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遭遇
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──おじちゃんって意外と嫉妬深い人なんだなあ
余裕ある大人だと思っていた貞が、隣人の若い男と話しただけであんなに取り乱すなんて、国彦には意外だった。
──昨日のおじちゃんのアレはすっごいしんどかったけど、妬いてくれるのはちょっとだけ嬉しいかも…あ、そうだ!今日は天気がいいから、布団やシーツも洗濯しよう。おじちゃんとひっきりなしにヤッてるから汚れも溜まってるし。枕やクッションも干しておこう。おじちゃんのシャツもアイロンかけてあげなきゃ
連れて来られたばかりのとき、この部屋は最低限の家具しかない殺風景なところだった。
ここに来てから約3ヶ月経った今は、国彦用に貞が買ってくれた若者向けの服や靴、少年マンガや関連グッズがところどころに置かれていて、子ども部屋のような雰囲気を醸し出している。
出勤した貞を見送った後、国彦は洗濯を始めた。
洗濯を終えれば冷蔵庫の中を確認してからスーパーに向かい、今日の昼食と夕食を買いに行くつもりだ。
近所のスーパーまでは徒歩で約5分。
料理と買い物はすっかり国彦の役目となっていた。
貞はそのための費用もいつも多めに出してくれるし、余った金で食玩なんかを買っても文句ひとつ言わない。
貞は本当は和食が好みだが、国彦の好みに合わせてもくれる。
この日はスーパーに入る前に、少し寄り道していくことにした。
スーパーの近くにある書店やディスカウントストアをひと通り巡って、これから何を買おうかと考えながら歩いていく。
そうしているうち、マスクのゴムがかかっている耳が痛くなった。
正直な話、マスクをつけるのは好きではない。
こんなふうに耳の後ろが痛くなるし、鼻と口を塞がれて息苦しくなるし、つけてから10分もすると、すぐにはずしてしまいたくなる。
1月頃は防寒のためと思えば我慢できたが、4月ともなれば結構に陽気がいいから、マスクの内側も湿りやすくなった。
──ちょっとの間くらい、いいよね
国彦はマスクを取って、着ているジャケットのポケットに突っ込んだ。
そのときだった。
「あら?こんにちは、確かキミ、国彦くんだよね?名前を聞いたよ。」
声をかけられて絶句した。
隣人の津田甲貴だ。
どうして平日の真っ昼間からこんなところにいるのか。
いや、それを言うなら国彦も同じだし、彼は大学生だと聞いていたから、こんな時間にうろついているのも大して不自然ではない。
「キミの顔、初めてちゃんと見たけど、キレイな顔してるねえ。アイドルになれそう。」
あわててマスクをつけ直そうとしたが、手遅れだったようだ。
「……ありがとう。」
外見を褒められても別に嬉しくないはないが、念のため礼を言っておく。
「ねえ、今空いてる?こないだも言ったけどさ、良かったらウチに来ない?」
「友達と約束あるから…」
貞が隣家に苦情を入れたというのに、この男は懲りないのか。
それとも苦情がちゃんと届いていないのか。
内心イラつきつつ、国彦は甲貴の誘いを断ろうとした。
「へーえ、友達ってどこの人?」
甲貴の言葉に、国彦はムッとした。
暗にお前に友達なんかいるわけないと言われたような気がしたし、言い様がどことなくイヤミっぽく感じたからだ。
「教える理由無いでしょ。」
国彦が眉間にシワを寄せる。
「ねえ、キミの顔見て思ったんだけどさ、キミとあの眼鏡の人、ホントに親戚?全然似てないけど?ひょっとしてキミかあの人が養子とか、そんなカンジ?」
下衆の勘繰りもいいところな甲貴の質問には一切答えず、国彦はマスクを付け直して足早に去って行った。
余裕ある大人だと思っていた貞が、隣人の若い男と話しただけであんなに取り乱すなんて、国彦には意外だった。
──昨日のおじちゃんのアレはすっごいしんどかったけど、妬いてくれるのはちょっとだけ嬉しいかも…あ、そうだ!今日は天気がいいから、布団やシーツも洗濯しよう。おじちゃんとひっきりなしにヤッてるから汚れも溜まってるし。枕やクッションも干しておこう。おじちゃんのシャツもアイロンかけてあげなきゃ
連れて来られたばかりのとき、この部屋は最低限の家具しかない殺風景なところだった。
ここに来てから約3ヶ月経った今は、国彦用に貞が買ってくれた若者向けの服や靴、少年マンガや関連グッズがところどころに置かれていて、子ども部屋のような雰囲気を醸し出している。
出勤した貞を見送った後、国彦は洗濯を始めた。
洗濯を終えれば冷蔵庫の中を確認してからスーパーに向かい、今日の昼食と夕食を買いに行くつもりだ。
近所のスーパーまでは徒歩で約5分。
料理と買い物はすっかり国彦の役目となっていた。
貞はそのための費用もいつも多めに出してくれるし、余った金で食玩なんかを買っても文句ひとつ言わない。
貞は本当は和食が好みだが、国彦の好みに合わせてもくれる。
この日はスーパーに入る前に、少し寄り道していくことにした。
スーパーの近くにある書店やディスカウントストアをひと通り巡って、これから何を買おうかと考えながら歩いていく。
そうしているうち、マスクのゴムがかかっている耳が痛くなった。
正直な話、マスクをつけるのは好きではない。
こんなふうに耳の後ろが痛くなるし、鼻と口を塞がれて息苦しくなるし、つけてから10分もすると、すぐにはずしてしまいたくなる。
1月頃は防寒のためと思えば我慢できたが、4月ともなれば結構に陽気がいいから、マスクの内側も湿りやすくなった。
──ちょっとの間くらい、いいよね
国彦はマスクを取って、着ているジャケットのポケットに突っ込んだ。
そのときだった。
「あら?こんにちは、確かキミ、国彦くんだよね?名前を聞いたよ。」
声をかけられて絶句した。
隣人の津田甲貴だ。
どうして平日の真っ昼間からこんなところにいるのか。
いや、それを言うなら国彦も同じだし、彼は大学生だと聞いていたから、こんな時間にうろついているのも大して不自然ではない。
「キミの顔、初めてちゃんと見たけど、キレイな顔してるねえ。アイドルになれそう。」
あわててマスクをつけ直そうとしたが、手遅れだったようだ。
「……ありがとう。」
外見を褒められても別に嬉しくないはないが、念のため礼を言っておく。
「ねえ、今空いてる?こないだも言ったけどさ、良かったらウチに来ない?」
「友達と約束あるから…」
貞が隣家に苦情を入れたというのに、この男は懲りないのか。
それとも苦情がちゃんと届いていないのか。
内心イラつきつつ、国彦は甲貴の誘いを断ろうとした。
「へーえ、友達ってどこの人?」
甲貴の言葉に、国彦はムッとした。
暗にお前に友達なんかいるわけないと言われたような気がしたし、言い様がどことなくイヤミっぽく感じたからだ。
「教える理由無いでしょ。」
国彦が眉間にシワを寄せる。
「ねえ、キミの顔見て思ったんだけどさ、キミとあの眼鏡の人、ホントに親戚?全然似てないけど?ひょっとしてキミかあの人が養子とか、そんなカンジ?」
下衆の勘繰りもいいところな甲貴の質問には一切答えず、国彦はマスクを付け直して足早に去って行った。
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