上 下
22 / 82

胸騒ぎの朝

しおりを挟む
どこかから、チュンチュンとスズメの鳴く声がして、カーテンの隙間からは朝日が差し込む、

現在、朝7時半。
総治郎は、かばっと勢いよく我が身を起こした。
「おはようございます」
少し向こうから、直生の声が聞こえた。
いつものように、総治郎よりかなり早く起きてきたらしい。
部屋のドアから半身を出して、こちらの様子を伺っている。

「ああ、おはよう…」
ベッドから下りて立ち上がると、自分が上半身裸でスラックスのみの姿であることに気がついた。
同時に昨夜のことが思い出されて、総治郎は背中に冷たい汗が伝っていくのを感じた。

──夢じゃなかった…

バカバカしい話ではあるけれど、総治郎はさっきまで「ひょっとして昨夜のあれは夢だったのではないか」と期待していたのだ。
その期待は、ものの見事に裏切られたわけだが。

何せ、ここは総治郎の部屋ではない。
総治郎の部屋なら、壁いっぱいに好きな画家の絵が飾られているはずだ。
さらには、趣味で買った舞台役者の写真集や演劇雑誌が入った背の高い本棚、演劇や映画のDVDを収納しているラック、そのDVDを視聴するために設置した80インチもの液晶テレビ。
総治郎の部屋は、それらひとつひとつが存在を主張して、全体的にどこか騒がしい感じがする。

対して、この部屋はシンプルといえば聞こえはいいが、言ってしまえば殺風景だ。
簡素なカーテンにベッド、部屋の隅にあるハンガーラックには10着前後の服がかかっている。
それ以外には、本当に何もない。
生活感が弱過ぎて、直生は本当にここで寝起きしていたのかと疑いたくなるほどだ。


「まだお休みになりますか?」
いつもように、直生が尋ねてくる。
「いや、もう起きるよ」

──予備のスーツに着替えるか…

昨日の大暴れのせいで、スラックスにシワが寄って、ぐちゃぐちゃになってしまっている。

ジャケットとワイシャツを片付けてしまおうと探してみるが、見つからない。
「あれ…」
「いかがなさいました?」
キョロキョロと部屋中を見回す総治郎を不思議に思ったのだろう。
直生が訝しげな視線をこちらに向けてきた。
「ジャケットとワイシャツ、どこにやったかと思ってな…」
「ああ、それなら。アイロンをかけてクローゼットに入れました。お出ししましょうか?」
言って直生が、ウォークインクローゼットのある部屋の方へ顔を向けた。

「いや、新しいやつを出すよ。アレはもうそろそろクリーニングに出しておいた方がいい思うから」
「私がクリーニングに出しておきましょうか?」
「あー…それぐらいは自分でやるよ。ちょっと、着替えてくる」
言うと総治郎は、ドアのそばに立つ直生の脇を通り抜けて、自室に向かった。
予備のスーツは、自室のクローゼットにかかっているのだ。


──どうしたもんかな…

予備のスーツに着替えながら、総治郎はあれそれ思案した。
直生と関係を持ってしまったことも恐ろしいが、何より理解しがたいのは、昨夜のことをまるでなかったことのように振る舞う直生の態度であった。
あれはいったい、どういう了見なのだろう。


「総治郎さん」
着替えている最中、直生が呼びかけてきた。
自分の部屋に引っ込んで休んでいるものと思っていたから、総治郎はドキリとした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...