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メイクとヘアセット
しおりを挟む「かわいい!円さん、すごーく似合ってるよ!!」
ワンピースを着た円を見て、咲子は嬉しそうに感想を述べた。
「そうかな……」
「かわいい」と言われても、どう反応すればいいのかわからなくて、円は苦笑いするばかりだ。
足元がスースーと涼しくて、なんだか落ち着かない。
生まれてこのかた、スカートなんて履いたことはないし、ましてや、こんなに飾りっ気の強い服を着たのは初めてのことだ。
「次はメイクね!」
この上でさらに化粧もするのか。
もっとも、服は豪華でかわいらしいのに、顔と髪型が野暮ったいとバランスが悪いし、当然と言えば当然の流れかもしれない。
テレビなどで見かける女装した男性たちは皆、しっかりメイクしている。
おそらく、彼らの中には「女装するときにはしっかりメイクをする」というコンセンサスがあるのだろう。
そうでなくても、乗り気になっている咲子を止められる気がしないし、ここはしたいようにさせよう、と円は考えた。
「円さん、ここに座って!」
咲子は勉強机の引き出しからバニティポーチを取り出し、部屋の中央を指差した。
言われたとおりに、部屋の中央にぺたんと座ると、咲子が向かい合うようにして座った。
「円さん、ホントにキレイな顔してるね。お肌もすべすべだし、女の子みたいでかわいい」
咲子がほほ笑みながら円の頬を撫でさすってきて、円はドキリと身を震わせた。
この妹のスキンシップの激しさには、未だに慣れない。
──そういえば、咲子ちゃんってアルファなのかな?
だとしたら、番がいるのに他のアルファと一緒にいるのはマズいんじゃあ……
「これだけ肌がキレイなら、ベースメイク無しでも映えるかも。円さん、メイクするから目を閉じて」
円のささやかな不安をよそに、咲子は円の顔をうっとりと見つめながら、メイク道具を取り出した。
目を閉じると、まぶたや目尻に何かが当たったり、頬にハケが当たったり、唇にも何か塗られた感触がした。
「……円さん、もう目を開けても大丈夫だよ」
目を閉じてから15分くらい経っただろうか。
目を開けてみると、まぶたや唇に何かがひっついているような違和感を覚えた。
「ね、鏡見て!」
咲子が卓上ミラーを円の目の前まで持っていき、顔を映させた。
「すごいもんだな……」
円は自分のあまりの変わりように嘆息した。
普段はボサボサで不揃いの眉が、今はキレイなアーチを描き、大きな瞳はアイシャドウとアイラインが引かれたおかげか、見るものを惹きつけるような目力が宿っていた。
まつ毛はマスカラでしっかりカールさせて伸ばされ、頬はバラ色に色づいていて、幾分か血色が良く見える。
「円さん、元がキレイだから、メイクするのすごく楽しかったよ」
「そう……ボクはちょっと落ち着かないかな。唇ベタベタするし……」
よく見ると、唇にはピンクのラメ入りリップが塗られている。
──女の子って、毎日毎日こんなのを口につけて出歩くのか……
うっとおしくないのかな?
「次はヘアセットしましょ!」
円の疑問もどこ吹く風で、咲子はウサギのキャラクターがプリントされたヘアブラシを取り出して、円の背後に回ると、髪をとかしはじめた。
──髪、伸びたな
そろそろ切ったほうがいいかも
咲子に好きなようにさせている間、円は鏡を見つめながら、頭の中で床屋に行く予定を立てた。
ろくに手入れをせず、野放図に伸ばした髪は、もう少しで円の肩に届きそうだった。
「できたよ!いいカンジ!!」
メイクは15分程度なのに対して、ヘアセットはその倍くらい時間がかかった気がした。
後頭部に違和感を感じる。
多分、アクセサリーか何かつけられているのだろう。
「オシャレだね」
「うん!この髪型、美容師やってる友達が考えたんだよね!!後ろの編み込みのところが大変なんだあ」
咲子が円に施したヘアセットについて説明を始めたところ、玄関ドアが開く音がした。
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