【完結】オメガの円が秘密にしていること

若目

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朗らかな気持ち

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「わたしは、きみが何者でも、きみの親御さんがどんな人であっても、関係の無いことだと思ってる」
円の話を聞き終えた大木の父親が、答えを出した。

「……そうですか」
「そうだ。オメガだろうが、ひとり親家庭だろうが、昔に起きた殺人事件の関係者だろうが、知成が決めた相手だ。自分の子どもの色恋沙汰に、とやかく言うつもりはない」
「私も同意見よ。マスコミとか下世話な人が来るかもしれないって言うけどね、そういう人はすぐに別の話題に飛びついちゃうものよ。「人の噂も七五日」って言うじゃない。大したことないわ」
大木の母親は、まるで飛んできた虫を払いのけるかのように、ほっそりした手を目の前にかざした。

「言えてる!それにさ、結婚はしてないけど、もう番になってるんだったら、たいぶ今さらじゃない?何なら、もう「関係者」みたいなもんじゃない」
咲子も両親に追従するように言い放ち、皿の上のマカロンをひとつ、つまみ上げてかじった。
「それも、そうか……」
咲子の言うことも一理あるな、と円は納得した。


「ありがとうございます。専務、人事部長」
今日、言おうと思っていたことを全て吐露し終わった円は、深々と頭を下げた。
「おいおい、会社の外でまで「専務」はよしてくれ!」
大木の父親は鳩が豆鉄炮を食らったような顔をした。

「ボクが本社に異動が決まったの、専務と部長がいろいろ根回ししてくれたおかげだって聞きました。今回お邪魔したのは、そのお礼を言いたいから、というのもあるんです」
これも本音だった。
本社の専務たる大木の父親には、本当に感謝している。
しかし、その感謝の意を伝えようにも、専務と直接話せる機会など、なかなか見つからない。
感謝の意を述べるなら、このときしかないと考えて、今日に至ったのだ。

「あれは、向こうの人事や上層部に問題があると思ったから、介入させてもらったまでのことだ。知成じゃなくても、あれほどの問題を誰かに通告されたら、同じようなことをしたよ」
「そうよ。確かにね、知成から話を聞いて、いくらか根回しをしたわ。でも、それはあなたの実力と努力あってのものよ?ちゃんとした仕事をしている人が、きちんと評価されないのはおかしいと思ったから、向こうの人事に呼びかけたの」
大木の父親に続くように、大木の母親が答える。

「ありがとうございます」
円はまた、深々と頭を下げた。
「うん。本社でも、頑張ってくれ。きみの能力次第では、昇進も夢じゃないからな。ただまあ、今の私は「専務」じゃあないんだ。仕事の話は会社でしよう。もう、きみ自身の話は済んだんだろう?」
「そうですね。伝えたいことは全て話しました」
円は下げていた頭をゆっくり上げた。

「今はきみがお客さんなんだから、かしこまらずに、ゆっくりしてくれ」
そうは言われたものの、「専務」「部長」以外になんと呼べばいいのだろう。
結婚していないのだから「お義父さん」「お義母さん」も変な気がするし、「丈成さん」「啓子さん」と呼ぶのは馴れ馴れしい気がする。


その日は、話したいことをすべて話して、すぐ帰ることにした。
長居する理由もないし、大木の家族だって、他人にいつまでも家に居られるのは居心地悪いだろう、と考えてのことだ。

「あまり長居する必要もないので、もうそろそろ失礼しますね」
円はそう言って、おもむろに立ち上がった。
「そうですか……父さん、母さん、咲子。俺は円さんを送っていくよ」
大木も、円に続いて立ち上がった。


帰り際、大木一家は円を玄関先まで見送ってくれた。
「円さん、機会あったら、また来てね!」
咲子が元気よく、手を振る。
「うん、ありがとう。みなさん、お邪魔しました」
円も、それに応えるようにして手を振った。
「ああ。来てくれて、ありがとう」
「お気をつけて」
大木の両親も、にこやかに手を振ってみせてくれた。
「さ、行きましょう、円さん」
大木が円の肩に手を置いた。
「うん」
大木に促されて、円は足を進めた。
「ねえ、ごはんはまだ食べてないんですよね?」
大木が大柄な体をかがめて、円の顔を覗き込む。
「うん。どっかで食べようかな」
「そうですね、どっか安いとこ探しましょう」
大木がポケットの中を探り、スマートフォンを取り出した。

「ううん、今日はね、高いところでもいいんだ。今は気分がいいから、ちょっと散財したい気分なの」
「え?ああ、そうですか。じゃあ、近くの店でいいですか?家族でよく行ってるところなんですけど…」
「うん、ぜひ連れて行って」
円は大木の節くれだった大きな手に自分の手を持っていき、指を絡めた。
「りょーかいです!」
大木がそれに応えるように、にっこり笑うと、ギュッと円の手を握った。

脚が長く、円とは比べものにならないくらいに歩幅が広い大木と手を繋いだまま歩くと、大型犬に引っ張られているみたいだ。
以前はこれを面倒くさいと感じていたし、お金にもならないから、さっさと帰りたいと思っていた。
だが今は、大木と過ごす時間が何よりも愛おしい。

日の当たる道を大木に引っ張られながら、円は朗らかな気持ちで歩いていった。
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