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プレゼント
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国彦を拐ってから、1ヶ月半が過ぎた。
「国彦、留守の間は退屈だろ?これを使うといい。」
夕食の前、貞が渡したのは自分が普段使っている10インチのタブレットだった。
「え?これ、仕事で使うんじゃないの?」
「いや、仕事ではパソコンを使う。家で動画なんかを見るときはこれを使うんだ。俺は最近はテレビを見てないから、コレで動画サイトを開いて見るんだ。ロックを外しておいたから、好きに使うといい。」
「ありがとう!」
国彦は貞の広い胸に顔を埋めるようにして抱きついた。
「気に入ってくれたなら、良かった。」
「あ…ねえ、ほんとに今さらなんだけど、おじちゃんの名前、なんていうの?」
国彦が遠慮がちに尋ねてくる。
──おじちゃん?ああ、俺のことか。まあ、18歳から見た40歳なんて「おじちゃん」と呼ぶのが妥当か
貞は自分にそう言い聞かせた。
国彦に言われてみれば、確かに名前を名乗ったことが一度もない。
呼ぶときは、いつも「ねえ」とか「あなた」だった。
「おじちゃん」と呼ばれるのは気分の良いものではないが、距離が縮まっている証拠だと考えれば、悪い気はしない。
「俺は岩山貞というんだ。」
「いわやまただし?ただしって、正解の正の字を書くの?ほら、数を数えるときに書くヤツ。」
国彦は自分の手のひらの上に「正」の字を書くようにして、指でなぞってみせた。
「いや違う。貞淑の貞の字だ。」
「ていしゅく?」
国彦が首を傾げる。
タブレットのメモアプリを開き、「岩山貞」と入力して見せてやると、ようやく納得したような顔をした。
「この漢字、「さだ」とも読むよね。」
国彦がタブレットの画面を指差す。
「そうだな。正しい行いとか、心持ちを変えないとかいう意味がある。俺の親父がつけた名前だ。」
「ふうん。」
「国彦の名前の由来は?」
「わからない。」
「なんでだ?」
「……オレ、施設育ちでね。名前は施設の先生が大雑把につけたんだよ。オレは親の顔も知らないの。」
国彦がら少しばかり気落ちしたような声で答えた。
「そうか。」
気まずくなった貞は、国彦の頼りない肩に手を置いて抱き寄せた。
顔を近づけて、国彦のふっくらした唇と、少しカサついた自分の唇を軽く重ねる。
しばらく唇をつけたままでいたが、すぐに離した。
「国彦、腹がへったし、ごはん食べよう。」
「うん、今日のは美味しくできたと思うんだあ。」
国彦が立ち上がり、キッチンまで歩いていく。
最近は国彦が食事を作るようになった。
貞に対する警戒心はまるで無くなったようで、今は体に触れるどころか、さっきみたいに唇を重ねても、少しも抵抗してこない。
体調を崩して帰ってきた夜から、関係が進展したのだ。
あの日の翌日、貞は会社を休んだ。
連日、獲物探しのために睡眠時間を削り、ソファで寝たり、家にいる国彦のことを気にかけてばかりいたせいで、知らず知らずのうちに体に負担をかけてしまい、その積み重ねがあの日になって全部出たのだろう。
過労と診断され、療養を余儀なくされた。
療養中、国彦はひたらすら看護師役に徹していた。
お粥や細かく刻んだ果物、スポーツドリンクを与え、ふらつきながらトイレに行こうとすると、肩を貸してもくれた。
貞が眠っているときはテレビの音を小さくしたり、マンガ雑誌を読んだりして、なるだけ音を立てないように気を配っていた。
自分から貞に接近することはほとんどなかっただけに、大きな変化と言えた。
どうやら、こないだまでナイフをちらつかせていた男が体調を崩し、大人しく自分の言いなりになったことで、安心する気持ちが芽生えたようだ。
その日から、国彦の態度に積極性が加わった気がする。
今日、タブレットを渡したことで、より懐柔させることができたようだ。
夕食後、タブレットの操作に夢中になっている国彦の手を見て、貞はあることを思いついた。
「国彦、留守の間は退屈だろ?これを使うといい。」
夕食の前、貞が渡したのは自分が普段使っている10インチのタブレットだった。
「え?これ、仕事で使うんじゃないの?」
「いや、仕事ではパソコンを使う。家で動画なんかを見るときはこれを使うんだ。俺は最近はテレビを見てないから、コレで動画サイトを開いて見るんだ。ロックを外しておいたから、好きに使うといい。」
「ありがとう!」
国彦は貞の広い胸に顔を埋めるようにして抱きついた。
「気に入ってくれたなら、良かった。」
「あ…ねえ、ほんとに今さらなんだけど、おじちゃんの名前、なんていうの?」
国彦が遠慮がちに尋ねてくる。
──おじちゃん?ああ、俺のことか。まあ、18歳から見た40歳なんて「おじちゃん」と呼ぶのが妥当か
貞は自分にそう言い聞かせた。
国彦に言われてみれば、確かに名前を名乗ったことが一度もない。
呼ぶときは、いつも「ねえ」とか「あなた」だった。
「おじちゃん」と呼ばれるのは気分の良いものではないが、距離が縮まっている証拠だと考えれば、悪い気はしない。
「俺は岩山貞というんだ。」
「いわやまただし?ただしって、正解の正の字を書くの?ほら、数を数えるときに書くヤツ。」
国彦は自分の手のひらの上に「正」の字を書くようにして、指でなぞってみせた。
「いや違う。貞淑の貞の字だ。」
「ていしゅく?」
国彦が首を傾げる。
タブレットのメモアプリを開き、「岩山貞」と入力して見せてやると、ようやく納得したような顔をした。
「この漢字、「さだ」とも読むよね。」
国彦がタブレットの画面を指差す。
「そうだな。正しい行いとか、心持ちを変えないとかいう意味がある。俺の親父がつけた名前だ。」
「ふうん。」
「国彦の名前の由来は?」
「わからない。」
「なんでだ?」
「……オレ、施設育ちでね。名前は施設の先生が大雑把につけたんだよ。オレは親の顔も知らないの。」
国彦がら少しばかり気落ちしたような声で答えた。
「そうか。」
気まずくなった貞は、国彦の頼りない肩に手を置いて抱き寄せた。
顔を近づけて、国彦のふっくらした唇と、少しカサついた自分の唇を軽く重ねる。
しばらく唇をつけたままでいたが、すぐに離した。
「国彦、腹がへったし、ごはん食べよう。」
「うん、今日のは美味しくできたと思うんだあ。」
国彦が立ち上がり、キッチンまで歩いていく。
最近は国彦が食事を作るようになった。
貞に対する警戒心はまるで無くなったようで、今は体に触れるどころか、さっきみたいに唇を重ねても、少しも抵抗してこない。
体調を崩して帰ってきた夜から、関係が進展したのだ。
あの日の翌日、貞は会社を休んだ。
連日、獲物探しのために睡眠時間を削り、ソファで寝たり、家にいる国彦のことを気にかけてばかりいたせいで、知らず知らずのうちに体に負担をかけてしまい、その積み重ねがあの日になって全部出たのだろう。
過労と診断され、療養を余儀なくされた。
療養中、国彦はひたらすら看護師役に徹していた。
お粥や細かく刻んだ果物、スポーツドリンクを与え、ふらつきながらトイレに行こうとすると、肩を貸してもくれた。
貞が眠っているときはテレビの音を小さくしたり、マンガ雑誌を読んだりして、なるだけ音を立てないように気を配っていた。
自分から貞に接近することはほとんどなかっただけに、大きな変化と言えた。
どうやら、こないだまでナイフをちらつかせていた男が体調を崩し、大人しく自分の言いなりになったことで、安心する気持ちが芽生えたようだ。
その日から、国彦の態度に積極性が加わった気がする。
今日、タブレットを渡したことで、より懐柔させることができたようだ。
夕食後、タブレットの操作に夢中になっている国彦の手を見て、貞はあることを思いついた。
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