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自分と他人の違い
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「大木くんのご両親に感謝だね。もし本社で会ったら、お礼を言わなきゃ」
円はメニューをめくりながら言った。
「いや、円さんが昇進できたのは俺の口利きもあったと思いますけど、あのことが耳に入ったら、父親も母親も同じことすると思うんですよ」
「あのこと?」
「常務のアウティングですよ」
アウティングとは、本人の了解なく他人に公にしていない性的指向や性同一性などを暴露することだ。
確かに、常務のアレはこの「アウティング」に該当するだろう。
「どうして?」
「うちの親はね、そういうの絶対許さないし、優秀だけどオメガだから昇進させないとか、そういうのもすっごく嫌うんです」
なるほど、大木のこの優しさや寛容さは両親の良識ある教育で培われたものなのか、と円はひとり感心した。
「いいご両親だね」
自分の両親とは大違いだな、と円は思った。
「いや、それが普通ですよ。仕事の評価に性別とか歳とか関係ないじゃないですか。父親ね、常務がしたことは人権侵害だ罰せられるべきだーって言ってたし、俺も同感ですよ、これ」
大木の言葉に、少しばかり怒気が滲む。
「知成くん、何食べる?」
このままだと大木が本気で怒り出してしまいそうなので、円はあわてて話題をすり替えた。
「ああ、そうだ。円さんは?」
大木が思い出したようにメニューに目を向けた。
「ボクはシーフードドリアと……それだけでいいかな」
円はメニューを閉じて、スタンドに立てかけた。
「俺はビーフピザとカルボナーラとフライドポテトで。ねえ、円さんって食が細いですよね。それだけで足りるんですか?」
「知成くんが大食いなんだよ。それだけ食べてよく胃が保つよね」
「食べなきゃやってられませんよー」
大木が悩ましげに頭をガシガシ掻いた。
無理もない、納期が迫っているから、在庫係は大忙しなのだ。
円はこの峠を越えたら、うんと甘やかしてあげよう、などと考えた。
「知成くんはどうしてアルファだってこととか、お父さんが向こうの専務だってこと隠してたの?」
円は疑問を口に出した。
アルファであることや、父親が重役であることを公にした方が、いろいろと有利に働くだろうに、なぜ黙っていたのだろう。
「昇進したときとかね、何か成功したときにアイツはアルファだから出世できたんだとか、アイツは親の七光りで好き勝手してるとか言われるのが嫌だったんです」
「ああ、なるほど」
円はいつかテレビで見た「某会社の社員が、アルファであることを理由にハラスメントを受けたとして、勤務先に精神的苦痛の慰謝料請求をした」というニュースを思い出した。
アルファには、アルファなりの苦悩があるのだ。
「アルファの人も大変だね」
「まあ実際、何か意見がすれ違ったりすると「さすがアルファ様は言うこと違うな」とか「自分だけは違うって言いたいの?」とか嫌味言われたことありますけど…でもまあ、オメガの人の方が大変じゃないですか?就職難しいし、3ヶ月に1回は休まないと生きてられないし、その薬代もバカにならないんでしょう?」
「まあね、でも、それもいつかは慣れるんだよ」
ふと、軽井沢のことが思い出された。
彼もオメガだし、同じような苦労をしてきたのではないか。
円が事件の関係者であることを吐露したものの、軽井沢はどこかに口外することはなかった。
軽薄な彼にも、それなりの良識はあるのかもしれない。
軽井沢にも問題があったとはいえ言い過ぎた、と円は反省した。
頃合いを見て、暴言を吐いたことを謝ったほうが良いだろう。
そう考えているうち、注文した料理が運ばれてきて、仕事の愚痴や家族のことについて、大木とたくさん話し込んだ。
円はメニューをめくりながら言った。
「いや、円さんが昇進できたのは俺の口利きもあったと思いますけど、あのことが耳に入ったら、父親も母親も同じことすると思うんですよ」
「あのこと?」
「常務のアウティングですよ」
アウティングとは、本人の了解なく他人に公にしていない性的指向や性同一性などを暴露することだ。
確かに、常務のアレはこの「アウティング」に該当するだろう。
「どうして?」
「うちの親はね、そういうの絶対許さないし、優秀だけどオメガだから昇進させないとか、そういうのもすっごく嫌うんです」
なるほど、大木のこの優しさや寛容さは両親の良識ある教育で培われたものなのか、と円はひとり感心した。
「いいご両親だね」
自分の両親とは大違いだな、と円は思った。
「いや、それが普通ですよ。仕事の評価に性別とか歳とか関係ないじゃないですか。父親ね、常務がしたことは人権侵害だ罰せられるべきだーって言ってたし、俺も同感ですよ、これ」
大木の言葉に、少しばかり怒気が滲む。
「知成くん、何食べる?」
このままだと大木が本気で怒り出してしまいそうなので、円はあわてて話題をすり替えた。
「ああ、そうだ。円さんは?」
大木が思い出したようにメニューに目を向けた。
「ボクはシーフードドリアと……それだけでいいかな」
円はメニューを閉じて、スタンドに立てかけた。
「俺はビーフピザとカルボナーラとフライドポテトで。ねえ、円さんって食が細いですよね。それだけで足りるんですか?」
「知成くんが大食いなんだよ。それだけ食べてよく胃が保つよね」
「食べなきゃやってられませんよー」
大木が悩ましげに頭をガシガシ掻いた。
無理もない、納期が迫っているから、在庫係は大忙しなのだ。
円はこの峠を越えたら、うんと甘やかしてあげよう、などと考えた。
「知成くんはどうしてアルファだってこととか、お父さんが向こうの専務だってこと隠してたの?」
円は疑問を口に出した。
アルファであることや、父親が重役であることを公にした方が、いろいろと有利に働くだろうに、なぜ黙っていたのだろう。
「昇進したときとかね、何か成功したときにアイツはアルファだから出世できたんだとか、アイツは親の七光りで好き勝手してるとか言われるのが嫌だったんです」
「ああ、なるほど」
円はいつかテレビで見た「某会社の社員が、アルファであることを理由にハラスメントを受けたとして、勤務先に精神的苦痛の慰謝料請求をした」というニュースを思い出した。
アルファには、アルファなりの苦悩があるのだ。
「アルファの人も大変だね」
「まあ実際、何か意見がすれ違ったりすると「さすがアルファ様は言うこと違うな」とか「自分だけは違うって言いたいの?」とか嫌味言われたことありますけど…でもまあ、オメガの人の方が大変じゃないですか?就職難しいし、3ヶ月に1回は休まないと生きてられないし、その薬代もバカにならないんでしょう?」
「まあね、でも、それもいつかは慣れるんだよ」
ふと、軽井沢のことが思い出された。
彼もオメガだし、同じような苦労をしてきたのではないか。
円が事件の関係者であることを吐露したものの、軽井沢はどこかに口外することはなかった。
軽薄な彼にも、それなりの良識はあるのかもしれない。
軽井沢にも問題があったとはいえ言い過ぎた、と円は反省した。
頃合いを見て、暴言を吐いたことを謝ったほうが良いだろう。
そう考えているうち、注文した料理が運ばれてきて、仕事の愚痴や家族のことについて、大木とたくさん話し込んだ。
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