新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目

文字の大きさ
上 下
27 / 44

ハッピーエンド?

しおりを挟む

「それでもあなたは……ぼくを信じてくださったのですね。自分の命を危険に晒してまで……」
「お前を愛していたからだ。お前への愛があったからこそ、お前の誠意を疑うなんてことはできなかった。それは、お前への冒涜以外の何ものでもないと感じた」
青年が、大きな手でジャンティーの頬を撫でた。
頬に伝わる体温が温かくて心地良い。


「お前が現れたとき、私は悟ったんだ。お前だけはほかの人間たちとは違う。見せかけの美しさや、口先だけの言葉に欺かれない人間なのだと。そして、お前ならきっと私の真実の姿を見抜いてくれる。いつか私にかけられた魔法を解かしてくれると」

「ウォルター様……」
ジャンティーは目の前の青年──ウォルターを夢見心地でうっとりと見つめた。

なぜだろうか。
目の前のこの人を、はるか昔から知っていたような気がする。
それは、ジャンティーがかつて幼かった妹たちに読み聞かせていた物語に登場する、白馬の王子様に似ていたからかもしれない。

そのときは、「あたし、大人になったらこんな人と結婚するのよ!」と息巻いていた妹たちの話を他人事のように聞いていた。

しかし、いま目の前に立っている人を見ると、そんなふうに胸ときめかせる気持ちがよくわかった。

「ジャンティー、お前は私を元の姿に戻してくれた。私に多大なる幸福を与えてくれた。その恩に報いるためにも、これからは私がお前を幸福にしてやる番だ。ここで、この城で私と生きてくれないか?」

「それで構わないのですか?ウォルター様、ぼくは男だし、大して美しくもございませんのに」

愛しい人と暮らせるなら、それは悪いことではない。
しかし、自分は男だし王子様の妻になど相応しくないのではないか。
ジャンティーはそう疑問に思った。

「そんな細かいことを、いまさら気にする必要はない。私はお前を愛しているし、お前は私を愛している。愛する者同士が一つ屋根の下でとも暮らす。ただそれだけだ。何を気にかけることがある?」
ウォルターの手が頬から離れて、今度は両肩に降りてきた。

「そうですね、ウォルター様。ぼく、とても嬉しいです」
自分を見つめる青い瞳がキラキラ輝いているのを見て、ジャンティーは胸が高鳴った。
「お前の父親も、ここに呼び寄せるといい。そのほうがお前もいいだろう?」

「はい。ありがとうございます。ねえ、ウォルター様」
「何だい?」
「ぼく……夢を見ているような気がします」
「ふふふ。違うぞ、これは現実だ」
「嬉しい…」

ウォルターに抱き寄せられて、ジャンティーはそっと囁いた。
突然訪れた幸福の美酒に、すっかり酔っていた。











 ─────────────────────






そんなジャンティーだから、ウォルターが妹たちの名前を一度たりとも口に出さなかったことになど、まるで気がつかなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!! CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け 相手役は第11話から出てきます。  ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。  役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。  そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

処理中です...