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7年後の話
しおりを挟む地元の小学校の教室の隅。
総治郎は、壁に掲示されている絵を見つめていた。
長男が入学してから初めての参観日である。
「ねえ、おじさんは誰のお父さん?」
突然、背後から知らない男の子に声をかけられた。
「えーと、成上総直って子はわかるかな?その子だよ」
総治郎は少し考えた。
息子の同級生と、その親の顔と名前は、何人か把握していた。
しかし、知っているのは数える程度で、この子は知らない。
「うん、知ってる。ねえ、ナオ!お父さんが来てるよ!!」
「あ、パパ!」
さきほど教室に入ってきた息子の総直が、総治郎めがけて駆け寄ってきた。
「やあ、総直」
総治郎は息子の頭を優しく撫でた。
「総直のお父さん、おっきいねえ」
「うん、185センチあるよ」
総直が誇らしげに答える。
「へえ、すごーい。うちのパパはぜんぜんちっちゃいよ。あ、パパ!」
男の子が振り返った先に、総治郎とあまり変わらないくらいの年齢の男性がいた。
なるほど、たしかに総治郎よりは小柄だ。
小柄といっても170センチくらいあって、特別小さいわけではない。
顔つきは精悍で肩も胸も広く、がっしりしていて、厳しいとすら感じる。
「どうも、こんにちは」
総治郎は挨拶した。
同級生の父親に、どことなく親近感を感じたのだ。
入学式で出くわした保護者は、みんな総治郎より10も20も若かった。
それだけに、彼とは仲良くなれそうだと感じた。
「ああ、こんにちは。厚木友春の父です」
「成上総直の父親です」
お互い、腰にまとわりつく我が子の頭を撫でたり肩をさすったりしながら、自己紹介を始めた。
そこからは不思議なことに、初対面だというのに会話がはずんで、連絡先を交換するまでに至った。
総直たちの授業が終わった後、総治郎は廊下に出て、直生に電話をかけた。
直生は現在4人目を妊娠中で、今日は定期検診で産科に行っていたのだ。
「もしもし直生。さっき総直の授業が終わったところだ」
『お疲れ様です、総治郎さん。今日、お腹の子の性別がわかりましたよ。女の子でした』
直生が機嫌良さそうに話す。
察するに、お腹の子は順調に育っているのだろう。
「そうか、それはいいな。上の子3人とも男だし。きみに似たらきっと美人だ」
『総治郎さんに似ても、きっと美人ですよ』
「そうかな。とりあえず、総直を連れていまからそっちに行くよ。待っててくれ」
『はい、お待ちしてます』
電話を切ると、帰り支度を済ませていた総直が、ギュッと手を握ってきた。
「パパ、早く帰ろうよ!」
「うん、帰ろう。その前に、病院に行ってママとお腹の赤ちゃんを迎えに行こう」
「はあい」
総直はちょっと拗ねたような顔をしていた。
「さっきママから聞いたんだ。お腹の赤ちゃんは女の子だって。こんどは妹が生まれるぞ。楽しみだな」
助手席に座った総直のシートベルトを締めながら、総治郎は宥めるように言い聞かせた。
「ええー」
総直は唇を尖らせた。
最近、両親がもうすぐ生まれる赤ん坊のことでかかりっきりだから、機嫌があまり良くないのだ。
──こんど、総直のために時間を作ってやるか
そのときにどこに行って何をしようかと考えながら、総治郎はセダンを発車させた。
この後、第4子にあたる女の子は無事に生まれた。
さらに総治郎と直生は、後に5人の子の親になるのだけど、それはまた別の話である。
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