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苦い思い出

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国彦を拐って3日目の土曜日。
駐車場に向かうと、ミニバンのフロントガラスに薄く霜が降りていた。
昨夜から寒波が到来して、冷え込みが一段と激しくなっていたのだ。

国彦の衣類や食料を買いに行くため、貞は車で20分程度の距離にある大手スーパーマーケットに向かうことにした。
近所のスーパーでも良かったが、大荷物になる可能性が高いし、国彦に必要なものを買い揃えるには、車で品数の多い店に行った方がいいだろうと考えた。
逃亡防止のため、ずっと裸で生活させるつもりでいたが、暖房をつけてもまるで震えが止まらない様子を見ると、風邪を引いたり、凍死する危険性も考えられた。
出かける前に国彦の手足をしっかり拘束し、口はガムテープではなくフェイスタオルで猿ぐつわを作って塞ぐことにした。
ガムテープを剥がすとき、皮膚が引っ張られて痛そうな顔をするのを見ていられなくなったからだ。

貞が向かったスーパーは1階に食料品、2階に衣料品と日用品、3階は家電や雑貨品、百円均一の売り場がある。
まずは国彦の服が必要だと考えて、2階に向かうことにした。
男性用衣料品のコーナーを見て回っても、国彦の小柄な体に合いそうな服は見当たらない。
なぜ女物のコートなんか着ていたのか、合点がいった。

──ここのヤツは、どれもアイツには大きいだろうな

具体的なサイズはわからないが、男性サイズの服が合わないのは明確だった。
歩き回っているうちに「XSサイズ」と書かれたコーナーを発見した。

──これなら合うかな?

商品を手に取って、表記されているスリーサイズを確認してみたが、国彦に合うかまでは確信が持てない。
サイズを控えておくべきだったな、と貞は少しばかり後悔した。
女物でも、黒やグレー、ネイビーの暗色系なら、国彦も着れるかもしれない。
そう思って、婦人服コーナーを回ってみる。
婦人服コーナーのディスプレイには、カーキ色のチュニックワンピースを着たマネキンが立っていて、壁にはそれを着た女性モデルのポスターが貼られている。
清楚な印象を与える、黒髪のワンレンボブの女性だ。

──秀美ひでみもこんなカンジのワンピース着てたな…

ふと、別れた妻のことを思い出した。
妻の秀美とは5年前に離婚し、秀美は今どこで何をしているのかわからない。

結婚当時、貞は32歳、秀美は29歳。
同僚の紹介で知り合った女で、物静かでひかえめな態度に惹かれて付き合う形となった。
しかし結婚してしばらく経つと、秀美の態度は日に日に大きくなっていった。
浪費も激しくなり、そのことを指摘すると逆上してきて、口論になることもしばしばだった。
加えて、結婚して2年経った頃合いに得意先の上層部の不祥事が発覚し、メディアで取り上げられるほどの事態が起きた。
その煽りを受けて、貞の会社の株価は著しく下がり、当然給料にも影響する。
収入が下がったことで満足に浪費ができなくなると、秀美は貞に八つ当たりを始めた。
これをきっかけに、貞は離婚を決意した。
妻は自分を財布としか見なしていない。
それを嫌でも実感する出来事だった。

妻に限らず、今まで付き合った女も似たり寄ったりだった。
最初のうちは大人しくひかえめだが、次第にわがままになり、貞の金で浪費し始める。
最初は貞の優しさを素直に喜ぶだけだったのが、「自分は国立大卒で大手企業勤務、女性受けの良い見た目をした男と付き合っている」という事実に価値を見いだし、酔い出してくるのだろう。
みんな貞から迫って付き合ったものだから、尚更だ。
貞が優しく振る舞えば振る舞うほど、女たちは日を追うごとに傲慢になっていく。
その繰り返しに疲れた貞の中に、いつしか「女を対等に扱ってはいけない」という価値観が芽生えるようになった。
気に入った女は無理矢理にでも組み敷いて、「俺の方が上だ」と知らしめるくらいがちょうどいい。
優しく丁重に扱えば、あっという間にいいように使われるだけだ。

──ああ、嫌なこと思い出した。秀美なら、きっと大丈夫だ。アイツは美人だし、人当たりもいいから新しい男でも見つけて楽しくやってるさ

少し気分が落ち込んだ貞は、男性用XSサイズの長袖シャツと女性サイズの長袖シャツをそれぞれ1枚ずつ買い物カゴに放り込んだ。
下着もいるな、と考えて男性下着コーナーを歩いていると、国彦が履いていたのと同じ型のものを見つけたので、それもカゴに入れた。
あの小さな足が冷えたりしないよう、靴下も買っておく。

──女は抱いてやればいいけど、国彦は?
女みたいなナリしてるけど、あの子は男の子だ。どう扱うのが妥当なんだ?仕事以外であれほど若い男の子と関わったことがないから、わからないな…

衣類の買い物を終えた貞は、寝室で食事していた国彦の力無い様子を思い出していた。
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