ハートの瞳が止まらない

若目

文字の大きさ
上 下
13 / 52

彼の名前

しおりを挟む
「え…んんッ!」
 いきなり唇を塞がれた。
 酸素が入りにくくなったものだから、頭が回らない。
 にわかに頭がクラクラして、体の力が抜けていく。
「んん~ッ!ぷはっ…」
 唇が離されると、真広は即座に息を吸い込み、酸素を脳に送った。
 それでもなお頭はクラクラしていて、酩酊したような感覚は抜けきらない。

「ふふふ。ごめん、苦しかった?」
 そんな真広の様子が面白かったのだろうか。
 彼がいたずらっぽく笑った。

 ──この人、こんな顔するんだ…

 上手く回らない頭の端で、真広はそんなことを考えた。
 彼には、いつも厳しい顔をしている印象を抱いていたから、意外に感じたのだ。

「ほら、ボーッとするんじゃないよ!」
 彼がまた体を揺さぶって、真広の体を抉ってきた。
「ふえッ⁈あうッ…ああっ!」
 体の奥から何かが迫り上がっていくような感覚に見舞われた真広は、おかしな声を出した。
 以前にも味わった、あの感覚だ。
「あああ~ッ♡!」
 無意識に出た高い声が、部屋に充満する。
 同時に、真広は自身の精液で腹を汚した。
 込み上げてきた感覚が、最高潮に達して爆ぜたのだ。

 行為も2度目となると少し慣れたのか、以前と違って意識を手放すことはなかった。
「いま抜くぞ」
「へ…?あ、はい!」
 彼の声に、真広はふと我に帰った。
「力を入れないで。息を深く吐いて」
 言われた通りにハーっと息を吐くと、彼が体を後ろに引いて、男根がゆっくりと抜かれていく。
 男根が体から抜けていく感覚に、だんだん頭が冴えてきた。

 ──ああ、終わったのか…

 少し残念な気持ちに見舞われながら、真広は彼をジッと見つめた。
「体を拭くよ。ジッとしててね」
 彼が、ベッド脇に置かれていたティッシュを数枚取ると、精液で汚れた真広の股を拭いた。

 真広はネットで見た「行為が終わって冷静になったときに、相手のことを考えて動ける男は有能」という見解を思い出した。
 なるほど、確かに。
 射精後でこんなに体が怠いときに、相手を気遣うなんてこと、滅多にできることではない。

 ──仕事できるタイプだろうなあ…

なんとなく、そんなことを考えた。
同時に、少しだけ、ほんの少しだけでも、彼のことを知りたいという気持ちが芽生えてきた。

「あのう…」
「うん?」
「お名前、教えてくれませんか?」
言ってしまった後の、驚いた彼の顔を見て、真広はハッとした。

「あ、すみません!えっと…」
こんなことを聞くべきではないかもしれない、と真広は思った。
彼は遊びで自分とこんなことをしているのだから、余計なことを聞くべきじゃない。
しかし、もう手遅れだ。
一度出した言葉は取り消せるものではない。
ああ、どうしようかと焦っているうちに、彼の口がゆっくり開いた。


「俺はね、五井創一郎ごいそういちろうというんだよ」
「五井さん…」
真広はうっとりと、教えられた名前を口に出してみた。
気分が高揚して、天にも昇るような心地になる。
少し前までは、彼の家にお邪魔したり、彼に抱かれたり、彼の名前を知ることなんて考えられなかった。

「ところで、きみの名前は?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

処理中です...