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マッチングアプリ※
しおりを挟む土曜日の19時。
マスクとメガネで顔の大半を隠した 円は、地下街の広場で人を待っていた。
「キミが『トミーさん』かな?」
マッチングアプリで使っているハンドルネームを呼ばれて、円は振り向いた。
声の主は身長約180センチ前後、歳は35歳前後の男だった。
どこといって特徴のない平べったい顔つきをしているが、清潔感があって、夜の相手としては悪くない気がした。
「そうです。あなたが『えきさん』ですか?」
「うん、そうだよ。早速だけど、ホテル行こうか。あ、先にどっかでごはん食べる?この辺、空いてる店いっぱいあると思うけど。」
「ホテル行きましょう。ボク、早くシたいし…」
円は首に巻いていたスカーフを巻き直すと、えきさんの方へ歩み寄って腕を絡めた。
近くの安いラブホテル。
室内に入るなり、2人は着ているものを全て脱ぎ捨て、ダブルベッドに上がった。
バッグやアクセサリーなんかも部屋の隅に放ってしまう。
「キミ、オメガだったんだね。」
生まれたままの姿になった円を見たえきさんが、首につけられた拘束具を指差す。
フェロモンで暴走したアルファに同意なく番にされないように、オメガがつける革の首輪だ。
「そうです、嫌ですか?」
「いや、こんなところでオメガとデキるなんて思ってなかったから、むしろ嬉しいよ。それも、こんな若くて可愛い子と。どうしてマスクしてるの?顔キレイなのに。」
「別にいいじゃないですか。そんなことより、早く楽しみましょう?」
円は質問には答えず、わざとらしく首をかしげて、かわい子ぶったポーズをとった。
「……それもそうだね。」
えきさんの瞳に、異常なほどの情欲の光が宿る。
──これなら、激しくシてもらえそう。
強い欲情の視線を浴びると、発情期なのも手伝ってか、円は腰の奥から甘い疼きを感じた。
「んっ、んふ…」
唾液を絡めて、えきさんの男根に浮いた血管をなぞるように舌を這わす。
そうすると、汗とその他の分泌液が入り混じったような、むわっとした動物的な匂いが鼻腔をくすぐってきた。
それがまた、円を昂らせてくる。
「ああ…すごくいいよ。」
ダブルベッドの上に寝転がって、円に奉仕されるがままになっているえきさんが、感嘆の声を漏らした。
「ふあっ…痛かったら、言ってくださいね。」
円は男根から口を一旦離して頬擦りしながら、えきさんの顔を上目遣いに見た。
「痛いなんて、そんな…気持ちいいよ、すごく上手。」
えきさんがため息をこぼすと同時に、円の頬にひっついた男根が膨張した。
想像以上に膨れあがった男根が胎内で暴れてくれるのを想像すると、円はいてもたってもいられなくなった。
「ねえ…ボク、もう我慢できない。挿れさせて?」
円は奉仕をやめて、えきさんの体に馬乗りになった。
「今日のオレ、ツイてるな。」
円の態度に気を良くしたえきさんが、ニンマリと笑った。
円は避妊具をえきさんの男根に被せると、尻たぶを左右に開いて、ゆっくりゆっくり腰を落としていった。
ずちゅ、ずちゅ、と生々しい音を立てながら、男根が肉襞を押し割って胎内に挿し入っていく。
「ああッ…ここっ、いいッ」
先端が欲しいところにツンッと当たると、これでもかというほどの快感が背筋を駆け巡ってくる。
「あっ…すごい、これ、すきっ、ああっ…いいッ、」
円は自ら腰を揺らして、ひたすら快楽を貪った。
男根が肉襞を穿つ感触がたまらない。
最奥を突かれるたびに、意図せず喘ぎ声が漏れてくる。
「キミ、大人しそうな顔して、エッチだな。最高だよ…」
えきさんが円の細い腰を掴んで、上下に揺すぶる。
彼も結構に興奮しているらしい。
男根が胎内でさらに膨張するのを感じて、円の快感が強まっていく。
「あんッ、そんな、深いとこ、ダメえ…」
「スッゴい締まるよ、いいね…」
すっかり熱に浮かされたえきさんが上半身を起こして、円の乳首に吸い付いた。
尖らせた舌先でツン、ツン、と乳頭を突かれると気持ちがよくて、射精感が込み上げてくる。
「あっ、アッ…むね、吸いながらはダメぇ…だめっ、もう、イクぅ!」
「オレも、もう限界。出すよ。」
円が絶頂を迎えると、えきさんも一瞬遅れて達した。
「アレ?1枚多いけど…」
事が終わった後、貰った万札の枚数を数えた円は、えきさんに確認を促した。
「思ったよりずっとヨかったから、オマケだよ。」
しわくちゃになったシーツの上、うつ伏せに寝転がったえきさんが満足げな顔で円に微笑みかけた。
「……ありがとうございます。」
円はバッグから財布を取り出し、万札をその中に入れた。
「あと、ホテル代も払っとくよ」
「いいんですか?そんなに…」
「うん、こんなところでオメガとデキるなんて思わなかったし。キミ、何でこんなことしてるの?あ…嫌なら、答えなくていいからね。」
尋ねてから、えきさんは「しまった!」というような顔をして、あわてて取り繕った。
「ボク、あまりお金無くて…保険があっても薬代がバカにならないから、発情期はこうして過ごしてるんです。」
円はなるだけ哀れっぽい表情を作って、あらかじめ用意していた逃げ口上で答えた。
「そうかい。早くいい番が見つけるといいね。君なら、お金持ちでイケメンのアルファが見つかると思う。」
えきさんの声に、同情の色が滲む。
どうやら先ほどの口上は通用したらしい。
「やだなあ、ボクみたいなのじゃ無理ですよ。」
「ええー、そんなことないよお。」
えきさんが呆けた顔で笑ってみせる。
「お金持ちでイケメンのアルファは、いい人がたくさんいますよ。」
「あー、まあね。アルファの中にはオメガの人を何人も囲ってる人がいるみたいだし。キミ若いから知らないだろうね。昔さ、それで揉めて刺された人がいたんだよ。何人ものオメガを番にして囲って、何十人も子ども産ませて、それで本妻に恨まれて、旦那のアルファをめった刺し!ああ、怖い怖い。そういうのに遭遇するかもって考えたら、ある意味ベータで良かったよ。」
えきさんは大袈裟に体を震わせた。
「そうですか…」
円は何とも思っていないようなフリをしたが、忌々しい記憶が蘇ってきて、気分が悪くなった。
──この男、よく見たら体格がアイツに似てる…
ベッドでうつ伏せに寝ているえきさんと、血まみれになって床に倒れていた記憶の中の「アイツ」とが見事に重なって、気分が降下した円は口内で軽く歯ぎしりした。
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