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恋人の母親
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大木の母親は間違いなく美人と言える顔つきをしているが、「大きな家の御夫人」というよりかは、「気のいい庶民の主婦」といった風情の女性だった。
家に客が来るのだから当然と言えば当然だが、ナチュラルブラウンに染めた髪はきっちりセットされ、艶めいている。
この日のために、わざわざ染め直したのかもしれない。
年相応にまぶたがたるんでいるせいで目は小さめだが、その黒目がちの瞳は間違いなく大木と咲子と同じものだった。
色白で顔が小さく、フェイスラインはくっきりときれいなカーブを描いている。
この特徴は咲子に受け継がれているが、子どもたち2人と違って、口はどちらかと言えば小さいし、眉は細い。
体格は小柄で華奢で、これも咲子に受け継がれていた。
ベージュのカーディガンに白いカットソー、ダークブラウンのスカートは地味過ぎず、派手過ぎない、ほどよいバランスが取れていた。
センスの良い、カジュアルにもフォーマルにも合う服だ。
円は急に、自分の身なりが気になってきた。
大木に選んでもらった服を着てきたのだけど、地味で堅苦し過ぎないだろうか。
髪をワックスで整えてみたけど、つけ過ぎてテカテカしていないだろうか。
「はじめまして、わたし、知成の母親の啓子です。まどかさん、でいいのよね?」
大木の母親が円に、にっこり笑いかけてくる。
上品だが気取っておらず、とっつきやすい笑顔だ。
「はい、円と申します。ああ、これ、つまらないものですが…」
円は持っていたデパートの袋を大木の母親に渡した。
中身は入浴剤の詰め合わせだ。
デパートの生活雑貨売り場を歩き回り、販売員に相談して、アレコレ悩んで買ったものだ。
「まあ、ありがとう」
大木の母親は袋の中身をあまりしっかり確認せずに受け取った。
──あとで袋の中身を見られて、がっかりされないかな……
今の円には、それが気がかりだった。
「円さん、早く入って。この日のためにいろいろ用意したんだよ!」
咲子が円の手首を掴んで、軽く引っ張る。
「こら、急かすんじゃないわよ」
大木の母親が咲子に注意した。
「そうだぞ咲子。すみませんね、円さん」
「いや、大丈夫だから……お邪魔しますね」
円は下ろしたての靴を脱いで、上がり框をまたぎ、大木の家にお邪魔した。
「リビング、こっちよ!」
咲子が円の手を引いて、誘導してくる。
来客にそなえて掃除したのもあるだろうが、どこもかしこもキレイに整理されている。
大木の母親と咲子の後についていくようにして、大木と円はリビングに向かった。
家そのものが大きいからか、玄関からリビングまで、まあまあの距離がある。
廊下とリビングは白いドアで隔てられていて、玄関ドアと同様に、ステンドグラスがはめ込まれた丸窓がついている。
「好きなとこ座っててくれる?お茶とお菓子を出すわ」
洒落たドアを開けると、大木の母親はキッチンに向かった。
「ああ、はい」
さて、どこに座ろうかと円はリビングを見回した。
この家のリビングは、円の部屋の5倍ぐらいの広さがある。
キッチン付近にはダークブラウンの猫脚のダイニングテーブル、イスが置かれている。
大きな窓にはボルドーのフリルのカーテン、壁にはアンティークデザインの振り子時計に、豪華な額縁に入れられた絵画、壁際に置かれた背の高いラックには本やマンガがぎっしり並べられている。
ラックの上は家族写真に、うさぎの置き物やオルゴール、帽子箱がバランスよく配置されている。
リビングの端にテレビ台があり、その前に3人掛けソファが2台、木製のローテーブルを挟むように置かれていて、床にはどっしりした分厚い絨毯が敷かれてある。
先ほど見たロココ調の庭とは打って変わって、ヴィクトリアン調のインテリアで統一されており、シャーロック・ホームズがくつろいでいそうな雰囲気があった。
こんな家で大木は育ったのか、と円はしみじみとした感慨に耽った。
家に客が来るのだから当然と言えば当然だが、ナチュラルブラウンに染めた髪はきっちりセットされ、艶めいている。
この日のために、わざわざ染め直したのかもしれない。
年相応にまぶたがたるんでいるせいで目は小さめだが、その黒目がちの瞳は間違いなく大木と咲子と同じものだった。
色白で顔が小さく、フェイスラインはくっきりときれいなカーブを描いている。
この特徴は咲子に受け継がれているが、子どもたち2人と違って、口はどちらかと言えば小さいし、眉は細い。
体格は小柄で華奢で、これも咲子に受け継がれていた。
ベージュのカーディガンに白いカットソー、ダークブラウンのスカートは地味過ぎず、派手過ぎない、ほどよいバランスが取れていた。
センスの良い、カジュアルにもフォーマルにも合う服だ。
円は急に、自分の身なりが気になってきた。
大木に選んでもらった服を着てきたのだけど、地味で堅苦し過ぎないだろうか。
髪をワックスで整えてみたけど、つけ過ぎてテカテカしていないだろうか。
「はじめまして、わたし、知成の母親の啓子です。まどかさん、でいいのよね?」
大木の母親が円に、にっこり笑いかけてくる。
上品だが気取っておらず、とっつきやすい笑顔だ。
「はい、円と申します。ああ、これ、つまらないものですが…」
円は持っていたデパートの袋を大木の母親に渡した。
中身は入浴剤の詰め合わせだ。
デパートの生活雑貨売り場を歩き回り、販売員に相談して、アレコレ悩んで買ったものだ。
「まあ、ありがとう」
大木の母親は袋の中身をあまりしっかり確認せずに受け取った。
──あとで袋の中身を見られて、がっかりされないかな……
今の円には、それが気がかりだった。
「円さん、早く入って。この日のためにいろいろ用意したんだよ!」
咲子が円の手首を掴んで、軽く引っ張る。
「こら、急かすんじゃないわよ」
大木の母親が咲子に注意した。
「そうだぞ咲子。すみませんね、円さん」
「いや、大丈夫だから……お邪魔しますね」
円は下ろしたての靴を脱いで、上がり框をまたぎ、大木の家にお邪魔した。
「リビング、こっちよ!」
咲子が円の手を引いて、誘導してくる。
来客にそなえて掃除したのもあるだろうが、どこもかしこもキレイに整理されている。
大木の母親と咲子の後についていくようにして、大木と円はリビングに向かった。
家そのものが大きいからか、玄関からリビングまで、まあまあの距離がある。
廊下とリビングは白いドアで隔てられていて、玄関ドアと同様に、ステンドグラスがはめ込まれた丸窓がついている。
「好きなとこ座っててくれる?お茶とお菓子を出すわ」
洒落たドアを開けると、大木の母親はキッチンに向かった。
「ああ、はい」
さて、どこに座ろうかと円はリビングを見回した。
この家のリビングは、円の部屋の5倍ぐらいの広さがある。
キッチン付近にはダークブラウンの猫脚のダイニングテーブル、イスが置かれている。
大きな窓にはボルドーのフリルのカーテン、壁にはアンティークデザインの振り子時計に、豪華な額縁に入れられた絵画、壁際に置かれた背の高いラックには本やマンガがぎっしり並べられている。
ラックの上は家族写真に、うさぎの置き物やオルゴール、帽子箱がバランスよく配置されている。
リビングの端にテレビ台があり、その前に3人掛けソファが2台、木製のローテーブルを挟むように置かれていて、床にはどっしりした分厚い絨毯が敷かれてある。
先ほど見たロココ調の庭とは打って変わって、ヴィクトリアン調のインテリアで統一されており、シャーロック・ホームズがくつろいでいそうな雰囲気があった。
こんな家で大木は育ったのか、と円はしみじみとした感慨に耽った。
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