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過去の記憶
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意識が戻りつつある最中、円は夢を見ていた。
忌まわしい、あの事件の光景が、DVDを再生するように鮮明に円の頭に浮かんでくる。
場所は、タワーマンションの最上階。
広々としたリビングにはマホガニー材のテーブルセット、黒革張りの4人掛けソファ、最新モデルの家電、背の高い観葉植物。
マホガニー材のテーブルには大小さまざまな料理が乗った皿が隙間なく並べられ、場所が無いからと本棚の上にまで皿を置いていた。
ダイニングキッチンから、いい匂いが漂ってくる。
「おまたせー、ローストビーフできたよ!」
明るくて元気の良い女の声が聞こえてくる。
カラーリングのお手本みたいにきれいな茶色で染められた女の髪が、ライトの光で艶めいている。
歳の頃は20代後半くらいだろうか。
この人は確か、父の10番目くらいの愛人だ。
名前は「ヒメコさん」といって、いつも料理していた記憶がある。
ヒメコさんが出来上がったローストビーフを皿に並べていくと、他の愛人がそこに寄って来た。
「おいしそー!あ、円くん、コレ食べる?」
ローストビーフの隣にあったフルーツの盛り合わせを片手に持って、若い男が円に近づいてきた。
この人は確か、「アキラさん」と呼ばれていた人で、15番目くらいの愛人だった。
円の記憶が正しければ、歳は20歳だと言っていたはずだ。
「何が食べたい?オレンジもあるし、キウイもあるよ」
円は皿の上に丁寧に並べられたフルーツの中から、無言でサクランボを取って食べた。
「あ、それにするんだね!豪貴さんも食べる?」
円の無礼な態度に気を悪くするでもなく、たしなめるでもなく、アキラさんはソファに座っている中年男に話しかけた。
「うん?ああ、オレはパス。フルーツそんなに好きじゃないんだよ」
アキラさんの方へほとんど顔を向けることなく、中年男が気怠そうに答える。
中年男はソファに大股開きで座ってテレビを見ている最中で、隣に座っている細身の男の肩を抱いている。
この中年男は、円の父だ。
40歳にもなるのに、20代前半の若者かのように赤茶色に染めた髪に、スパイラルパーマをあてている。
加えて、胸元にスカルがプリントされた黒いTシャツを着て、ロールアップにしたジーンズを履き、腰からはウォレットチェーンを垂らしている。
本人はまだ若いつもりなのだろう。
しかし、若いのは服装と髪型だけだ。
パーマをあてた髪には艶が無く、よく見ると頭頂部の髪は薄い。
今にして思えば、薄くなってきた髪をごまかすためにあの髪型にしていたのかもしれない。
目元や口元には年相応のシワが寄り、頬はむくみやたるみが目立つ。
腹はだらしなく膨らみ、着ているシャツは今にもはち切れてしまいそうだった。
40歳の顔と体に、20代前半の若者ファッションという風体は全体的にバランスが悪く、見ていて気分のいいものではない。
「あ、もしもし?拓美さん、仕事は?そう、じゃあ待ってるね!えっとね、ローストビーフとフライドチキンと、ポテトサラダにピザとパスタもあるよ。ヒメコさんが作ってくれてるところ」
リビングの隅で、豊満な乳房を持つ30歳前後の女が電話している。
彼女は「ナオミさん」といって、確か5番目か6番目くらいの愛人だった。
「円くんのお母さん、さっき仕事が終わったんだって」
ナオミさんが受話器を置いて、円に話しかけてきた。
「そっか。ほら、ごはん食べよう。お母さんの分を残しとこうね」
30代半ばの男が、優しく円に話しかける。
この人は「ユズルさん」で、父の最初の愛人だ。
父の寵愛を一番強く受けていたらしく、円の腹違いの兄と姉を5人も産んでいた。
「オレ、コレ食べる!」
ユズルさんの長男が、シフォンケーキが乗った皿をひったくるように持っていき、皿を床に置いて手づかみで食べ始めた。
「こら!こっちに座ってフォークで食べなさい。円くんにもあげるんだよ。ほら、円くん、こっち座って。一緒に食べようね」
ユズルさんは折りたたみテーブルを広げて、子ども用のスツールも用意した。
「どれも美味そうだなあ、お前の体に乗せて食いてえわ。今日はたくさん楽しもうな!」
父はソファから立ち上がると、テーブルに並べられた料理を眺めながら、アキラさんの尻を撫でた。
「やだあ、豪貴さんのエッチ!」
アキラさんが大袈裟にはしゃいだ。
「最近アキラくんばっかでズルーい!」
ナオミさんが父にすり寄り、胸を押し付けるようにして腕を絡める。
「ワタシも、楽しみたいな…」
ユズルさんの細くて白い指が、そろりと父の首筋を撫でた。
「ぼくも!」
父の隣に座っていた30代前半の細身の男も、その輪の中に加わった。
彼は最近になって連れてこられた愛人で、「シュンスケさん」と呼ばれていた。
「わかったわかった。みんなで楽しもう!」
寵愛を繋ぎ留めるための美辞麗句にすっかり気を良くした父は、愛人たちの体を好き勝手に、変わるがわる弄り始めた。
「ねえ!オレ、コレも食べたい!!」
ユズルさんの長男は、大人たちの事情など知ったことではないとばかりに、フライドチキンが乗った皿を指差した。
「うん、いいよ。ねえ豪貴さん、早く食べて、たくさん楽しもう?」
ヒメコさんはフライドチキンが乗った皿を長男に渡すと、父に意味ありげな視線を向けた。
忌まわしい、あの事件の光景が、DVDを再生するように鮮明に円の頭に浮かんでくる。
場所は、タワーマンションの最上階。
広々としたリビングにはマホガニー材のテーブルセット、黒革張りの4人掛けソファ、最新モデルの家電、背の高い観葉植物。
マホガニー材のテーブルには大小さまざまな料理が乗った皿が隙間なく並べられ、場所が無いからと本棚の上にまで皿を置いていた。
ダイニングキッチンから、いい匂いが漂ってくる。
「おまたせー、ローストビーフできたよ!」
明るくて元気の良い女の声が聞こえてくる。
カラーリングのお手本みたいにきれいな茶色で染められた女の髪が、ライトの光で艶めいている。
歳の頃は20代後半くらいだろうか。
この人は確か、父の10番目くらいの愛人だ。
名前は「ヒメコさん」といって、いつも料理していた記憶がある。
ヒメコさんが出来上がったローストビーフを皿に並べていくと、他の愛人がそこに寄って来た。
「おいしそー!あ、円くん、コレ食べる?」
ローストビーフの隣にあったフルーツの盛り合わせを片手に持って、若い男が円に近づいてきた。
この人は確か、「アキラさん」と呼ばれていた人で、15番目くらいの愛人だった。
円の記憶が正しければ、歳は20歳だと言っていたはずだ。
「何が食べたい?オレンジもあるし、キウイもあるよ」
円は皿の上に丁寧に並べられたフルーツの中から、無言でサクランボを取って食べた。
「あ、それにするんだね!豪貴さんも食べる?」
円の無礼な態度に気を悪くするでもなく、たしなめるでもなく、アキラさんはソファに座っている中年男に話しかけた。
「うん?ああ、オレはパス。フルーツそんなに好きじゃないんだよ」
アキラさんの方へほとんど顔を向けることなく、中年男が気怠そうに答える。
中年男はソファに大股開きで座ってテレビを見ている最中で、隣に座っている細身の男の肩を抱いている。
この中年男は、円の父だ。
40歳にもなるのに、20代前半の若者かのように赤茶色に染めた髪に、スパイラルパーマをあてている。
加えて、胸元にスカルがプリントされた黒いTシャツを着て、ロールアップにしたジーンズを履き、腰からはウォレットチェーンを垂らしている。
本人はまだ若いつもりなのだろう。
しかし、若いのは服装と髪型だけだ。
パーマをあてた髪には艶が無く、よく見ると頭頂部の髪は薄い。
今にして思えば、薄くなってきた髪をごまかすためにあの髪型にしていたのかもしれない。
目元や口元には年相応のシワが寄り、頬はむくみやたるみが目立つ。
腹はだらしなく膨らみ、着ているシャツは今にもはち切れてしまいそうだった。
40歳の顔と体に、20代前半の若者ファッションという風体は全体的にバランスが悪く、見ていて気分のいいものではない。
「あ、もしもし?拓美さん、仕事は?そう、じゃあ待ってるね!えっとね、ローストビーフとフライドチキンと、ポテトサラダにピザとパスタもあるよ。ヒメコさんが作ってくれてるところ」
リビングの隅で、豊満な乳房を持つ30歳前後の女が電話している。
彼女は「ナオミさん」といって、確か5番目か6番目くらいの愛人だった。
「円くんのお母さん、さっき仕事が終わったんだって」
ナオミさんが受話器を置いて、円に話しかけてきた。
「そっか。ほら、ごはん食べよう。お母さんの分を残しとこうね」
30代半ばの男が、優しく円に話しかける。
この人は「ユズルさん」で、父の最初の愛人だ。
父の寵愛を一番強く受けていたらしく、円の腹違いの兄と姉を5人も産んでいた。
「オレ、コレ食べる!」
ユズルさんの長男が、シフォンケーキが乗った皿をひったくるように持っていき、皿を床に置いて手づかみで食べ始めた。
「こら!こっちに座ってフォークで食べなさい。円くんにもあげるんだよ。ほら、円くん、こっち座って。一緒に食べようね」
ユズルさんは折りたたみテーブルを広げて、子ども用のスツールも用意した。
「どれも美味そうだなあ、お前の体に乗せて食いてえわ。今日はたくさん楽しもうな!」
父はソファから立ち上がると、テーブルに並べられた料理を眺めながら、アキラさんの尻を撫でた。
「やだあ、豪貴さんのエッチ!」
アキラさんが大袈裟にはしゃいだ。
「最近アキラくんばっかでズルーい!」
ナオミさんが父にすり寄り、胸を押し付けるようにして腕を絡める。
「ワタシも、楽しみたいな…」
ユズルさんの細くて白い指が、そろりと父の首筋を撫でた。
「ぼくも!」
父の隣に座っていた30代前半の細身の男も、その輪の中に加わった。
彼は最近になって連れてこられた愛人で、「シュンスケさん」と呼ばれていた。
「わかったわかった。みんなで楽しもう!」
寵愛を繋ぎ留めるための美辞麗句にすっかり気を良くした父は、愛人たちの体を好き勝手に、変わるがわる弄り始めた。
「ねえ!オレ、コレも食べたい!!」
ユズルさんの長男は、大人たちの事情など知ったことではないとばかりに、フライドチキンが乗った皿を指差した。
「うん、いいよ。ねえ豪貴さん、早く食べて、たくさん楽しもう?」
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