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第2編 消えた人々の行方

疑念

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憧れを抱いていた相手から、こんな形で告白されるなんて思いもよらなかった。

同時に、どうしたものかと思った。
自分にはウォルターがいる。
それでも、モールの好意を無碍にすることもできなかった。

「……わかった。わかったから、離してくれる?」
ジャンティーの懇願を受け入れて、モールはジャンティーを自分の腕の中から解放した。
自分にはウォルターという相手がいることを話して、それから帰ることにしようと思った。
これがモールの画策だとは気づきもせず。

「すまない。驚いたよな、こんな……」
モールは照れ臭そうな顔を作った。
これもモールの作戦のうちだ。
ジャンティーは純朴なだけに、情に流されやすいところがある。
だから、「好き」だとか「まだここにいて欲しい」とか懇願されてしまうと、あっさり堕ちてしまうだろう。
強い酒で頭をやられたとなれば、なおさらだ。

モールのその目論みは見事に当たった。
ジャンティーはいま、自分にはウォルターがいるとはいえモールの想いを無碍にはしたくないという気持ちに頭を支配されていた。

「気にしないでよモール。ぼく、嬉しいよ。きみの気持ちには答えられないけど……」
「どうして?」
「実はね、ぼく、お城の旦那さまの奥さんになったんだ。すごくステキな旦那さま…」
とうとう言ってしまった。
酒とモールの抱擁でフラついた頭がそうさせたのだ。

「そうか……」
モールは内心舌打ちした。
ジャンティーを自分に惚れさせて、上手いこと手玉に取ろうと考えていたのに失敗したと思った。

反面、合点がいったこともある。
ジャンティーが高価な服や宝石を身につけていたのは、こういうことだったのだ。
当然のことながら、若い使用人風情にあんなものを気前よく明け渡す金持ちなどいない。
ジャンティーは「奥さん」などと体良く言ってはいるが、関係は「愛人」とか「小姓」だろう。
騙されやすいジャンティーのことだ。
主人に「きみは男だが僕の妻」だとか、そんな耳触りの良い言葉を鵜呑みにしているに違いない。
そして、ジャンティーが身につけている数々の服や宝石は愛人への貢ぎ物というわけだ。

──かわいい顔をして、大家の主人の愛人の座におさまるなんざ、コイツもやるな

ここでモールはまた、別の手を思いついた。
「そうか、お前が言うなら、ものすごくいい旦那さまなんだな」
「うん」
ジャンティーが顔を赤らめながら、ゆっくり頷いた。
「お前が幸せならそれでいいんだ。俺は潔く身を引くよ。友達でならいてくれるだろう?」
「うん…」
モールの予想通り、ジャンティーはホッとした反面、申し訳なさそうに了承した。

友達として、という口実なら繋がりを断たれることはない。
繋がりを絶たれなければ、いままでのように金目のものをくすねて換金することができる。
これでしばらくの金づるを確保できた、とモールはほくそ笑んだ。

そんなモールの心中にも気づかないジャンティーは、半身を起こしたままボーっと空中を見ていた。
ある程度回復したとはいえ、まだ酒が残っているのだろう。
この際だから、モールは聞き出したいことをすべて聞いておこうと口を開いた。

「そういえばジャンティー。お前の妹たちは今どうしているんだ?」
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