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聞き耳立てる隣人

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OLの右室凛花みぎむろりんかは悩まされていた。
この安アパートに引っ越して、もうすぐ半年が経つ。
駅から徒歩15分、築40年で風呂とトイレはユニットバスという条件ながら、スーパーとコンビニ、ドラッグストアが近い。
壁が薄いため、隣人の足音やドアを開閉する音、トイレを流す音などがしょっちゅう聞こえてはくるが、我慢できないほどではなかった。

しかし、最近は異常なほどにうるさい。
隣人が誰かを出入りさせているのか、話し声やドスンドスンという大きな足音がたびたび聞こえてくるようになった。
それだけならまだいいが、どう考えてもとしか思えない声が響いてくるようになると、心穏やかではいられない。
週末になると特に酷く、肉がぶつかり合う音や、ベッドの軋む音まで聞こえてくることもあった。

そんな日々に心底ウンザリしながら、引っ越しも考えはじめていた週末の買い物帰り、部屋から出てきた隣人と鉢合わせた。
今の今まで、隣人の姿を見たのはたったの1度だけ。
そのときはマスクにメガネ、スカーフをしていたため、どんな顔をしているのか、男か女かさえもわからなかった。
今はスカーフをしていないから、首もしっかり晒されていて、そこに喉仏かあるのが確認できた。
つまり、隣人は男だ。
マスクもメガネも外した隣人のそばには、大柄な男性が立っている。
隣人はこの男性と事に及んで、あんな声を出しているのか、などと凛花は下卑た想像を膨らませた。
「こんにちは」
隣人が挨拶してきた。
凛花はここで初めて、隣人の顔をまともに見た。
歳の頃は20代といったところか、ひょっとしたらもっと若いかもしれない。
中性的で幼顔の、キレイな顔をしている。
ふっくらした唇、すべすべした白い肌、大きな瞳。
大柄な男の方も、大きな口が特徴的な、端正な顔つきをしている。
華奢でほっそりした隣人とは打って変わって、筋肉質でがっしりしたスポーツマンタイプの美形だ。
広い肩と厚い胸板が、頼もしい印象を与える。
「………こ、こんにちは」
凛花は思わずほーっと見惚れてしまって、挨拶を返すのを忘れるところだった。

なんだか気恥ずかしい気持ちになった凛花は、その場に立ってもいられず、急いで部屋に入っていった。
部屋に入っていく間際、隣人の首筋に大きな咬み傷があるのが見えた。

──お隣さん、オメガだったんだ……
じゃあ、そばに立ってたあの人は、番のアルファってこと?

ドアをバタンと閉めると、買ってきた物が床に転がるのも構わず、持っていたエコバッグを土間に置いた。

──あんなキレイな人たちが…

凛花は靴を脱ぐことさえ忘れて、土間に立ち尽くした。
同時に、華奢で小柄なオメガの隣人が、大柄なアルファの男に蹂躙され、喘いでいるところを想像した。
胸がドキドキと高鳴り、顔は沸騰したようにカッカと熱い。

──わたし、いいところに引っ越しちゃったかも……

これ以降、凛花は隣人の声が聞こえてくるのが楽しみになった。


「あんっ……あっ!」
次の週末、またあの声が聞こえてきた。
凛花は忍び足で壁際に歩み寄り、耳を壁につけて、隣人の声を聞いた。
最近、隣人と番のアルファのことが気になって仕方ない。

2人はどこで出会ったの?
2人はいわゆる「運命の番」なの?
番になるってどんなカンジ?
発情期ってどんなもの?

1度だけでも聞いてはみたいが、そんな下世話な詮索ができるわけもない。
自分のやっていることが悪趣味な行為だとわかってはいる。
でも、簡単にはやめられない。
あれほど美しいアルファだって、あんなに愛らしいオメガだって、そう簡単に出会えるものではないのだから。
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