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軽井沢の誤算
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軽井沢純は、遊び仲間の橋すみれと居酒屋で談笑していた。
「いやー、こないだの合コン、ホントに大成功だあ。あの人は大当たりだった!」
軽井沢は梅酒のソーダ割りを飲むと、軽くゲップをした。
「私はビミョー、あそこにいた人たち、私はなーんかイヤなカンジする」
「イケメンで金持ちでさあ、優しいだけじゃなくて取っつきやすくて…もう役満!僕も本気出すときが来たってカンジー」
すみれの愚痴など完全に無視して、軽井沢は自分の話を続けた。
「アンタのそのセリフ、もう聞き飽きたよ。どーせ、またちょっとしたことで勝手に幻滅して台無しにするんでしょ?」
すみれはスマートフォンをいじりながら、軽く鼻で笑った。
「しませんー、ま、すみれはご祝儀の準備でもしててよ!」
「はいはい」
まだ数回食事しただけなのに、もう結婚するつもりでいる軽井沢に呆れつつ、すみれはビールを一口飲んだ。
そんな言葉を交わした数日後、軽井沢は合コンで知り合ったアルファと食事に出かけた。
三つ星ホテルの最上階にある、夜景が見えるフレンチレストランだ。
──こんなとこ、初めて
この人、ガチのアタリだ!
「純くん、今日は仕事帰りなんだってね、お疲れ様」
アルファの男は、ナイフとフォークをカチャカチャ鳴らしてテリーヌを刻んだ。
「そんな…大貴さんも、お疲れ様です。僕の仕事なんて、あなたに比べたら大したこと無いですよお」
軽井沢はわざとらしく握り拳を頬に当てて、首を傾げた。
「いやー、オレなんて何もしてないよ、ハンコ押してるだけ!」
アルファの大貴が大口を開けて、テリーヌを飲み込むように食べた。
「純くん、受付に異動したんだっけ?」
「そうなんです…その、僕、オメガだから3ヶ月に1度は休んでるし、残業も難しいから…そのへんで職場の歳上の人たちに嫌われちゃって…」
軽井沢は伏し目がちに大貴を見つめた。
「大変だねえ、オレなら、そんな思いさせないよ」
大貴が憐れむような視線を送ってくる。
「そんな風に言ってもらえるなんて…僕、嬉しい」
軽井沢は大貴に倣うようにして、テリーヌを一切れ、口に放り込んだ。
「へえ…ねえ、オレと番にならない?」
──これ、「結婚して」ってことだよね!
やった!寿退社!!
しかし、軽井沢の期待はあっという間に、きれいに打ち砕かれた。
「オレさ、番集めてるんだよねー。今は番が5人いるんだけど…子どももたくさん欲しいんだ。自分の子どもだけで球団作るのが目標なんだよね。あー、だから、なるだけたくさん産んでくれる?最低でも3人は産んで欲しいなあ。仲間内じゃ子どもが何人いるかで競い合ってるし」
「え?えっと?」
驚きのあまり、軽井沢は間抜けな声を出した。
この男は何を言っているのだろう。
「何か不満なの?欲しいものは何でも買ってあげるし、オレ、浮気もオッケーだよ?」
「あ…「番が5人いる」って、大貴さん、結婚されてるんですか?その上で、他にも…」
噛みきれなかったテリーヌを口の中でもぐもぐ動かしながら、軽井沢は答えた。
「いや、オレ、結婚はしないの。誰か1人に絞るとかできないよ。オレは博愛主義だからさ!まあ、全員が愛人ってかたちで…君もそのつもりでね!」
「え…そんな……」
嫌です、と告げようとしたところ、男は嫌味っぽい表情を浮かべた。
「え、結婚すると思った?なに勘違いしてるの?アルファとオメガは主従関係なんだよ?オメガに拒否権とかないから!」
大貴はテリーヌのかけらが刺さったフォークの先を、軽井沢に向けてきた。
「あ…あの、すみません、今日は失礼します!」
予想外な出来事に軽井沢はパニックになり、急いで自分のバッグを掴むと、走って店を出て行った。
これが気に食わなかったらしい大貴は、会社の受付までやってきて、ちょっかいをかけてきた。
それだけならまだ良かったが、そこを常務に見つかり、嫌味を言われる羽目になった。
この際に、常務の不注意な発言が原因で、職場の先輩がオメガだと発覚したと同時に、辺りは騒然となった。
そして、どうしたわけか、その先輩が卒倒して、騒ぎが大きくなり、そのどさくさに紛れて大貴は逃げていった。
結構な大騒ぎの割に、5分ほどで辺りは鎮まりかえって、軽井沢はすぐに受付業務に戻ることができた。
それでも、倒れた先輩のことが気になって、なかなか業務に集中できなかった。
休憩に入った際に出くわしたときには、顔色があまり良くなかったものの、立って歩ける分には回復しているようで、心底ホッとした。
「いやー、こないだの合コン、ホントに大成功だあ。あの人は大当たりだった!」
軽井沢は梅酒のソーダ割りを飲むと、軽くゲップをした。
「私はビミョー、あそこにいた人たち、私はなーんかイヤなカンジする」
「イケメンで金持ちでさあ、優しいだけじゃなくて取っつきやすくて…もう役満!僕も本気出すときが来たってカンジー」
すみれの愚痴など完全に無視して、軽井沢は自分の話を続けた。
「アンタのそのセリフ、もう聞き飽きたよ。どーせ、またちょっとしたことで勝手に幻滅して台無しにするんでしょ?」
すみれはスマートフォンをいじりながら、軽く鼻で笑った。
「しませんー、ま、すみれはご祝儀の準備でもしててよ!」
「はいはい」
まだ数回食事しただけなのに、もう結婚するつもりでいる軽井沢に呆れつつ、すみれはビールを一口飲んだ。
そんな言葉を交わした数日後、軽井沢は合コンで知り合ったアルファと食事に出かけた。
三つ星ホテルの最上階にある、夜景が見えるフレンチレストランだ。
──こんなとこ、初めて
この人、ガチのアタリだ!
「純くん、今日は仕事帰りなんだってね、お疲れ様」
アルファの男は、ナイフとフォークをカチャカチャ鳴らしてテリーヌを刻んだ。
「そんな…大貴さんも、お疲れ様です。僕の仕事なんて、あなたに比べたら大したこと無いですよお」
軽井沢はわざとらしく握り拳を頬に当てて、首を傾げた。
「いやー、オレなんて何もしてないよ、ハンコ押してるだけ!」
アルファの大貴が大口を開けて、テリーヌを飲み込むように食べた。
「純くん、受付に異動したんだっけ?」
「そうなんです…その、僕、オメガだから3ヶ月に1度は休んでるし、残業も難しいから…そのへんで職場の歳上の人たちに嫌われちゃって…」
軽井沢は伏し目がちに大貴を見つめた。
「大変だねえ、オレなら、そんな思いさせないよ」
大貴が憐れむような視線を送ってくる。
「そんな風に言ってもらえるなんて…僕、嬉しい」
軽井沢は大貴に倣うようにして、テリーヌを一切れ、口に放り込んだ。
「へえ…ねえ、オレと番にならない?」
──これ、「結婚して」ってことだよね!
やった!寿退社!!
しかし、軽井沢の期待はあっという間に、きれいに打ち砕かれた。
「オレさ、番集めてるんだよねー。今は番が5人いるんだけど…子どももたくさん欲しいんだ。自分の子どもだけで球団作るのが目標なんだよね。あー、だから、なるだけたくさん産んでくれる?最低でも3人は産んで欲しいなあ。仲間内じゃ子どもが何人いるかで競い合ってるし」
「え?えっと?」
驚きのあまり、軽井沢は間抜けな声を出した。
この男は何を言っているのだろう。
「何か不満なの?欲しいものは何でも買ってあげるし、オレ、浮気もオッケーだよ?」
「あ…「番が5人いる」って、大貴さん、結婚されてるんですか?その上で、他にも…」
噛みきれなかったテリーヌを口の中でもぐもぐ動かしながら、軽井沢は答えた。
「いや、オレ、結婚はしないの。誰か1人に絞るとかできないよ。オレは博愛主義だからさ!まあ、全員が愛人ってかたちで…君もそのつもりでね!」
「え…そんな……」
嫌です、と告げようとしたところ、男は嫌味っぽい表情を浮かべた。
「え、結婚すると思った?なに勘違いしてるの?アルファとオメガは主従関係なんだよ?オメガに拒否権とかないから!」
大貴はテリーヌのかけらが刺さったフォークの先を、軽井沢に向けてきた。
「あ…あの、すみません、今日は失礼します!」
予想外な出来事に軽井沢はパニックになり、急いで自分のバッグを掴むと、走って店を出て行った。
これが気に食わなかったらしい大貴は、会社の受付までやってきて、ちょっかいをかけてきた。
それだけならまだ良かったが、そこを常務に見つかり、嫌味を言われる羽目になった。
この際に、常務の不注意な発言が原因で、職場の先輩がオメガだと発覚したと同時に、辺りは騒然となった。
そして、どうしたわけか、その先輩が卒倒して、騒ぎが大きくなり、そのどさくさに紛れて大貴は逃げていった。
結構な大騒ぎの割に、5分ほどで辺りは鎮まりかえって、軽井沢はすぐに受付業務に戻ることができた。
それでも、倒れた先輩のことが気になって、なかなか業務に集中できなかった。
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