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アイデア
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年齢は若く、見た目は地味だが器量は悪くなく、普段の態度はしおらしく、それでいてベッドでは驚くほど大胆になる。
五井の作品の読者層が好きなヒロイン像は、大体そんな感じだ。
そのとき、五井の頭にろくでもないアイデアが浮かんだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「おじさん、おじさん?」
それから数時間後、男の子が五井に呼びかけながらリビングにやって来た。
先ほど寝室のローテーブルに置いた服をすでに着込んでいて、起きたばかりだからか声は少し掠れ、汗をかいたせいでベタついていた髪が、額に何本か張りついている。
「…起きたのかい、おはよう」
我ながら的外れな挨拶だな、と五井は思った。
何せ、もう時刻は20時半だ。
間違っても「おはよう」なんて挨拶をするような時間帯ではない。
「あ、おはようございます」
男の子ご不思議そうな顔で挨拶を返す。
ひょっとして、五井と同じようなことを考えているのかもしれない。
「汗をかいただろ。シャワー浴びていくかい?」
男の子の髪のベタつきが気になって、五井は思わずそんなことを口走った。
「え、あー…いえ、帰ります」
壁にかかった時計を見て、男の子が答えた。
「そうか。帰る前にコレを渡しておくよ」
五井は壁際に移動すると、そこに置かれている背の高いキャビネットの引き出しから、鍵を取り出した。
紛失したときのために複数作っておいた、この家の玄関ドアの鍵である。
「きみがよければ、またおいで」
五井は手を目の高さまで上げて、引き出しから取り出した鍵を男の子に見せた。
「え?」
男の子が顔を真っ赤にして、驚いた様子を見せる。
当然と言えば当然であろう。
最近会ったばかりの中年男が自分に手を出してきたあげく、合い鍵までよこしてきたのだから。
「ここの合い鍵。きみがよければ、時間があるときにここに来るといい。俺は大抵、家にいるからね。ほら、手を出して」
男の子が差し出した手に、五井はそっと鍵を乗せた。
「あ、ありがとうございます!」
どうしたわけか、男の子はクリスマスプレゼントをもらった子どもみたいに嬉しそうに礼を言って、会釈までした。
いったいこれは、何に対するありがとうなのだろう。
疑念はあるが、嬉しそうな男の子の様子をみると、五井も悪い気はしない。
「こら、待ちなさい」
妙に微笑ましい気持ちになりつつ、五井は男の子を呼び止めた。
男の子が部屋に荷物を置いたまま帰ろうとしたのだ。
「え?」
五井に呼び止められた男の子が、反射的に振り返る。
「荷物忘れてるよ」
「あ…すみません…」
五井がバッグを手渡すと、男の子は恥ずかしそうな顔をして受け取った。
「うん、もう忘れ物はないね?」
「はい、大丈夫です。失礼します」
「送っていこうか?」
男の子を玄関まで見送るついでに、五井は男の子が出やすいようにドアを開けた。
「あ…大丈夫です、家は近いですから。さよなら!」
五井が開けてやっていた玄関ドアをくぐって、男の子は急ぎ足で家を出て行った。
男の子が去ったことを確認すると、五井は仕事に取りかかろうとリビングに戻った。
五井の作品の読者層が好きなヒロイン像は、大体そんな感じだ。
そのとき、五井の頭にろくでもないアイデアが浮かんだ。
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「おじさん、おじさん?」
それから数時間後、男の子が五井に呼びかけながらリビングにやって来た。
先ほど寝室のローテーブルに置いた服をすでに着込んでいて、起きたばかりだからか声は少し掠れ、汗をかいたせいでベタついていた髪が、額に何本か張りついている。
「…起きたのかい、おはよう」
我ながら的外れな挨拶だな、と五井は思った。
何せ、もう時刻は20時半だ。
間違っても「おはよう」なんて挨拶をするような時間帯ではない。
「あ、おはようございます」
男の子ご不思議そうな顔で挨拶を返す。
ひょっとして、五井と同じようなことを考えているのかもしれない。
「汗をかいただろ。シャワー浴びていくかい?」
男の子の髪のベタつきが気になって、五井は思わずそんなことを口走った。
「え、あー…いえ、帰ります」
壁にかかった時計を見て、男の子が答えた。
「そうか。帰る前にコレを渡しておくよ」
五井は壁際に移動すると、そこに置かれている背の高いキャビネットの引き出しから、鍵を取り出した。
紛失したときのために複数作っておいた、この家の玄関ドアの鍵である。
「きみがよければ、またおいで」
五井は手を目の高さまで上げて、引き出しから取り出した鍵を男の子に見せた。
「え?」
男の子が顔を真っ赤にして、驚いた様子を見せる。
当然と言えば当然であろう。
最近会ったばかりの中年男が自分に手を出してきたあげく、合い鍵までよこしてきたのだから。
「ここの合い鍵。きみがよければ、時間があるときにここに来るといい。俺は大抵、家にいるからね。ほら、手を出して」
男の子が差し出した手に、五井はそっと鍵を乗せた。
「あ、ありがとうございます!」
どうしたわけか、男の子はクリスマスプレゼントをもらった子どもみたいに嬉しそうに礼を言って、会釈までした。
いったいこれは、何に対するありがとうなのだろう。
疑念はあるが、嬉しそうな男の子の様子をみると、五井も悪い気はしない。
「こら、待ちなさい」
妙に微笑ましい気持ちになりつつ、五井は男の子を呼び止めた。
男の子が部屋に荷物を置いたまま帰ろうとしたのだ。
「え?」
五井に呼び止められた男の子が、反射的に振り返る。
「荷物忘れてるよ」
「あ…すみません…」
五井がバッグを手渡すと、男の子は恥ずかしそうな顔をして受け取った。
「うん、もう忘れ物はないね?」
「はい、大丈夫です。失礼します」
「送っていこうか?」
男の子を玄関まで見送るついでに、五井は男の子が出やすいようにドアを開けた。
「あ…大丈夫です、家は近いですから。さよなら!」
五井が開けてやっていた玄関ドアをくぐって、男の子は急ぎ足で家を出て行った。
男の子が去ったことを確認すると、五井は仕事に取りかかろうとリビングに戻った。
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