ハートの瞳が止まらない

若目

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彼の部屋

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「どうぞ、入って」
彼がぶっきらぼうに言って、エントランスでやったのと同じようにしてドアを開けると、真広を先に部屋に入らせようとした。

「お、お邪魔しまあす…」
真広はおずおずと躊躇いがちに、ゆっくり室内に入ると、土間で立ち止まった。

背後でガチャリと、玄関ドアの鍵を閉める音がする。
次に、カチャカチャとドアチェーンをかける音が聞こえてきた。

それに反応するかのように、真広の心臓が脈打ち始める。
ここまで来た以上、もう逃げられないぞと教えられている気がした。

「失礼」
突然、背後からうなじを触られた。
「ひえッ⁈」
彼の突拍子もない行動に、真広は思わず変な声を出した。

──ひょっとして、ここでの⁈

「汗をかいてるね。先にシャワー浴びるかい?」
彼の言葉に真広の驚愕は打ち砕かれたが、また新たな驚愕が待っていた。


「え、えっと…?」
真広はうろたえた。
この場合、浴びたほうがいいのだろうか。
たしかに汗をかいているし、そのせいで体もベタついている。

「連絡先を渡してきて、あんなメールを受けて、ここまで来たからにはをするつもりで来たのかと思ってたけど、違うのかな?」
彼の手がうなじから離れていく。

「そういうことって…」
真広がそれを考えているうち、彼の顔が近づいてきて、心臓の鼓動が早くなる。

「セックス」
彼が真広の耳元に唇を近づけて、ハッキリとそう言った。
同時に彼の吐息がかかって、ますます心臓が脈打つのが早くなる。

「ねえ、やっぱりイヤだ帰りたいっていうなら、いまのうちだよ?どうする?」
彼が真広の耳元から顔を離すと、玄関のドアノブに手をかけた。

「だ、大丈夫…です。そのつもりで来ましたから」
真広は、45度くらいの風呂に入ったときみたいに、顔がカーッと熱くなるのを感じた。

「それならいい。それで、シャワーは?」
「あ、つ、使います!」
「そうかい、バスルームはこっちだよ」
彼が靴を脱ぐと、廊下に上がって歩き始めた。
真広も靴を脱いで、廊下を進んでいく。


「ここを使ってね。ガウン出しとくから、シャワー浴び終わったら、これ使ってね」
脱衣所まで案内されると、彼が物入れから薄手のベージュのガウンを手渡してきた。

「はい…」
「じゃ、寝室で待ってるね」
真広がおずおずとガウンを受け取ると、彼は背中を向けて、脱衣所を出ていった。


 ────────────────────


真広は用意されていた脱衣カゴに脱いだ服を入れると、洗面台の横にある棚に視線を移した。

そこには、うがい用に使うのであろうプラスチック製のコップ、ストロングミントフレーバーの歯磨き粉、電気シェーバー、髭剃り用のジェル。
そして、やや使用感のある歯ブラシ。

歯ブラシ立てには、歯ブラシが1本しかない。
先ほど確認したが、玄関の土間にはほかの人のものと思わしき靴も見当たらなかったので、誰かと住んでいるというわけではないようだ。

彼に相手がいるなら、諦めるつもりでいた真広は、少し嬉しくなった。
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