新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目

文字の大きさ
上 下
41 / 44
第2編 消えた人々の行方

さらに深みへ

しおりを挟む
「しんどいだろ。服を脱がすぞ。少しはラクになるはずだ」
「うん……」
モールはジャンティーが着ているジャケットとクラヴァット、ジレ、ブーツを脱がした。

ジャンティーはシャツとスラックスだけの軽装になり、はだけた胸元からは白い肌が覗けた。
ついこないだまでは浅黒く焼けていたところだ。
おそらく、長いこと日に晒されていなかった肌が、もとの白さを取り戻したのだろう。

モールは奥歯をギリ、と噛み締めた。
いまのジャンティーのこの肌の白さは、自分より遥かにいい暮らしをしている何よりの証明なのだ。
これが嫉妬せずにいられようか。

「……ありがとう、モール」
そんなモールの嫉妬などつゆ知らず、ジャンティーは礼を言う。
そんな無邪気さに、モールはまたしてもはらわたが煮えくりかえるような気持ちになった。

「いや、とんでもない。体調が安定するまでゆっくり寝ていろよ」
嫉妬と怒りを抑えつつ、モールはジャンティーに優しく話しかけた。
「ほんとに…ありがとう」
微笑みながらジャンティーは、ゆっくりと目を閉じた。
それを見計らって、モールは先ほど脱がしたジャケットやジレを物色し始めた。

──ジャケットとかは盗んでも質屋に持っていけないな。あんまり目立つモノを盗んでジャンティーに気づかれたら意味がない

ひとりであれこれ考えを巡らせながら、モールはジャケットやジレの飾りボタンや、クラヴァットの留め具を抜き取った。
高価な代物なのだ。
ボタンひとつ取ってみても価値は充分あるはずだし、ボタンや留め具がわずかに欠けた程度のことなら、疑われずに済むだろう。

モールは物色を終えると、脱がした衣服を全てきれいに畳んでおいた。





あっという間に酒にやられたジャンティーだったが、回復はモールが思ったより早かった。
「ごめんよモール。ぼくったら、また迷惑かけて……」
ジャンティーは申し訳なさそうな顔をしながら、半身を起こした。
「そんなこと気にするなよ」
「もう帰らなきゃ…」
ポンポンと軽く肩を叩くモールを置いて、ジャンティーはベッドから立ち上がった。
いつまでもここにいるわけにはいかない。
ウォルターとシャルルが待っているのだ。

「おいおい、無理するなよ。まだ寝てたほうがいい」
モールはジャンティーを必死に引き止めようとした。
「大丈夫だよ。それに、長居しちゃ悪いッ…⁈」
ジャンティーが帰ろうとした矢先、モールは彼に強く抱きしめられた。
「ごめん、お前を帰したくない」
「え?」
いきなり抱きしめられて、ジャンティーは戸惑った。

「いきなりこんなことを言われても戸惑うと思うけれど、初めて会ったときから俺はお前のことが好きだったんだ」
モールはジャンティーの細い体をより強く抱きしめた。

「モール……」
ジャンティーの心臓はバクバクと波打ち、頭がまたクラクラし始めた。
まだ酒が抜けてないのかもしれない。
「ジャンティー、まだここにいてくれないか?なるだけでいいんだ。少しでも、お前と長く一緒にいたい」
モールの唇が、ジャンティーの耳に触れる。
その瞬間、ジャンティーの背中はゾクリと震えた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

処理中です...