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真広との日々
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その後も五井は、何度か真広と会った。
名前を知った上で次に会った場所は、真広がバイトしている喫茶店だった。
喫茶店に入って席に着き、コーヒーを注文して新聞を読んだりしていると、真広が元気よくマスターに挨拶する声が聞こえた。
そうしていつものように、身軽な動作で配膳や片付けを済ませたかと思うと、真広がゆっくりとこちらに近づいてきて、「今日、講義が終わった後に来ますね」と囁いた。
行為中のときの声とは違って、やっと聞き取れるくらいの声量であったから、危うく聞き逃すところだった。
五井はあわてて新聞から顔を上げて、「ああ」と短く返事した。
━━このやりとりもワンシーンとして使えそうだな
五井は新聞を急いで畳むと、パソコンを開いて原稿に取りかかった。
少し前は悩みに悩んでなかなか進まなかった原稿がいまはスムーズに進んでいき、今までの悩みが嘘のように、原稿をしっかり書き上げることができた。
このストーリー展開なら、編集者も読者もきっと満足させられると思うほどの完成度だった。
五井はできあがった原稿を提出すべく、荷物をまとめて帰る準備を始めた。
五井がレジに向かったとき、マスターが奥に引っ込んだからか、真広が対応した。
会計時、五井がいつものごとく静かに会釈して「待ってるよ」と囁くと、真広は嬉しそうに小さく頷いた。
店を出た五井は、自宅までの道をひとり歩いた。
道中、これまたいろんなアイデアが出てきて止まらない。
━━いま書いてるのはヒロインが地味で態度もしおらしい子だけど、その逆もアリだな。見た目が派手で態度も大きいけどモテない主人公は「相手にされないよりはマシ」と言って彼女と縁を切ることもできなくて…いや、見た目は地味で態度はしおらしいけど、実はそれは演技で、実際はホストとかにハマってて、主人公に近づいたのも実は金目当て…なんてのもアリだ。読者の中には寝取られとか、そういうワルなヒロインも好きな人がいるみたいだし。とりあえず、いま書いてる原稿のデータ送らないと
いろいろ考えているうち、自宅マンション前にたどり着いた。
五井は急ぎ足でエントランスのドアをくぐり、エレベーターに乗り込んだ。
早く帰らないと、頭に次々浮かんだデータが消えてしまいそうな気がした。
5階に着くとすぐに玄関ドアを開けて、持っていたパソコンをデスクに置いて電源をつける。
今の五井には、電源をつけてからデータを開くまでの時間すら惜しかった。
やっとの思いで原稿データを編集部へ送信した。
原稿がひと段落着いた五井は、部屋着に着替えながら今日のスケジュールの頭の中で練った。
━━今回のヤツは自信作だけど、ボツを食らう可能性もゼロじゃないから、今のうちに次の作品も書きながら真広くんを待とう
そう思った五井は次の作品を書き上げるべく、またデスクに着いてキーボードを打ち始めた。
そうしているうちに、真広からメッセージが届いた。
画面を開いてみると、『いま大学の講義が終わりました!いまからそっちに向かいますね』とのことだった。
名前を知った上で次に会った場所は、真広がバイトしている喫茶店だった。
喫茶店に入って席に着き、コーヒーを注文して新聞を読んだりしていると、真広が元気よくマスターに挨拶する声が聞こえた。
そうしていつものように、身軽な動作で配膳や片付けを済ませたかと思うと、真広がゆっくりとこちらに近づいてきて、「今日、講義が終わった後に来ますね」と囁いた。
行為中のときの声とは違って、やっと聞き取れるくらいの声量であったから、危うく聞き逃すところだった。
五井はあわてて新聞から顔を上げて、「ああ」と短く返事した。
━━このやりとりもワンシーンとして使えそうだな
五井は新聞を急いで畳むと、パソコンを開いて原稿に取りかかった。
少し前は悩みに悩んでなかなか進まなかった原稿がいまはスムーズに進んでいき、今までの悩みが嘘のように、原稿をしっかり書き上げることができた。
このストーリー展開なら、編集者も読者もきっと満足させられると思うほどの完成度だった。
五井はできあがった原稿を提出すべく、荷物をまとめて帰る準備を始めた。
五井がレジに向かったとき、マスターが奥に引っ込んだからか、真広が対応した。
会計時、五井がいつものごとく静かに会釈して「待ってるよ」と囁くと、真広は嬉しそうに小さく頷いた。
店を出た五井は、自宅までの道をひとり歩いた。
道中、これまたいろんなアイデアが出てきて止まらない。
━━いま書いてるのはヒロインが地味で態度もしおらしい子だけど、その逆もアリだな。見た目が派手で態度も大きいけどモテない主人公は「相手にされないよりはマシ」と言って彼女と縁を切ることもできなくて…いや、見た目は地味で態度はしおらしいけど、実はそれは演技で、実際はホストとかにハマってて、主人公に近づいたのも実は金目当て…なんてのもアリだ。読者の中には寝取られとか、そういうワルなヒロインも好きな人がいるみたいだし。とりあえず、いま書いてる原稿のデータ送らないと
いろいろ考えているうち、自宅マンション前にたどり着いた。
五井は急ぎ足でエントランスのドアをくぐり、エレベーターに乗り込んだ。
早く帰らないと、頭に次々浮かんだデータが消えてしまいそうな気がした。
5階に着くとすぐに玄関ドアを開けて、持っていたパソコンをデスクに置いて電源をつける。
今の五井には、電源をつけてからデータを開くまでの時間すら惜しかった。
やっとの思いで原稿データを編集部へ送信した。
原稿がひと段落着いた五井は、部屋着に着替えながら今日のスケジュールの頭の中で練った。
━━今回のヤツは自信作だけど、ボツを食らう可能性もゼロじゃないから、今のうちに次の作品も書きながら真広くんを待とう
そう思った五井は次の作品を書き上げるべく、またデスクに着いてキーボードを打ち始めた。
そうしているうちに、真広からメッセージが届いた。
画面を開いてみると、『いま大学の講義が終わりました!いまからそっちに向かいますね』とのことだった。
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