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城での生活

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しかし、それを口に出すことなど、ジャンティーにはできなかった。
下手なことを口にして野獣の機嫌を損ねたりしたら、何をされるかわからない。
まして、父親と妹たちの命がかかっているともなれば、なおさら躊躇いが生まれる。

「わたしはときどき、ここを訪ねてくる。そのときに、わたしと食事をしたりお茶を飲んだりしてくれるか?」
「それは、べつに構いませんが…」
はて、自分は野獣のお茶や食事の相手をするために、ここに来ることになったのだろうか。
疑問は残るが、それだけならさほど難しいことではなさそうなので、ジャンティーは快く了承した。

「ときどき、黙ってここにいるだけのときもある。とくに何もしない。それも構わないか?」
「ええ、構いません」
「そして日に一度だけ、わたしはお前にある質問をする」
「……質問、ですか?」
「それにお前がどんな答えを出すかは、お前の自由だ。わたしはもう失礼するよ、今日はゆっくり休みなさい」

そう言って、また轟くような地響きを残して野獣は立ち去ってしまった。
野獣の真の目的はいったい何なのだろう?
野獣がさきほど言った「質問」とはいったいどんなものなのだろう?
あれこれ気になって、ジャンティーは豪華な室内の真ん中、ひとり呆然と立ち尽くしていた。



 ─────────────────────



それから、ジャンティーの城内での不思議な生活が始まった。
これではまるで、執行猶予を言い渡されている死刑囚みたいだとジャンティーは思う。

いつなんどき、野獣は自分や家族の命を脅かすかわからない。
ジャンティーたちの運命は結局、あの得体の知れない野獣の思うままなのだ。

ここではジャンティーこそが主人だなんて野獣は言っていたけれど、これの意図は未だに理解できない。

野獣はあんなことを言って、自分をからかっているのだろうか、からかわれ役をさせるためにわざわざこの城内に呼び寄せたのだろうか、とジャンティーは疑念を抱いた。



 ─────────────────────


城での生活は、不思議の国にでもいるような気分だった。

3度の食事の時間になれば、目に見えない手がジャンティーのためにその都度ちがうメニューの、見るも豪華な料理を用意してくれる。
グラスを持ち上げれば、目に見えない誰かが飲みたいと思うものを注いでくれる。
席につけば、目に見えない誰かがジャンティーの前にナプキンを広げてくれる。

さらに、目に見えない誰かがジャンティーのために優美な音楽の演奏までしてくれる。
食事と食事の合間にも、ジャンティーが空腹を感じたりすると、目に見えない手がお茶とお菓子をいつでも用意してくれた。

朝に目覚めたときも、夜にベッドに入るときも、目に見えない手がジャンティーの着替えを手伝ってくれた。


 ────────────────────

出される食事もお菓子もお茶も、いままで味わったことがないほどに美味しかった。

日々奏でられる音楽は聞いたことがないほどに耳触りがよく、野獣が用意してくれた絹の寝巻きは、いままでに着ていたどの寝巻きよりも着心地がよかった。
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