【完結】オメガの円が秘密にしていること

若目

文字の大きさ
上 下
59 / 63

長兄

しおりを挟む
「他に聞きたいことはない?」
拓美がコーヒーを飲むと、安堵したように脱力し、だらしなく姿勢を崩して、椅子の背もたれに体を預けた。

「高貴さんと円さんと、拓美さんが、こうして交流してるのも、そのオメガの人たちがな人たちだったからと関係してるんですか?」
「そうだね。あと、高貴くんとは昔からずっと仲良しだったから、今もこうして会ってるんだよ。高貴くん、優しいし頼りになるし、他の子たちにも慕われてるの。たくましいもんでね、お父さんの仕事は継がずに独立して、ひとりでこのお店の経営始めて、ひとりで切り盛りしてるんだよ」
拓美が隣に座る高貴を指さすと、高貴が大木に向かってほほ笑んでみせた。
「……そうですか」
大木は拓美と高貴の顔を交互に見た。
「他に聞きたいことはない?」
拓美がぬるくなったコーヒーを口に流し込み、カップを空にした。
「ええ、もう、聞きたいことはないです…その、円さんの家族のこと、知ることができてよかったです。円さんは自分のことも、家族のことも、なかなか話さないので」
「話せるような問題じゃないからねえ。特にオヤジとアイツは……」
高貴が目線を上のほうに持っていき、ぼんやり空中を見つめた。
「ああ、言えてる。あ、カルイザワくん?だったかな?コーヒーのおかわりお願い」
拓美はたまたま近くを通りかかった軽井沢に、カップを手渡した。
軽井沢は「かしこまりました」と告げると、厨房へ引っ込んでいった。
「何故かわからないけど、アイツ最近、ここに来ることが増えたんだよね」
高貴がやれやれといった調子で、眉間にシワを寄せた。
「アイツ?」
大木が首をかしげた。
「一番上の兄さんだよ。ボクの父さんから見たら長男にあたる人。高貴兄さんは次男」
円が大木の疑問に答える。
「そうだったんですね。あの、その長男にあたる人は、あまりよろしくないカンジの人なんですか?」
「うん」
3つの頭が同時に返事してうなずく。
はて、長男にあたる人は、一体どんな人なのだろう。

大木がそう考えているうち、軽井沢がコーヒーのおかわりを持ってきてくれた。
拓美がそれに「ありがとう」と礼を言った瞬間、ドアベルが鳴った。

来客を知らせるベルの音を聞いた高貴が入り口へ目を向けると、「あっ」と声を漏らした。
「いらっしゃい…ま、せ」
客の顔を見て、軽井沢の歓迎の挨拶が尻すぼみになる。

「噂をすれば……まさかのご本人来店だよ」
高貴が親指を立てて、入り口の方を指した。
「え、大貴兄さん?」
円も入り口の方へ目を向けて、来店してきた男に気がついた。
「えっと…あの人が、いちばん上のお兄さんですか?」
「そうだよ」
高貴が大木の方へ向き直る。
「大貴さん……店長や円さんのお兄さんだったんですか?」
軽井沢が驚いた顔をして、円たちに詰め寄った。

「大貴と軽井沢くん、知り合い?」
高貴が軽井沢と大貴とを交互に見た。
「その人、うちの会社に来ました」
高貴の疑問に、大木が答える。
「受付やってた軽井沢くんにちょっかい出してたんだよ。大貴兄さんだったのか。久しぶりだね?気がつかなかったよ、しばらく会ってなかったし……」
円が大貴に話しかける。
「コイツ、誰?」
大貴が円を指さす。
ずいぶん失礼な言い回しだが、おそらく悪気はない。
「この子は円だよ。あのときにお前が置き去りにした子」
失礼を失礼で返すように、高貴が皮肉たっぷりな回答を述べた。
「やあ、大貴、久しぶりだね?」
拓美が大貴に意地悪くニヤリと笑いかけた。
「何でお前がいんの⁈」
大貴は拓美の顔を見るなり、あからさまに狼狽えてみせた。
「さあて、なぜだろうね?」
ずっとぼけたように曖昧な答えを出した拓美の笑みが、異常に濃くなる。

大貴は、ほんの気まぐれで弟の店に来たことを後悔した。
なぜなら大貴は、父の愛人たるこの男を誰より苦手としているからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

処理中です...