【完結】オメガの円が秘密にしていること

若目

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緊張の瞬間

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「ね、円さん、こっち座って!お兄ちゃんはそっち!」
咲子の先導で、円は3人掛けソファの真ん中に、咲子と大木に挟まれるような形で座った。

「そういえば円さん、アレルギーとか大丈夫かしら?紅茶でいい?」
大木の母親がキッチンから顔をのぞかせて、呼びかけてきた。

「大丈夫ですよ。紅茶は好きです」
他人の家に呼ばれたことなど、一体何年ぶりであろうか。
なかなか緊張が解けない円は、可愛らしい女の子と大柄な男に挟まれながら、縮こまるようにして座った。

「お茶をどうぞ」
キッチンから出てきた大木の母親が、紅茶を入れたカップ3人分と、お菓子が盛られた皿とをトレーに乗せて持って来てくれた。
「ありがとうございます」
テーブルにトレーが置かれると、円は啓子に礼を言った。

「ねえ、これ、すっごくおいしいよ!この日のために買ってきたの!!」
咲子が皿から取って差し出したのは、クリームと苺がサンドイッチのように挟まれたピンク色のマカロンだった。
円は咲子に促されるまま、差し出されたマカロンを受け取り、一口かじった。

「……おいしいね、コレ」
本音からくる感想だった。
舌にベトつくくらい甘いのだろうと思っていたマカロンは、意外にも風味がさっぱりしていた。

間に挟まった苺の酸味とマカロンの甘味が上手く混じり合い、甘すぎず、酸っぱすぎない、ほどよい味を出している。
「でしょー⁈気に入ってくれてうれしー!!」
咲子は無邪気にはしゃぎながら、自分もマカロンを取って口に放り込んだ。
「うるさいぞ、咲子。ホントにすみませんね、円さん」
大木は呆れた顔をして、咲子をたしなめた。

「知成の言うとおりよ咲子。ホントに落ち着きがないんだから……お客様の前なのに」
大木の母親が円と向かい合うように設置されたソファに腰かけた。

「別にいいんじゃないですか?明るくて元気なのは、すっごくいいことですよ」
円は自然と顔が綻ぶのを感じた。
数年ぶりに他人の家にお邪魔して緊張していたから、咲子のあっけらかんとした態度は、かえって円を安心させてくれた。



なごやかな雰囲気になったところで、玄関ドアが開く音がした。
「あら、お父さんが帰ってきたわ」
大木の母親が音に反応して立ち上がった。
パタ、パタ、という足音がどんどん大きくなり、こちらにゆっくり近づいていく。

「おかえりなさい。円さん、もう来てるわよ」
大木の母親がリビングと廊下を隔てる白いドアを開けて、夫を出迎えた。
「お父さんおかえりー!ほら、この人が円さんだよ!すごくキレイでしょ?」
咲子の明るい声を聞いて、円は見がまえた。
ドアの向こうから、背の高い年配の男性が出てきた。
この男性が大木の父親で、本社の専務なのだ。
歳の頃は妻と同じくらい。
白髪まじりの髪をきっちりオールバックにセットしていて、浅黒い肌にはいくつものシワがたたまれている。
眉は太く平行に伸びていて、鼻は高く、口が大きい。
背が高く、肩幅は広くていかり気味。

これらの特徴の大半は、長男たる大木に引き継がれている。
大木はどちらかといえば、父親の遺伝子の影響が強いようだった。

「は、はじめまして。知成さんとお付き合いさせてもらってます、富永円と申します」
円はおもむろにソファから立ち上がって、お辞儀をした。
「ああ、はじめまして。そうか、君が……知成から話は聞いているよ」
大木の父親が、円が思っていたより低い声で挨拶を返す。


解けつつあった緊張の糸が、またピンと張りはじめた。
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