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拓美
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運ばれてきた料理を食べながら、大木は店内の様子を伺った。
店長の高貴は「拓美さんが来たら呼んでね」と言って、厨房に引っ込んでいった。
軽井沢はレジを担当していて、他の客が会計を済ませるたびに、「ありがとうございました」と見送りの言葉をかけた。
「コレ、美味いですね」
ボリューム満点のステーキを刻みながら、大木は料理の感想を述べた。
「うん!今の時間帯はあまりお客さんいないけど、高貴兄さんのお店、美味しいしリーズナブルだから、人気もあるんだよ」
円は嬉しそうな顔をして、バゲットをかじった。
その様子を見ると、兄の高貴を慕っているのが嫌でもわかる。
「そうでしょうね……」
大木は円と高貴の仲に対して疑問に感じることがあったが、そのあたりを詮索するのは躊躇いがあった。
「遅れてすまなかったね」
出された料理を食べ終わった頃合いに、円の母──拓美がやってきた。
「いえいえ、さほど待ってないですよ」
大木がかぶりを振った。
「拓美さん、久しぶりだね。ほら、ここ座って」
拓美が来たことに気づいた高貴が、円たちの向かいに置いてある椅子を引いた。
「ありがとう、高貴くん。あ、コーヒー頼んでいいかな?」
拓美は高貴が引いてくれた椅子に腰を下ろすと、さっそくコーヒーを注文した。
「うん、淹れてくるね」
拓美の注文を聞き入れた高貴が、厨房に向かっていく。
「久しぶりだね、円、知成くん。」
拓美が、大木と円に向かって改めて挨拶した。
「ええ、お久しぶりです」
大木は高貴のときと同じように、しっかり頭を下げて挨拶を返した。
「番になった報告なんて、わざわさしなくてもよかったのに」
拓美は足元に置いてあるカゴに荷物を入れ、額を手の甲で拭うと、フーッとため息をついた。
よく見ると、拓美の顔の至るところに小粒の汗が滲み出ている。
遅れた理由は、患者の容態が急変したからだと聞いていたので、それで一悶着あったから、こんなに汗をかいたのかもしれない。
「そういうわけにもいかないですよ。番じゃないけど付き合ってるのと、番になった上で付き合うのとでは、大きく違いますから」
「真面目だね」
大木の返答を聞いた拓美が、クスッと笑った。
「いや、「俺が挨拶したい」っていう、単なるワガママみたいなもんですよ」
「そうかい」
拓美が感心したように相槌を打つ。
「そうです。それにしても、円さんにお兄さんがいるなんて、初耳でした」
「姉もいるよ。妹も弟もいるし。まあ、大半の人は顔も名前も知らないんだけどね」
ケロリと言ってのけた円に、大木は狼狽えたと同時にあることを思い出した。
ネットでM区IT企業CEO刺殺事件を調べてみたところ、被害者となった円の父には20人近い愛人と、30人近い庶子がいたことを。
いろんなサイトを漁っていくうち、事件の後、現場となったマンションは引き払われ、大半の愛人と庶子は消息不明になっていると書いていた記事を見つけた。
その愛人のうちの1人と、庶子のうちの2人が目の前にいる。
その事実を目の前にして大木は、「世間は案外狭いものだな」と感慨深い心持ちに至った。
同時に、この3人が普通の家族のように仲良く話し込んでいることに、違和感を覚えた。
そのときだった。
「ねえ、愛人の子ども同士と、愛人と別の愛人の子どもが仲良くしてるの、すっごくヘンに思うでしょ?」
拓美が大木に向かって、意味深にほほ笑んでみせた。
店長の高貴は「拓美さんが来たら呼んでね」と言って、厨房に引っ込んでいった。
軽井沢はレジを担当していて、他の客が会計を済ませるたびに、「ありがとうございました」と見送りの言葉をかけた。
「コレ、美味いですね」
ボリューム満点のステーキを刻みながら、大木は料理の感想を述べた。
「うん!今の時間帯はあまりお客さんいないけど、高貴兄さんのお店、美味しいしリーズナブルだから、人気もあるんだよ」
円は嬉しそうな顔をして、バゲットをかじった。
その様子を見ると、兄の高貴を慕っているのが嫌でもわかる。
「そうでしょうね……」
大木は円と高貴の仲に対して疑問に感じることがあったが、そのあたりを詮索するのは躊躇いがあった。
「遅れてすまなかったね」
出された料理を食べ終わった頃合いに、円の母──拓美がやってきた。
「いえいえ、さほど待ってないですよ」
大木がかぶりを振った。
「拓美さん、久しぶりだね。ほら、ここ座って」
拓美が来たことに気づいた高貴が、円たちの向かいに置いてある椅子を引いた。
「ありがとう、高貴くん。あ、コーヒー頼んでいいかな?」
拓美は高貴が引いてくれた椅子に腰を下ろすと、さっそくコーヒーを注文した。
「うん、淹れてくるね」
拓美の注文を聞き入れた高貴が、厨房に向かっていく。
「久しぶりだね、円、知成くん。」
拓美が、大木と円に向かって改めて挨拶した。
「ええ、お久しぶりです」
大木は高貴のときと同じように、しっかり頭を下げて挨拶を返した。
「番になった報告なんて、わざわさしなくてもよかったのに」
拓美は足元に置いてあるカゴに荷物を入れ、額を手の甲で拭うと、フーッとため息をついた。
よく見ると、拓美の顔の至るところに小粒の汗が滲み出ている。
遅れた理由は、患者の容態が急変したからだと聞いていたので、それで一悶着あったから、こんなに汗をかいたのかもしれない。
「そういうわけにもいかないですよ。番じゃないけど付き合ってるのと、番になった上で付き合うのとでは、大きく違いますから」
「真面目だね」
大木の返答を聞いた拓美が、クスッと笑った。
「いや、「俺が挨拶したい」っていう、単なるワガママみたいなもんですよ」
「そうかい」
拓美が感心したように相槌を打つ。
「そうです。それにしても、円さんにお兄さんがいるなんて、初耳でした」
「姉もいるよ。妹も弟もいるし。まあ、大半の人は顔も名前も知らないんだけどね」
ケロリと言ってのけた円に、大木は狼狽えたと同時にあることを思い出した。
ネットでM区IT企業CEO刺殺事件を調べてみたところ、被害者となった円の父には20人近い愛人と、30人近い庶子がいたことを。
いろんなサイトを漁っていくうち、事件の後、現場となったマンションは引き払われ、大半の愛人と庶子は消息不明になっていると書いていた記事を見つけた。
その愛人のうちの1人と、庶子のうちの2人が目の前にいる。
その事実を目の前にして大木は、「世間は案外狭いものだな」と感慨深い心持ちに至った。
同時に、この3人が普通の家族のように仲良く話し込んでいることに、違和感を覚えた。
そのときだった。
「ねえ、愛人の子ども同士と、愛人と別の愛人の子どもが仲良くしてるの、すっごくヘンに思うでしょ?」
拓美が大木に向かって、意味深にほほ笑んでみせた。
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