【完結】A市男性誘拐監禁事件

刑事の見解

国彦は警察に保護された後、「おじちゃんは親切な人だった」「監獄になんか入れないで欲しい」と言って泣きじゃくって、減刑まで求めてきたため、迎えにきた友人の山下冬也やましたとうやは困惑していた。
それについて、事件を担当した刑事は、以下のような見解を述べている。

「たとえば、ハイジャックや立てこもり事件に遭った被害者が、「犯人は自分たちに親切だった」と同情的になっていることがあります。これは恐怖心が最高潮に達しているなか、犯人から少しでも親切にされると、命を救われたような感覚に見舞われるからです。おそらく、この男性も犯人に親切にされたことで、3ヶ月のうちに少しずつ情が湧いたのではないでしょうか。これをストックホルム症候群といいます。」

また、加害者にあたる岩山貞の心理状態についても、次のように述べている。
「過去に大使館で立てこもり事件を起こしたテロリストが人質に共感、同情して人質と食事をしたり、会話をしたり、殺害するのを躊躇って、人質全員が脱出に成功したケースがあります。今回の事件も同じように、加害者側が長時間、被害者と同じ場所にいたことで次第に親近感が芽生えてきて、情が湧いたのでしょう。これはリマ症候群と呼ばれています。」

通報した隣人、津川甲貴(当時20歳)は事件の解決に大きく貢献したとして、B市警察署から感謝状を渡され、ネットニュースなど、いくつかのメディアにも露出して称賛された。
事件の2年後に大学を卒業、地元から離れたスポーツジムに就職し、実家を出て行った。
現在25歳。インストラクターとして、子どもたちに体操を教えている。

事件後、河井国彦(当時18歳)は勤務していた製菓工場に復職。
しばらくは精神科と外科への通院を指示されていたが、現在は問題なく生活できている。
現在23歳。職場では新入社員やアルバイトの教育係を任されるようになり、精力的に働いている。
上司によれば、このままの働きぶりなら昇格の見込みがあり、将来的には主任の座に落ち着くかもしれないという。
住所は事件前と変わらず、B市の住宅地にあるアパートで友人との2人暮らしを続けており、友人との関係にもこれといった変化はなく、良好そのものだとのことだ。


岩山貞(当時40歳)は、未成年略取ならびに監禁の罪で懲役3年6ヶ月の実刑判決を受けた。
「間違いありません」と容疑を認めていること、激しい暴力行為には及んでいないこと、「彼と彼の友人知人に申し訳ないことをした」と反省の意思を示していることから、予想外に刑罰は軽く済まされた。
事件は東京地裁で結審、本人の意思で控訴はされなかった。
懲役刑が課されている間、刑務官や他の受刑者からの評価は高く、模範囚そのものだったという。

事件から5年経った頃合いに、「岩山貞は刑期を終えた後、就職支援を経て、某所の事務職に就いた」と一部で報道された。
現在も存命しているなら、45歳になっているはずだ。