客を知らせるベルの音を聞いた高貴が入り口へ目を向けると、「あっ」と声を漏らした。
「いらっしゃい…ま、せ」
客の顔を見て、軽井沢の歓迎の挨拶が尻すぼみになる。
「噂をすれば……まさかのご本人来店だよ」
高貴が親指を立てて、入り口の方を指した。
「え、大貴兄さん?」
円も入り口の方へ目を向けて、来店してきた男に気がついた。
「えっと…あの人が、いちばん上のお兄さんですか?」
「そうだよ」
高貴が大木の方へ向き直る。
「大貴さん……店長や円さんのお兄さんだったんですか?」
軽井沢が驚いた顔をして、円たちに詰め寄った。
「大貴と軽井沢くん、知り合い?」
高貴が軽井沢と大貴とを交互に見た。
「その人、うちの会社に来ました」
高貴の疑問に、大木が答える。
「受付やってた軽井沢くんにちょっかい出してたんだよ。大貴兄さんだったのか。久しぶりだね?気がつかなかったよ、しばらく会ってなかったし……」
円が大貴に話しかける。
「コイツ、誰?」
大貴が円を指さす。
ずいぶん失礼な言い回しだが、おそらく悪気はない。
「この子は円だよ。あのときにお前が置き去りにした子」
失礼を失礼で返すように、高貴が皮肉たっぷりな回答を述べた。
「やあ、大貴、久しぶりだね?」
拓美が大貴に意地悪くニヤリと笑いかけた。
「何でお前がいんの⁈」
大貴は拓美の顔を見るなり、あからさまに狼狽えてみせた。
「さあて、なぜだろうね?」
ずっとぼけたように曖昧な答えを出した拓美の笑みが、異常に濃くなる。
大貴は、ほんの気まぐれで弟の店に来たことを後悔した。
なぜなら大貴は、父の愛人たるこの男を誰より苦手としているからだ。
拓美がコーヒーを飲むと、安堵したように脱力し、だらしなく姿勢を崩して、椅子の背もたれに体を預けた。
「高貴さんと円さんと、拓美さんが、こうして交流してるのも、そのオメガの人たちがシンプルな人たちだったからと関係してるんですか?」
「そうだね。あと、高貴くんとは昔からずっと仲良しだったから、今もこうして会ってるんだよ。高貴くん、優しいし頼りになるし、他の子たちにも慕われてるの。たくましいもんでね、お父さんの仕事は継がずに独立して、ひとりでこのお店の経営始めて、ひとりで切り盛りしてるんだよ」
拓美が隣に座る高貴を指さすと、高貴が大木に向かってほほ笑んでみせた。
「……そうですか」
大木は拓美と高貴の顔を交互に見た。
「他に聞きたいことはない?」
拓美がぬるくなったコーヒーを口に流し込み、カップを空にした。
「ええ、もう、聞きたいことはないです…その、円さんの家族のこと、知ることができてよかったです。円さんは自分のことも、家族のことも、なかなか話さないので」
「話せるような問題じゃないからねえ。特にオヤジとアイツは……」
高貴が目線を上のほうに持っていき、ぼんやり空中を見つめた。
「ああ、言えてる。あ、カルイザワくん?だったかな?コーヒーのおかわりお願い」
拓美はたまたま近くを通りかかった軽井沢に、カップを手渡した。
軽井沢は「かしこまりました」と告げると、厨房へ引っ込んでいった。
「何故かわからないけど、アイツ最近、ここに来ることが増えたんだよね」
高貴がやれやれといった調子で、眉間にシワを寄せた。
「アイツ?」
大木が首をかしげた。
「一番上の兄さんだよ。ボクの父さんから見たら長男にあたる人。高貴兄さんは次男」
円が大木の疑問に答える。
「そうだったんですね。あの、その長男にあたる人は、あまりよろしくないカンジの人なんですか?」
「うん」
3つの頭が同時に返事してうなずく。
はて、長男にあたる人は、一体どんな人なのだろう。
大木がそう考えているうち、軽井沢がコーヒーのおかわりを持ってきてくれた。
拓美がそれに「ありがとう」と礼を言った瞬間、ドアベルが鳴った。
来客を知らせるベルの音を聞いた高貴が入り口へ目を向けると、「あっ」と声を漏らした。
「いらっしゃい…ま、せ」
客の顔を見て、軽井沢の歓迎の挨拶が尻すぼみになる。
「噂をすれば……まさかのご本人来店だよ」
高貴が親指を立てて、入り口の方を指した。
「え、大貴兄さん?」
円も入り口の方へ目を向けて、来店してきた男に気がついた。
「えっと…あの人が、いちばん上のお兄さんですか?」
「そうだよ」
高貴が大木の方へ向き直る。
「大貴さん……店長や円さんのお兄さんだったんですか?」
軽井沢が驚いた顔をして、円たちに詰め寄った。
「大貴と軽井沢くん、知り合い?」
高貴が軽井沢と大貴とを交互に見た。
「その人、うちの会社に来ました」
高貴の疑問に、大木が答える。
「受付やってた軽井沢くんにちょっかい出してたんだよ。大貴兄さんだったのか。久しぶりだね?気がつかなかったよ、しばらく会ってなかったし……」
円が大貴に話しかける。
「コイツ、誰?」
大貴が円を指さす。
ずいぶん失礼な言い回しだが、おそらく悪気はない。
「この子は円だよ。あのときにお前が置き去りにした子」
失礼を失礼で返すように、高貴が皮肉たっぷりな回答を述べた。
「やあ、大貴、久しぶりだね?」
拓美が大貴に意地悪くニヤリと笑いかけた。
「何でお前がいんの⁈」
大貴は拓美の顔を見るなり、あからさまに狼狽えてみせた。
「さあて、なぜだろうね?」
ずっとぼけたように曖昧な答えを出した拓美の笑みが、異常に濃くなる。
大貴は、ほんの気まぐれで弟の店に来たことを後悔した。
なぜなら大貴は、父の愛人たるこの男を誰より苦手としているからだ。
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