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暴露
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「……あの、すみません」
何か言おうと近づいたはいいが、どんな言葉をかければ良いかわからず、反射的に謝罪の言葉を投げかけた。
「何を謝ることがあるの?」
先輩が睨みつけてくる。
彼はいつもはマスクとメガネをしていて表情がわかりにくいが、今日は違う。
顔が全部出ていると、眉間の皺や眼光の鋭さがよくわかる。
いつもは大人しくて目立たない彼は、こんな表情をして怒るのか、と軽井沢は怖くなった。
「あ……えっと」
軽井沢が言い淀む。
先輩の言っていることはもっともだ。
一体、自分は何に対して謝っているのだろう。
「ボクに謝るより先に、知智さんにお礼言いなよ。君のことかばってくれたんだよ?」
「はい……」
「ねえ、受付に来てたあの男の人ってアルファ?君の彼氏?」
「違います…あ、アルファだけど。その、合コンで知り合ったんですけど、しつこくまとわりついてきて…酷いこと言ってくるし、断っても断ってもやって来るし…」
「酷いことって?」
「あの人、その…「結婚はしないけど、番になって子ども産んでくれ」って言ってきて…「俺、番を集めてるんだよね!」とか、僕のことコレクションの一部みたいな物言いするし…」
軽井沢の話を聞いた先輩の表情が、ますます険しくなる。
「いいこと教えてあげるね、金持ちのアルファで一穴主義なんてほとんどいないから。いたとしても、そういう人は自分と同じくらいの能力があるアルファと結婚するんだよ。学も技能も地位もない、まともに仕事しないボンクラのオメガなんか見向きもしないよ」
「え…」
普段はあまり話さない先輩が、急に激しい言葉で自分を批難し始めたことに、軽井沢は驚きを隠せなかった。
「ほんとに今さらだけどね、お前いい加減まじめに仕事しなよ。しないならしないでサッサと辞めてくれる?どうせ寿退社する気満々でテキトーな気持ちでやってんだろ?」
「あ…」
図星をつかれてしまって、軽井沢は何も言えなかった。
「お前がろくに仕事しないとさ、知智さんの評価にも関わってくるんだよ。何であの人がお前なんかをかばったか知ってる?親切心ってのもあるけどね、知智さん、昇進かかってるんだよ。娘さんが受験生でこれからお金がかかるから必死に働いてんの!」
先輩の批難は止まらない。
「ケミーちゃんなんか英会話に通いたいのも我慢して毎日2時間以上は残業してるよ。ゆくゆくは彼氏と結婚して旦那に万が一のことあったら旦那を自分が養いたいから、そういうスキルつけたいから、地道に勉強がんばってんの」
──ケミーちゃん?
ああ、確か清水さんがそんな風に呼ばれてたな
「お前だけだよ。将来のことなんかなーんにも考えずに「結婚すればどうにかなる」みたいな甘ったるい考え方で仕事してるの。だからお前はろくでもないアルファに引っかかったんだ。まともな人は絶対お前なんか選ばないね!他人はお前が思うほどバカじゃないよ」
軽井沢は気まずい気持ちのまま、そこで立ち尽くすだけだった。
快く思われていないのは、うすうす気づいていた。
しかし、こうも強く責め立てられるのは予想の範囲外だ。
「M区のタワマンで本妻に刺し殺されたバカなアルファの話、知ってる?」
「え?まあ…はい」
突然、どうしてそんなことを言い出すのだろう。
軽井沢は今、目の前に立っている先輩が別の生き物のようにさえ感じられた。
「そのアルファに囲われてたバカなオメガの愛人、アルファが死んだ後はどうなったと思う?大半は貧乏になって泣いて過ごすハメになったんだよ。オメガに就ける仕事なんて限られてるし他の番を探そうにも歳食ってコブつきのオメガなんか拾ってくれる人いないし、そもそもアルファに依存してソイツの金で遊んでばっかいた奴がいきなり働けって言われても土台ムリだもの。酷いヤツは生活に困って窃盗して逮捕されたんだってさ。お前もいつかそうなるんじゃない?」
「………その…ずいぶん、お詳しいんですね」
ようやく出た言葉がそれだった。
通常、こうまで言われたら腹が立ったり、悔しくて涙が出そうなものだが、こうも猛烈に怒りをぶつけてこられると、もう何を言ったらいいのかわからない。
「その刺し殺されたバカなアルファの男、ボクの親父だよ」
先輩はそう言い捨てると、足速に去って行った。
何か言おうと近づいたはいいが、どんな言葉をかければ良いかわからず、反射的に謝罪の言葉を投げかけた。
「何を謝ることがあるの?」
先輩が睨みつけてくる。
彼はいつもはマスクとメガネをしていて表情がわかりにくいが、今日は違う。
顔が全部出ていると、眉間の皺や眼光の鋭さがよくわかる。
いつもは大人しくて目立たない彼は、こんな表情をして怒るのか、と軽井沢は怖くなった。
「あ……えっと」
軽井沢が言い淀む。
先輩の言っていることはもっともだ。
一体、自分は何に対して謝っているのだろう。
「ボクに謝るより先に、知智さんにお礼言いなよ。君のことかばってくれたんだよ?」
「はい……」
「ねえ、受付に来てたあの男の人ってアルファ?君の彼氏?」
「違います…あ、アルファだけど。その、合コンで知り合ったんですけど、しつこくまとわりついてきて…酷いこと言ってくるし、断っても断ってもやって来るし…」
「酷いことって?」
「あの人、その…「結婚はしないけど、番になって子ども産んでくれ」って言ってきて…「俺、番を集めてるんだよね!」とか、僕のことコレクションの一部みたいな物言いするし…」
軽井沢の話を聞いた先輩の表情が、ますます険しくなる。
「いいこと教えてあげるね、金持ちのアルファで一穴主義なんてほとんどいないから。いたとしても、そういう人は自分と同じくらいの能力があるアルファと結婚するんだよ。学も技能も地位もない、まともに仕事しないボンクラのオメガなんか見向きもしないよ」
「え…」
普段はあまり話さない先輩が、急に激しい言葉で自分を批難し始めたことに、軽井沢は驚きを隠せなかった。
「ほんとに今さらだけどね、お前いい加減まじめに仕事しなよ。しないならしないでサッサと辞めてくれる?どうせ寿退社する気満々でテキトーな気持ちでやってんだろ?」
「あ…」
図星をつかれてしまって、軽井沢は何も言えなかった。
「お前がろくに仕事しないとさ、知智さんの評価にも関わってくるんだよ。何であの人がお前なんかをかばったか知ってる?親切心ってのもあるけどね、知智さん、昇進かかってるんだよ。娘さんが受験生でこれからお金がかかるから必死に働いてんの!」
先輩の批難は止まらない。
「ケミーちゃんなんか英会話に通いたいのも我慢して毎日2時間以上は残業してるよ。ゆくゆくは彼氏と結婚して旦那に万が一のことあったら旦那を自分が養いたいから、そういうスキルつけたいから、地道に勉強がんばってんの」
──ケミーちゃん?
ああ、確か清水さんがそんな風に呼ばれてたな
「お前だけだよ。将来のことなんかなーんにも考えずに「結婚すればどうにかなる」みたいな甘ったるい考え方で仕事してるの。だからお前はろくでもないアルファに引っかかったんだ。まともな人は絶対お前なんか選ばないね!他人はお前が思うほどバカじゃないよ」
軽井沢は気まずい気持ちのまま、そこで立ち尽くすだけだった。
快く思われていないのは、うすうす気づいていた。
しかし、こうも強く責め立てられるのは予想の範囲外だ。
「M区のタワマンで本妻に刺し殺されたバカなアルファの話、知ってる?」
「え?まあ…はい」
突然、どうしてそんなことを言い出すのだろう。
軽井沢は今、目の前に立っている先輩が別の生き物のようにさえ感じられた。
「そのアルファに囲われてたバカなオメガの愛人、アルファが死んだ後はどうなったと思う?大半は貧乏になって泣いて過ごすハメになったんだよ。オメガに就ける仕事なんて限られてるし他の番を探そうにも歳食ってコブつきのオメガなんか拾ってくれる人いないし、そもそもアルファに依存してソイツの金で遊んでばっかいた奴がいきなり働けって言われても土台ムリだもの。酷いヤツは生活に困って窃盗して逮捕されたんだってさ。お前もいつかそうなるんじゃない?」
「………その…ずいぶん、お詳しいんですね」
ようやく出た言葉がそれだった。
通常、こうまで言われたら腹が立ったり、悔しくて涙が出そうなものだが、こうも猛烈に怒りをぶつけてこられると、もう何を言ったらいいのかわからない。
「その刺し殺されたバカなアルファの男、ボクの親父だよ」
先輩はそう言い捨てると、足速に去って行った。
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