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富豪商人婚約破棄計画
庭師の仕事
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「ジュスティーヌ嬢、申し訳ないのですがね、この後は仕事があるのです。すぐに戻りますから、しばらくここにいてくださいますか?その後で、また話し合いましょう。こういうのは、口裏合わせをしっかりしないとなりませんからね」
リッシュ氏が、すっくと立ち上がる。
「かしこまりました。では戻りしだい、また話し合いましょう。」
「ええ、失礼します。あとのことは、ヴァイオレットにことづけておきましたので。なあに、そんなに時間はかかりませんよ。ご安心ください。その間、何かありましたら、気兼ねなく彼女に言ってください」
言うとリッシュ氏は立ち上がり、急ぎ足で邸宅を出て行った。
「商売人は大変だなあ」
リッシュ氏への同情から、ジュスティーヌは深いため息をついた。
「そうなんですよお」
物陰から、ヴァイオレットがひょっこり出てきた。
いったい、いつからいたのかは解らないが、ジュスティーヌとリッシュ氏のやりとりを聞いていたらしい。
「旦那さまね、お仕事先でちょっとしたトラブルがあって、それでお相手に謝りに行くために出かけるんですよ。それで、その次は婚約うんぬんの話し合いでしょ?最近、ずーっとてんてこ舞いですよ」
ヴァイオレットが頬に手を当てて、心配そうな顔をする。
「なるほどねえ」
ジュスティーヌはうそぶきながら、職場の居酒屋の店主のことを思い出した。
苦悩する店主の姿に、何度心配になったか計り知れない。
ヴァイオレットの気持ちは、嫌というほどわかってしまう。
「ジュスティーヌさん、こちらにいらしてください。旦那さまは御本や画集を集めるのが大変にお好きだから、帰ってくるまでは、それでも見ていてくださいな」
「ありがとうございます、ヴァイオレットさん」
ヴァイオレットについていくと、別室に案内された。
「ここでゆっくりなさってくださいね。御用があれば、気軽に呼んでください。お茶とお菓子のおかわりはいるかしら?こちらで召し上がる?」
「いえ、結構ですよ。充分味わいましたから」
ジュスティーヌは、先ほどもらったお茶と焼き菓子の味を思い出した。
「そう、じゃあ、失礼しますね」
ヴァイオレットはにっこりと優しく笑うと、部屋を出て行った。
「ううん、お見事!」
ジュスティーヌが通された部屋は、背の高い本棚がずらりと並んでいた。
その中には、めったに手に入らない本や画集がぎっしり詰められていて、リッシュ氏の読書家ぶりが体現されているようでもあった。
どの本を読もうかとあちこちに視線を動かしていると、ふと窓の外が気になった。
長方形の窓の向こう、庭で作業しているジャルディニエの背中が見えたのだ。
「ジャルディニエさん、ジャルディニエさん」
ジュスティーヌが窓を開けて呼びかけると、ジャルディニエが振り返った。
リッシュ氏が、すっくと立ち上がる。
「かしこまりました。では戻りしだい、また話し合いましょう。」
「ええ、失礼します。あとのことは、ヴァイオレットにことづけておきましたので。なあに、そんなに時間はかかりませんよ。ご安心ください。その間、何かありましたら、気兼ねなく彼女に言ってください」
言うとリッシュ氏は立ち上がり、急ぎ足で邸宅を出て行った。
「商売人は大変だなあ」
リッシュ氏への同情から、ジュスティーヌは深いため息をついた。
「そうなんですよお」
物陰から、ヴァイオレットがひょっこり出てきた。
いったい、いつからいたのかは解らないが、ジュスティーヌとリッシュ氏のやりとりを聞いていたらしい。
「旦那さまね、お仕事先でちょっとしたトラブルがあって、それでお相手に謝りに行くために出かけるんですよ。それで、その次は婚約うんぬんの話し合いでしょ?最近、ずーっとてんてこ舞いですよ」
ヴァイオレットが頬に手を当てて、心配そうな顔をする。
「なるほどねえ」
ジュスティーヌはうそぶきながら、職場の居酒屋の店主のことを思い出した。
苦悩する店主の姿に、何度心配になったか計り知れない。
ヴァイオレットの気持ちは、嫌というほどわかってしまう。
「ジュスティーヌさん、こちらにいらしてください。旦那さまは御本や画集を集めるのが大変にお好きだから、帰ってくるまでは、それでも見ていてくださいな」
「ありがとうございます、ヴァイオレットさん」
ヴァイオレットについていくと、別室に案内された。
「ここでゆっくりなさってくださいね。御用があれば、気軽に呼んでください。お茶とお菓子のおかわりはいるかしら?こちらで召し上がる?」
「いえ、結構ですよ。充分味わいましたから」
ジュスティーヌは、先ほどもらったお茶と焼き菓子の味を思い出した。
「そう、じゃあ、失礼しますね」
ヴァイオレットはにっこりと優しく笑うと、部屋を出て行った。
「ううん、お見事!」
ジュスティーヌが通された部屋は、背の高い本棚がずらりと並んでいた。
その中には、めったに手に入らない本や画集がぎっしり詰められていて、リッシュ氏の読書家ぶりが体現されているようでもあった。
どの本を読もうかとあちこちに視線を動かしていると、ふと窓の外が気になった。
長方形の窓の向こう、庭で作業しているジャルディニエの背中が見えたのだ。
「ジャルディニエさん、ジャルディニエさん」
ジュスティーヌが窓を開けて呼びかけると、ジャルディニエが振り返った。
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