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富豪商人婚約破棄計画
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そうして迎えた婚約破棄計画実行の日。
リッシュ氏は計画通りにラフィヌモン侯爵夫人に、婚約破棄を言い渡した。
「ほら、ジュスティーヌ。こちらにおいで」
誘われるまま、ジュスティーヌはリッシュ氏の隣に座った。
「ああ、ベアトリーチェ様、お許しくださいませ。わたくしは、ベンジャミン様を愛しています」
ジュスティーヌは、若い女がいかにも恋人にするように、リッシュ氏の肩に寄りかかった。
自然と、リッシュ氏の耳元に唇が近づく。
そこでジュスティーヌは、聞こえるか聞こえないかくらいの声でこっそりと、「これでいいのですね」と尋ねた。
リッシュ氏が、それにアイコンタクトで応える。
これも計画のうちだ。
「…その方は、どういった方ですの?」
ラフィヌモン侯爵夫人が、ジュスティーヌを睨むように見つめた。
──おお、恐ろしい…
ラフィヌモン侯爵夫人の目が、この上もなく鋭く光る。
その射抜くような視線は、いつかの国王陛下を思わせた。
ラフィヌモン侯爵夫人の佇まいは、いかにも大きな家の女主人といった風情で、威厳を感じる反面、少し怖いとさえ思う。
夜の闇のように真っ黒な髪と瞳。
鋭い目つき、高い鼻、薄い唇、面長気味の輪郭。
白い肌には年相応のシワが刻まれているが、間違いなく美人だ。
その一方で、近寄りがたいピリピリとした雰囲気をまとっているため、人によっては「キツい」という印象を抱きそうだ。
そんなラフィヌモン侯爵夫人に対してジュスティーヌは、纏う空気がどこかマルグリットに似ていると思った。
──貴族のご婦人は、みんなこんなカンジなんだろうか
真剣な話し合いの途中なのに、ジュスティーヌは悠長にそんなことを考えた。
「この子は、ジュスティーヌというんだ。マルグリット・エレオス侯爵令嬢といえば、あなたも知っているでしょう?ジュスティーヌは、彼女の知り合いなのです」
リッシュ氏が、この日のためにあらかじめ考えておいたジュスティーヌの設定を明かした。
いつ正体を勘繰られてもいいように、マルグリットとも口裏合わせ済みである。
「なるほど、そうですか」
ラフィヌモン侯爵夫人か、何か考えこむようにして、視線をやや下のほうに落とした。
「本当にすまない。慰謝料は払う。あなたの欲しい金額分を払うから、どうか…」
リッシュ氏が、わざと辛そうに哀願してみせた。
目に涙さえ浮かべている。
──リッシュ様もなかなか役者だなあ
リッシュ氏の意外な演技力に感心しつつ、ジュスティーヌはラフィヌモン侯爵夫人の様子を伺った。
「……わかりました。婚約破棄を認めましょう」
少し間を持たせてから、ラフィヌモン侯爵夫人が答えを出した。
──おや、案外あっさり引いた?
もう少し難儀するものと思っていたジュスティーヌは、肩透かしを食らった気分だった。
「しかしですね、ベンジャミン様。嘘はよろしくありませんわ」
ラフィヌモン侯爵夫人が切り出した。
リッシュ氏は計画通りにラフィヌモン侯爵夫人に、婚約破棄を言い渡した。
「ほら、ジュスティーヌ。こちらにおいで」
誘われるまま、ジュスティーヌはリッシュ氏の隣に座った。
「ああ、ベアトリーチェ様、お許しくださいませ。わたくしは、ベンジャミン様を愛しています」
ジュスティーヌは、若い女がいかにも恋人にするように、リッシュ氏の肩に寄りかかった。
自然と、リッシュ氏の耳元に唇が近づく。
そこでジュスティーヌは、聞こえるか聞こえないかくらいの声でこっそりと、「これでいいのですね」と尋ねた。
リッシュ氏が、それにアイコンタクトで応える。
これも計画のうちだ。
「…その方は、どういった方ですの?」
ラフィヌモン侯爵夫人が、ジュスティーヌを睨むように見つめた。
──おお、恐ろしい…
ラフィヌモン侯爵夫人の目が、この上もなく鋭く光る。
その射抜くような視線は、いつかの国王陛下を思わせた。
ラフィヌモン侯爵夫人の佇まいは、いかにも大きな家の女主人といった風情で、威厳を感じる反面、少し怖いとさえ思う。
夜の闇のように真っ黒な髪と瞳。
鋭い目つき、高い鼻、薄い唇、面長気味の輪郭。
白い肌には年相応のシワが刻まれているが、間違いなく美人だ。
その一方で、近寄りがたいピリピリとした雰囲気をまとっているため、人によっては「キツい」という印象を抱きそうだ。
そんなラフィヌモン侯爵夫人に対してジュスティーヌは、纏う空気がどこかマルグリットに似ていると思った。
──貴族のご婦人は、みんなこんなカンジなんだろうか
真剣な話し合いの途中なのに、ジュスティーヌは悠長にそんなことを考えた。
「この子は、ジュスティーヌというんだ。マルグリット・エレオス侯爵令嬢といえば、あなたも知っているでしょう?ジュスティーヌは、彼女の知り合いなのです」
リッシュ氏が、この日のためにあらかじめ考えておいたジュスティーヌの設定を明かした。
いつ正体を勘繰られてもいいように、マルグリットとも口裏合わせ済みである。
「なるほど、そうですか」
ラフィヌモン侯爵夫人か、何か考えこむようにして、視線をやや下のほうに落とした。
「本当にすまない。慰謝料は払う。あなたの欲しい金額分を払うから、どうか…」
リッシュ氏が、わざと辛そうに哀願してみせた。
目に涙さえ浮かべている。
──リッシュ様もなかなか役者だなあ
リッシュ氏の意外な演技力に感心しつつ、ジュスティーヌはラフィヌモン侯爵夫人の様子を伺った。
「……わかりました。婚約破棄を認めましょう」
少し間を持たせてから、ラフィヌモン侯爵夫人が答えを出した。
──おや、案外あっさり引いた?
もう少し難儀するものと思っていたジュスティーヌは、肩透かしを食らった気分だった。
「しかしですね、ベンジャミン様。嘘はよろしくありませんわ」
ラフィヌモン侯爵夫人が切り出した。
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