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休憩
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真広は体についた水分を全て拭き取ると、バスローブを羽織った。
そのときだった。
「シャワー終わったかい?」
脱衣所のドアがゆっくり開かれて、五井が脱衣所に入ってきた。
先ほど着ていたスウェットの上下を着込んでいて、髪もさっきと同じように無造作のままだ。
「はい」
「君の服、いま洗濯して乾燥機かけてるところなんだ。乾くまでまだかかると思うから、リビングで休みなさい。お茶とお菓子出してるよ」
「え…あ、ありがとうございます」
五井の言葉に、真広はまたしても声を上擦らせた。
こんなことを言われるなんて思わなかった。
今までは、事が終われば即座に帰っていたから。
「こっちおいで」
「はい」
五井に手まねきされて、真広は主人に従う飼い犬のようについていく。
「そこに座って」
リビングに入ると、五井がテーブルにつくように促してきて、キッチンに向かった。
リビングの真ん中に置かれたテーブルは、白を基調にした2人掛けのガラステーブルで、寝室にあったローテーブルを少し大きくしたようなデザインのものだ。
「コーヒーと紅茶と…あー、一応牛乳あるけど……」
椅子を引いて座った途端に、五井がキッチンから顔だけ覗かせてきた。
「えっと、コーヒーで」
「了解」
五井がまたキッチンに引っ込んだかと思うと、ガサガサカチャカチャと何か作業を始めた。
おそらく、コーヒー瓶やカップ、ティースプーンなんかを引っ張り出しているのだろう。
しばらくすると、コーヒーをドリップする音が聞こえてきた。
──たぶん、ウチの店のよりいいヤツ使ってるな
真広のバイト先の喫茶店は、古い型のコーヒードリッパーが絶え間なく動いている。
そのせいか、ときどきガタガタと不穏な音を立てることがあるのだけど、いま五井が使っているものは大人しい。
「コーヒー淹れるまで時間かかるから、テレビ見てて。あと、よかったら、コレ食べなさい。口に合うといいんだけど」
五井は一旦キッチンから出ると、いろんな種類のお菓子が入った小さなバスケットを真広の目の前に置いた。
「ありがとうございます」
真広は袋入りのチョコチップクッキーをひとつつまみ上げると、封を切って口に放り込んだ。
そうしているうち、五井がコーヒーカップが2つ乗ったトレーを運んできた。
「どうぞ、ミルクと砂糖はここ置いとくね」
五井が真広の目の前にコーヒーカップ、ティースプーン、砂糖壺、ミルクカップを順繰りに置いていく。
「ありがとうございます」
真広はコーヒーカップに砂糖とミルクをひとさじ入れると、ゆっくりゆっくりかき混ぜた。
砂糖とミルクがコーヒーに溶け込み、黒かったのがあっという間に甘やかな茶色に変わった。
口に含むと、ほどよい苦みと甘みが口いっぱいに広がった。
「コーヒー、おいしいです」
「そうかい、そりゃよかった」
五井がにっこりとほほ笑む。
──五井さんもこんな顔することがあるんだなあ…
真広が知る五井は、いつも厳しい顔をしているから、こんな顔は初めて見る。
ついでとばかりに、真広はリビングを見まわした。
そのときだった。
「シャワー終わったかい?」
脱衣所のドアがゆっくり開かれて、五井が脱衣所に入ってきた。
先ほど着ていたスウェットの上下を着込んでいて、髪もさっきと同じように無造作のままだ。
「はい」
「君の服、いま洗濯して乾燥機かけてるところなんだ。乾くまでまだかかると思うから、リビングで休みなさい。お茶とお菓子出してるよ」
「え…あ、ありがとうございます」
五井の言葉に、真広はまたしても声を上擦らせた。
こんなことを言われるなんて思わなかった。
今までは、事が終われば即座に帰っていたから。
「こっちおいで」
「はい」
五井に手まねきされて、真広は主人に従う飼い犬のようについていく。
「そこに座って」
リビングに入ると、五井がテーブルにつくように促してきて、キッチンに向かった。
リビングの真ん中に置かれたテーブルは、白を基調にした2人掛けのガラステーブルで、寝室にあったローテーブルを少し大きくしたようなデザインのものだ。
「コーヒーと紅茶と…あー、一応牛乳あるけど……」
椅子を引いて座った途端に、五井がキッチンから顔だけ覗かせてきた。
「えっと、コーヒーで」
「了解」
五井がまたキッチンに引っ込んだかと思うと、ガサガサカチャカチャと何か作業を始めた。
おそらく、コーヒー瓶やカップ、ティースプーンなんかを引っ張り出しているのだろう。
しばらくすると、コーヒーをドリップする音が聞こえてきた。
──たぶん、ウチの店のよりいいヤツ使ってるな
真広のバイト先の喫茶店は、古い型のコーヒードリッパーが絶え間なく動いている。
そのせいか、ときどきガタガタと不穏な音を立てることがあるのだけど、いま五井が使っているものは大人しい。
「コーヒー淹れるまで時間かかるから、テレビ見てて。あと、よかったら、コレ食べなさい。口に合うといいんだけど」
五井は一旦キッチンから出ると、いろんな種類のお菓子が入った小さなバスケットを真広の目の前に置いた。
「ありがとうございます」
真広は袋入りのチョコチップクッキーをひとつつまみ上げると、封を切って口に放り込んだ。
そうしているうち、五井がコーヒーカップが2つ乗ったトレーを運んできた。
「どうぞ、ミルクと砂糖はここ置いとくね」
五井が真広の目の前にコーヒーカップ、ティースプーン、砂糖壺、ミルクカップを順繰りに置いていく。
「ありがとうございます」
真広はコーヒーカップに砂糖とミルクをひとさじ入れると、ゆっくりゆっくりかき混ぜた。
砂糖とミルクがコーヒーに溶け込み、黒かったのがあっという間に甘やかな茶色に変わった。
口に含むと、ほどよい苦みと甘みが口いっぱいに広がった。
「コーヒー、おいしいです」
「そうかい、そりゃよかった」
五井がにっこりとほほ笑む。
──五井さんもこんな顔することがあるんだなあ…
真広が知る五井は、いつも厳しい顔をしているから、こんな顔は初めて見る。
ついでとばかりに、真広はリビングを見まわした。
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