【完結】オメガの円が秘密にしていること

若目

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思わぬ出来事

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大木が入社してきて3ヶ月が経った。

「あの子、きっと長続きするわね。」
少し離れた場所で、在庫確認表にチェックを入れている大木を見つめながら、知智さんは嬉しそう耳打ちしてきた。
「そうですね。」
この3ヶ月間、大木はその人好きする態度と熱心な仕事ぶりで、早くも周囲に打ち解けていった。
「誰かさんとは大違いね。」
知智さんがジロリと軽井沢の方を見た。
それに対する小さな仕返しのつもりなのか、軽井沢も一瞬こちらを見た。
そして、こちらを見た後は知智さんの言うことなど何でもないとばかりにそっぽを向き、ノロノロと気だるげな手つきで搬入作業を続けた。
「まあ、ボクが2年半かけてやったことを3ヶ月でやってますよね、大木くん。」
軽井沢から話題を逸らしたかった円は、知智さんに同調するようにして大木を褒めそやした。
もっとも、これはとっさに思いついたお為ごかしなどではなく、本心だ。
嘘偽りのない、円から見た大木の評価だ。
「やだー、トミーくんだって十分に優秀よ。」
知智さんがくすくす笑って、円の頼りない肩をポンと叩いてきた。

──知智さんはそう言うけど、大木くん、長続きどころかボクを追い抜かして出世しそう。

わずかな敗北感を噛み締めつつ、円は搬出作業を続けた。
商品の納期が近いのに、全然片付いていない案件が山ほどある。
だから今日も残業だ。

結局、この日は2時間くらい残業することになり、帰りがうんと遅くなった。
それでも、明日は仕事が休みだからゆっくり眠れるし、何ら問題はない。

──作り置きがあるから今日はそれを食べて…
あ、10時から見たい番組あるんだった。
それ見たらお風呂入って、ネット動画とか見ながら遅くまで起きて過ごそう。

会社から駅までの道をひとり歩きながら、円は頭の中で今夜の予定を練っていた。
歩いていくうち、首のスカーフが緩んで拘束具が見えそうになったので、あわてて巻き直すと、体に異変が起きた。
全身が沸騰したように熱くなってきて、下半身がじくじく疼き始める。
疼きが強すぎて立ってもいられず、その場にうずくまった。


──しまった、発情期が来た!

3ヶ月に1回、必ずやってくるこの厄介者とは、もう10年以上付き合ってきた。
だから、発情期がやってくる周期はもちろん、時間帯もある程度は把握していた。
しかし、今回は予想より1日早く来てしまった。
オメガの発情期は女性の月経と同様、日がずれることもあるのだ。
迂闊だったと自省しつつ、円はバッグの中をゴソゴソ探って抑制剤を出そうとした。
水は無いが、口内に唾液を溜め込んでしまえば、錠剤を飲み込むことはできる。
しかし、体にうまく力が入らないせいで、薬を取り出すことすら今は難しい。
こういうとき、つくづく自分の性を忌々しく感じてしまう。
「あの、富永さんですよね?大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。
大木だ。

──どうしてこんなタイミングでこんなところに?
先に帰ったはずなのに。

と思ったが、この辺りはカフェや居酒屋なんかがたくさんあるし、そこに寄り道していても不思議ではない。
おそらく、寄り道してから帰る途中で様子のおかしい先輩を見かけて、気になって近づいてきたのだろう。
「く、くすり、だして…」
円は力を振り絞り、バッグを大木に差し出した。
自分がオメガだとバレる危険性はあるが、今はそんなこと言っていられない。
このままでいたら、フェロモンで暴走した知らないアルファに嗅ぎつかれて、同意なく番にされるかもしれない。
拘束具はしているが、無理矢理はずされるなんてことも考えられる。
「お、おきくん……早く…」
息が荒くなって、言葉も上手く紡げない。
下腹部がジンジン熱くなってきて、自分の意思とは無関係に脚がもじもじと動く。

──はやく、はやく薬を出して!

そう訴えようと口を開いた瞬間、大木がスカーフを引きちぎり、うなじに噛みついてきた。
「え、お…おおきくん?」
一瞬、何が起きたのかわからず、円は体を硬直させた。
ガリガリガリガリ、拘束具の鉄芯に歯が当たる音が響く。
その音を聞いて初めて、自分が何をされたのか気づいた。
大木が自分のうなじを噛もうとしている。
たとえフェロモンにあてられても、ベータはこんなことはしない。

──大木はアルファだったのか!

円は氷水を浴びせられたような感覚と同時に、ドッと汗が吹き出るのを感じた。
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