32 / 48
予想外の出来事
しおりを挟む
映画が終わると、2人はフードコートで昼食を摂った。
「おじちゃん、それだけでいいの?」
貞のコーヒーとサンドイッチのみの昼食に、国彦は首を傾げた。
映画の途中、手が止まったのはほんの一時的なもので、国彦は結局、ポップコーンもチュロスもクッキーも全て食べ切ってしまった。
この上でさらに餃子とラーメン、唐揚げまで食べようとしている。
「お前は食い過ぎだろう。」
「これぐらい普通でしょ。食べなきゃ元気出ないよ。」
国彦は口をすぼめてラーメンの熱気を飛ばすと、一気にすすって食べた。
「映画、よかったね。」
ラーメンが口内にわずかに残ったまま、国彦が話しかける。
「うん、まあ、そうだな。」
正直言うと、そんなに面白いとは思えなかった。
市松模様の羽織りを着た主人公は優しくて正義感が強い少年だったが、あまりにも清廉過ぎて人間味を感じにくかった。
登場人物が致命傷を負っているのに、やたら饒舌に話したり動き回ったりするのにも違和感を覚えた。
──まあ、国彦は嬉しそうだし、良しとしていいだろう
連れてきて正解だったな
美味しそうにラーメンを食べる国彦を見て、貞はホッとしてコーヒーをすすった。
国彦の楽しそうな様子を見ていると、1杯250円のコーヒーが格段に美味しく感じられる。
2人が来ているショッピングモールは5階建てで、3階の一画に若者向けのメンズブランドショップが並んでいる。
比較的サイズを小さく作ってあるブランドなので、貞は国彦のサイズもあるだろうと踏んでいた。
そこに向かう途中、貞はティーン向けの商品を扱っている雑貨店に目を止めた。
「あの模様、最近しょっちゅう見かけるな。」
貞が雑貨店の棚に陳列されたスマートフォンケースを指さした。
緑と黒の市松模様のスマートフォンケースだ。
この模様は、国彦が愛読している少年マンガの主人公が着ている羽織りの模様だ。
さっき映画館のスクリーンで散々見てきたから、嫌でも印象に残る。
街中で、この羽織りの模造品を着て歩く男児を見たことだってある。
「うん、流行ってるからね。なんかねえ、この模様、出版社がひょうしょうとうろく?ってヤツしようとしたんだって。」
「商標登録か?」
「そう、それ!マンガの人気につけ込んで、この模様使ったグッズがいっぱい作られて、好き勝手に売られてるのが嫌みたい。」
「気持ちはわかるけど、難しいだろうな。模様自体は大昔からある伝統的な模様だから。」
貞は市松模様のスマートフォンケースを手に取った。
「そっかあ、そうなるよねえ。」
国彦はそばにあった麻の葉紋様のスマートフォンケースを手に取った。
「まあ、とりあえず、服を買いに行こう。いつまでも冬服着てられないだろ。」
「そうだね。」
貞がスマートフォンケースを棚に戻す。
それに続くように、国彦もスマートフォンケースを棚に戻した。
「あら、岩山さん?」
途端、聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると、下野がいた。
隣には下野の妻もいる。
下野が忘れ物をしたとき、会社に届けに来たことがあるから、貞も顔は知っていた。
「ああ…下野。お久しぶりですね、奥さん。」
いつもと変わらない風に振る舞ってみせたが、貞は内心焦っていた。
体の緊張と冷や汗が止まらない。
こんなところで職場の人間と出くわすとは思わなかった。
国彦はマスクをしているし、失踪当時と比べると服装や髪型がだいぶ様変わりしているが、バレないとも限らない。
「お久しぶりです、岩山さん。その子は?」
案の定、下野の妻が国彦のことを聞いてきた。
「親戚の子です。一緒に暮らすことになったもんですから、ここでいろいろ買おうと思いまして。」
「へえ、そうだったんですか。ああ、こんにちは、岩山さんにはいつもお世話になってます。」
下野が国彦に挨拶してくる。
国彦は動揺したらしく、体をビクリと震わせたかと思うと、無言で会釈して貞の背後に隠れた。
「悪いが、ちょっと急いでるんだ。失礼するよ。」
「ああ、すみませんね。」
「うん、それじゃあな。」
貞は国彦の腕を掴んで、急ぎ足でその場を去って行った。
「なーんか、無愛想な女の子だったよなあ。岩山さん、挨拶とか態度とかめちゃくちゃ厳しいのに。身内には甘いのかねえ?」
去っていく2人の背中を見つめながら、下野は妻に話しかけた。
「え?さっきの子、男の子じゃない?喉仏があったし。」
「え?あった?」
「あったわよ。それ以前に、あの子……気のせいかな?どっかで見たことあるカンジするんだけど…どこだったかな?」
「おじちゃん、それだけでいいの?」
貞のコーヒーとサンドイッチのみの昼食に、国彦は首を傾げた。
映画の途中、手が止まったのはほんの一時的なもので、国彦は結局、ポップコーンもチュロスもクッキーも全て食べ切ってしまった。
この上でさらに餃子とラーメン、唐揚げまで食べようとしている。
「お前は食い過ぎだろう。」
「これぐらい普通でしょ。食べなきゃ元気出ないよ。」
国彦は口をすぼめてラーメンの熱気を飛ばすと、一気にすすって食べた。
「映画、よかったね。」
ラーメンが口内にわずかに残ったまま、国彦が話しかける。
「うん、まあ、そうだな。」
正直言うと、そんなに面白いとは思えなかった。
市松模様の羽織りを着た主人公は優しくて正義感が強い少年だったが、あまりにも清廉過ぎて人間味を感じにくかった。
登場人物が致命傷を負っているのに、やたら饒舌に話したり動き回ったりするのにも違和感を覚えた。
──まあ、国彦は嬉しそうだし、良しとしていいだろう
連れてきて正解だったな
美味しそうにラーメンを食べる国彦を見て、貞はホッとしてコーヒーをすすった。
国彦の楽しそうな様子を見ていると、1杯250円のコーヒーが格段に美味しく感じられる。
2人が来ているショッピングモールは5階建てで、3階の一画に若者向けのメンズブランドショップが並んでいる。
比較的サイズを小さく作ってあるブランドなので、貞は国彦のサイズもあるだろうと踏んでいた。
そこに向かう途中、貞はティーン向けの商品を扱っている雑貨店に目を止めた。
「あの模様、最近しょっちゅう見かけるな。」
貞が雑貨店の棚に陳列されたスマートフォンケースを指さした。
緑と黒の市松模様のスマートフォンケースだ。
この模様は、国彦が愛読している少年マンガの主人公が着ている羽織りの模様だ。
さっき映画館のスクリーンで散々見てきたから、嫌でも印象に残る。
街中で、この羽織りの模造品を着て歩く男児を見たことだってある。
「うん、流行ってるからね。なんかねえ、この模様、出版社がひょうしょうとうろく?ってヤツしようとしたんだって。」
「商標登録か?」
「そう、それ!マンガの人気につけ込んで、この模様使ったグッズがいっぱい作られて、好き勝手に売られてるのが嫌みたい。」
「気持ちはわかるけど、難しいだろうな。模様自体は大昔からある伝統的な模様だから。」
貞は市松模様のスマートフォンケースを手に取った。
「そっかあ、そうなるよねえ。」
国彦はそばにあった麻の葉紋様のスマートフォンケースを手に取った。
「まあ、とりあえず、服を買いに行こう。いつまでも冬服着てられないだろ。」
「そうだね。」
貞がスマートフォンケースを棚に戻す。
それに続くように、国彦もスマートフォンケースを棚に戻した。
「あら、岩山さん?」
途端、聞き覚えのある声に呼ばれて振り返ると、下野がいた。
隣には下野の妻もいる。
下野が忘れ物をしたとき、会社に届けに来たことがあるから、貞も顔は知っていた。
「ああ…下野。お久しぶりですね、奥さん。」
いつもと変わらない風に振る舞ってみせたが、貞は内心焦っていた。
体の緊張と冷や汗が止まらない。
こんなところで職場の人間と出くわすとは思わなかった。
国彦はマスクをしているし、失踪当時と比べると服装や髪型がだいぶ様変わりしているが、バレないとも限らない。
「お久しぶりです、岩山さん。その子は?」
案の定、下野の妻が国彦のことを聞いてきた。
「親戚の子です。一緒に暮らすことになったもんですから、ここでいろいろ買おうと思いまして。」
「へえ、そうだったんですか。ああ、こんにちは、岩山さんにはいつもお世話になってます。」
下野が国彦に挨拶してくる。
国彦は動揺したらしく、体をビクリと震わせたかと思うと、無言で会釈して貞の背後に隠れた。
「悪いが、ちょっと急いでるんだ。失礼するよ。」
「ああ、すみませんね。」
「うん、それじゃあな。」
貞は国彦の腕を掴んで、急ぎ足でその場を去って行った。
「なーんか、無愛想な女の子だったよなあ。岩山さん、挨拶とか態度とかめちゃくちゃ厳しいのに。身内には甘いのかねえ?」
去っていく2人の背中を見つめながら、下野は妻に話しかけた。
「え?さっきの子、男の子じゃない?喉仏があったし。」
「え?あった?」
「あったわよ。それ以前に、あの子……気のせいかな?どっかで見たことあるカンジするんだけど…どこだったかな?」
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
『僕は肉便器です』
眠りん
BL
「僕は肉便器です。どうぞ僕を使って精液や聖水をおかけください」その言葉で肉便器へと変貌する青年、河中悠璃。
彼は週に一度の乱交パーティーを楽しんでいた。
そんな時、肉便器となる悦びを悠璃に与えた原因の男が現れて肉便器をやめるよう脅してきた。
便器でなければ射精が出来ない身体となってしまっている悠璃は、彼の要求を拒むが……。
※小スカあり
2020.5.26
表紙イラストを描いていただきました。
イラスト:右京 梓様
【急募!】理性消失雌墜ちSEX好きな方はこちらへ!!※メンヘラ彼氏に「別れよう」と言って痴話喧嘩プレイに持ち込む男前メンヘラ受けアベック!!
朝井染両
BL
タイトルのままです
みなさんお久しぶりです。
ちょびちょび書き続けております。
毎日書いてるのに終わらないんです、不思議ですね。
しかしなんと、終わりました。
今回は物凄い熟成期間を経て表に出されたアホエロです。
途中ちょっと喧嘩がヒートアップしますが、それも込みのプレイです。
よろしくお願いします。
感想とかもらう度に続き書けられたので、出来たら感想を下さい……そいつはわたしの特効薬です…………いつもお世話になっております……何度も読み返してようやく完成しました。
まだまだポチポチ書いていますので、次回作をお待ちください……。
エロ書くのはカロリー消費エグいけど本当に楽しいです。痩せます、おすすめです。
獅子帝の宦官長
ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。
苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。
強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受
R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。
2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました
電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/
紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675
単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております
良かったら獅子帝の世界をお楽しみください
ありがとうございました!
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる