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予想外の出来事

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映画が終わると、2人はフードコートで昼食を摂った。

「おじちゃん、それだけでいいの?」
貞のコーヒーとサンドイッチのみの昼食に、国彦は首を傾げた。

映画の途中、手が止まったのはほんの一時的なもので、国彦は結局、ポップコーンもチュロスもクッキーも全て食べ切ってしまった。
この上でさらに餃子とラーメン、唐揚げまで食べようとしている。
「お前は食い過ぎだろう。」
「これぐらい普通でしょ。食べなきゃ元気出ないよ。」
国彦は口をすぼめてラーメンの熱気を飛ばすと、一気にすすって食べた。
「映画、よかったね。」
ラーメンが口内にわずかに残ったまま、国彦が話しかける。
「うん、まあ、そうだな。」

正直言うと、そんなに面白いとは思えなかった。
市松模様の羽織りを着た主人公は優しくて正義感が強い少年だったが、あまりにも清廉過ぎて人間味を感じにくかった。
登場人物が致命傷を負っているのに、やたら饒舌に話したり動き回ったりするのにも違和感を覚えた。

──まあ、国彦は嬉しそうだし、良しとしていいだろう
連れてきて正解だったな

美味しそうにラーメンを食べる国彦を見て、貞はホッとしてコーヒーをすすった。
国彦の楽しそうな様子を見ていると、1杯250円のコーヒーが格段に美味しく感じられる。

2人が来ているショッピングモールは5階建てで、3階の一画に若者向けのメンズブランドショップが並んでいる。
比較的サイズを小さく作ってあるブランドなので、貞は国彦のサイズもあるだろうと踏んでいた。

そこに向かう途中、貞はティーン向けの商品を扱っている雑貨店に目を止めた。
「あの模様、最近しょっちゅう見かけるな。」
貞が雑貨店の棚に陳列されたスマートフォンケースを指さした。
緑と黒の市松模様のスマートフォンケースだ。
この模様は、国彦が愛読している少年マンガの主人公が着ている羽織りの模様だ。
さっき映画館のスクリーンで散々見てきたから、嫌でも印象に残る。
街中で、この羽織りの模造品を着て歩く男児を見たことだってある。
「うん、流行ってるからね。なんかねえ、この模様、出版社がひょうしょうとうろく?ってヤツしようとしたんだって。」
「商標登録か?」
「そう、それ!マンガの人気につけ込んで、この模様使ったグッズがいっぱい作られて、好き勝手に売られてるのが嫌みたい。」
「気持ちはわかるけど、難しいだろうな。模様自体は大昔からある伝統的な模様だから。」
貞は市松模様のスマートフォンケースを手に取った。
「そっかあ、そうなるよねえ。」
国彦はそばにあった麻の葉紋様のスマートフォンケースを手に取った。
「まあ、とりあえず、服を買いに行こう。いつまでも冬服着てられないだろ。」
「そうだね。」
貞がスマートフォンケースを棚に戻す。
それに続くように、国彦もスマートフォンケースを棚に戻した。

「あら、岩山さん?」
途端、聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると、下野がいた。
隣には下野の妻もいる。
下野が忘れ物をしたとき、会社に届けに来たことがあるから、貞も顔は知っていた。
「ああ…下野。お久しぶりですね、奥さん。」
いつもと変わらない風に振る舞ってみせたが、貞は内心焦っていた。
体の緊張と冷や汗が止まらない。
こんなところで職場の人間と出くわすとは思わなかった。
国彦はマスクをしているし、失踪当時と比べると服装や髪型がだいぶ様変わりしているが、バレないとも限らない。

「お久しぶりです、岩山さん。その子は?」
案の定、下野の妻が国彦のことを聞いてきた。
「親戚の子です。一緒に暮らすことになったもんですから、ここでいろいろ買おうと思いまして。」
「へえ、そうだったんですか。ああ、こんにちは、岩山さんにはいつもお世話になってます。」
下野が国彦に挨拶してくる。
国彦は動揺したらしく、体をビクリと震わせたかと思うと、無言で会釈して貞の背後に隠れた。
「悪いが、ちょっと急いでるんだ。失礼するよ。」
「ああ、すみませんね。」
「うん、それじゃあな。」
貞は国彦の腕を掴んで、急ぎ足でその場を去って行った。

「なーんか、無愛想な女の子だったよなあ。岩山さん、挨拶とか態度とかめちゃくちゃ厳しいのに。身内には甘いのかねえ?」
去っていく2人の背中を見つめながら、下野は妻に話しかけた。
「え?さっきの子、男の子じゃない?喉仏があったし。」
「え?あった?」
「あったわよ。それ以前に、あの子……気のせいかな?どっかで見たことあるカンジするんだけど…どこだったかな?」
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