ハートの瞳が止まらない

若目

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事前のシャワー

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「失礼」
五井は男の子のうなじに触れてみた。
男の子の肌は真っ赤に染まっていて、ひょっとしたら熱でもあるんじゃないかと思ったのと、いきなりこんなことをしたら流石に驚いて気持ち悪がって、「帰ります」と言うだろうと思ったのだ。
五井としては、自分を気味悪がって避けてくれる方がありがたがった。

案の定というべきか、男の子は「ひえッ」と聞いたことがないくらいに高い声を出した。
「汗をかいているね。シャワー浴びるかい?」
「え…えっと…?」
男の子が戸惑った様子で五井を見つめた。
当然といえば当然である。
いきなりこんなことをされて、冷静でいられる人間はいない。

「連絡先を渡してきて、あんなメールを受けて、ここまで来たからにはをするつもりで来たのかと思ってたけど、違うのかな?」
男の子のうなじから手を離すと、手の甲がじっとりと濡れていることに気づいた。
今日の気温は決して高くはない。
それなのに、こんなに汗をかくあたり、相当急いでやってきたのだろうか。
いや、単純にこの子が特別汗っかきなだけかもしれない。
思えば、この子は空調が効いた店内でもよく汗をかいていた。

「そういうことって…」
「セックス」
五井は聞き逃されたりしないように、男の子の耳元であえて明け透けに言った。
この際、濁して言うよりもはっきりと言ってしまった方が伝わりやすいだろうと思ったからだ。

男の子の頬の赤みが、ますます濃くなっていく。
「ねえ、やっぱりイヤだ帰りたいっていうなら、いまのうちだよ?どうする?」
五井は男の子の耳元から顔を離すと、玄関のドアノブに手をかけた。
後々になって「引っ込みがつかなくなってついつい了承してしまった」などと言われ、最悪は「強姦された」などと言われかねないので、こちらから逃げ道を作ってやることにしたのだ。

「だ、大丈夫…です。そのつもりで来ましたから」
男の子がたどたどしく返答した。
「それならいい。それで、シャワーは?」
「あ、つ、使います!」
「そうかい、バスルームはこっちだよ」
五井は靴を脱ぐと、廊下に上がって歩き始めた。
男の子も後を追うように靴を脱いで、廊下を進んでいく。


「ここを使ってね。ガウン出しとくから、シャワー浴び終わったら、これ使ってね」
男の子を脱衣所まで案内してやると、五井はそばの物入れから薄手のベージュのガウンを引っ張り出した。
以前取材したホテル経営者からもらったものなのだけど、五井が着るにはサイズが小さいから、ずっと物入れの中に入れっぱなしになっていたのだ。
まさか、こんな形で出番が来るとは、夢にも思わなかった。

「はい…」
男の子がおずおずと控えめな態度でガウンを受け取る。
「じゃ、寝室で待ってるね」
五井は男の子に背中を向けると、脱衣所を出ていった。


しばらくしてから、五井はバスタオルを用意してやるのを忘れたことに気づいて、脱衣所に引き返した。
五井が脱衣所に戻ったとき、男の子はまだシャワーを浴びていて、浴室のドアのすりガラス越しに小さなシルエットが動いているのが確認できた。

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