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ピノキオの生まれから今に至るまで

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ようやく鍵を開けることができ、玄関ドアを開けると、ギイーッと耳障りな音が鳴る。
これだっていつものことだ。

この家の築年数は具体的にはわからない。
しかし、ピノキオがここで暮らすようになってから、つまり人間になってからすでに35年は経過している。
それだけ経過していれば、家全体にガタがくるのも当然であろう。




ピノキオの年齢は、亡き父ジェペットにも、ピノキオ本人にもわからない。
ピノキオ自身は、自分の年齢を人間に換算すれば、40も半ばであろうと推測している。

隣家に住むエウジェニオはもう45歳になるし、かつて同じ学校に通っていた同級生も皆それぐらいだからだ。
たいてい、この年齢になれば家庭を持つ者が多く、ピノキオの同級生の大半はすでに子どもがいた。
この年齢ですでに孫が生まれている者もいる。

当然、そこまでの年齢になれば、外見も幾分か変わってくる。
顔にシミやシワが刻まれ、白髪が生えて体力も徐々に衰えてくる。
しかし、ピノキオにはそれがなかった。
外見の年齢が、いつまで経っても十代後半から二十代前半に留まったままで、そこから動くことがなかった。

ピノキオの年齢がわからない原因の一つがこれであった。
年齢がわからない原因は、このほかにもある。
ピノキオはそもそも、出生の経緯があまりにも特異だった。
これは、亡き父ジェペットから伝え聞いた話だ。


亡き父ジェペットの近所に、アントニオという男が住んでいた。
ある日、アントニオが木切れからテーブルの脚を作ろうとしたところ、どうしたわけかわからないが、その木切れが人間の言葉を話したのだ。
アントニオによれば、手斧を持った瞬間に「あんまり強く打たないでおくれよ」と言い放ち、手斧を振り落として切れ目を入れたときには「痛い」と言ったのだという。

アントニオ親方は気味が悪くなって、その木切れを知人であったジェペットに譲った。
ちょうどジェペットが、材木を欲しがっていたからだ。
ジェペットが材木を欲しがった動機はなかなか不純なもので、かわいい操り人形を作って、人形芝居なんかしたりして見せ物にすれば、金儲けになると考えたらしい。

ジェペットは貧しい木彫り職人であったから、少しでも生活の足しが欲しかったのであろう。
名前の由来もかなり不純なもので、ジェペットが知っている人に大変裕福なピノキオ一族というのがいて、その名前にあやかって名付けられたのだ。

そうした経緯でジェペットに持ち帰られた木切れは、ジェペットの手によって削られ磨かれ、操り人形の頭となり額となり、やがて目もできた。

亡きジェペットは生前、そこからがなかなか大変だったと苦笑いしながら、頻繁にこの話をした。

「アレは一生忘れないよ。人生でいちばん大変で、人生でいちばん心躍った日だったからね」
決まってそう言ってから嬉しそうに語るジェペットの顔を思い出すと、ピノキオの視界がかすかに滲んだ。






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