20 / 22
ガラスの靴
しおりを挟む
小山はアクセサリースタンドからリングをひとつ手に取ると、それをジッと見つめた。
「コレ、かわいいよねえ」
小山が手に取ったのは、大きなブルーのカメオがついたリングだった。
カメオにはドレスを着た女性が彫られていて、リングからぶら下がったタグには「シンデレラリング」という商品名が書いてある。
「そうだね」
たしかに、可愛らしい。
女の子なら、誰もが一度は憧れを抱くシンデレラをモチーフにしたリングだ。
それにしても、なんだって急にそんなものを手に取って眺めて、感想を述べたりしたのか。
「コレ、買うよ」
「ええ⁈直也くん、それつけるの?それ、男の指に入るの?」
突拍子もないセリフに、光史朗は驚きの声をあげた。
「ううん、これヒカリ姫にあげるよ。この指輪、女の子の指に入れるにはちょっと大きめだから、ヒカリ姫の指にも入るじゃないかな?薬指になら、ギリ入るでしょ?」
「え?う、うん。いや、ていうか、いいってそんなの!」
光史朗は顔の前で両手をブンブン振った。
熱燗をグッーと一気飲みしたかのように、顔がカッカッと熱い。
思えば、誰かにアクセサリーを買ってもらうなんて、初めてのことだ。
「オレがつけて欲しいから買うの。これ、お願いします」
小山は有無を言わせず、カウンターにリングを置いた。
「か、かしこまりました。ありがとうございます」
突然のことに驚きつつも、女性店員はリングを手に取り、精算を始めた。
「すぐにつけるので、タグも切ってください」
「かしこまりました」
小山に言われて、女性店員はレジ下に置いてあるペン立てからハサミを取り、手慣れた動作でタグを切った。
「では、このままお渡ししますね」
「ありがとうございます」
小山が女性店員に手を差し出す。
女性店員が、差し出された手のひらにそっとリングを置くと、小山はそれをつまんだ。
「ほら、ヒカリ姫」
リングをつまんだまま、小山が光史朗を呼ぶ。
「え?」
「手を出して。左手」
言われるままに光史朗が左手を出すと、小山は光史朗の薬指にシンデレラリングをはめた。
リングをはめられた手が、かすかに震える。
こんなことをされたのは初めてだ。
「プレゼントだよ」
「…ありがとう」
嬉しいやら恥ずかしいやらで、光史朗は次になんと言うべきかわからなかった。
「あの…もう店を出ようか」
店員にジッとこちらを見つめられていることに気づいて、光史朗はそう促した。
「うん」
光史朗が店のドアノブを掴むと、去り際に女性店員が「ありがとうございました」と入った。
それに応えるように会釈すると、2人はドアをくぐって店を出た。
──ガラスの靴を履かせてもらったシンデレラって、きっとこんなカンジなのかな?
光史朗は左手を顔の高さまで上げて、小山にはめてもらったシンデレラリングを見つめた。
ブルーのカメオが、光史朗にその存在を主張するかのように光って見えた。
すると、なぜだろうか。
不思議と口角が上がってきて、気持ちも上を向いてきた。
「コレ、かわいいよねえ」
小山が手に取ったのは、大きなブルーのカメオがついたリングだった。
カメオにはドレスを着た女性が彫られていて、リングからぶら下がったタグには「シンデレラリング」という商品名が書いてある。
「そうだね」
たしかに、可愛らしい。
女の子なら、誰もが一度は憧れを抱くシンデレラをモチーフにしたリングだ。
それにしても、なんだって急にそんなものを手に取って眺めて、感想を述べたりしたのか。
「コレ、買うよ」
「ええ⁈直也くん、それつけるの?それ、男の指に入るの?」
突拍子もないセリフに、光史朗は驚きの声をあげた。
「ううん、これヒカリ姫にあげるよ。この指輪、女の子の指に入れるにはちょっと大きめだから、ヒカリ姫の指にも入るじゃないかな?薬指になら、ギリ入るでしょ?」
「え?う、うん。いや、ていうか、いいってそんなの!」
光史朗は顔の前で両手をブンブン振った。
熱燗をグッーと一気飲みしたかのように、顔がカッカッと熱い。
思えば、誰かにアクセサリーを買ってもらうなんて、初めてのことだ。
「オレがつけて欲しいから買うの。これ、お願いします」
小山は有無を言わせず、カウンターにリングを置いた。
「か、かしこまりました。ありがとうございます」
突然のことに驚きつつも、女性店員はリングを手に取り、精算を始めた。
「すぐにつけるので、タグも切ってください」
「かしこまりました」
小山に言われて、女性店員はレジ下に置いてあるペン立てからハサミを取り、手慣れた動作でタグを切った。
「では、このままお渡ししますね」
「ありがとうございます」
小山が女性店員に手を差し出す。
女性店員が、差し出された手のひらにそっとリングを置くと、小山はそれをつまんだ。
「ほら、ヒカリ姫」
リングをつまんだまま、小山が光史朗を呼ぶ。
「え?」
「手を出して。左手」
言われるままに光史朗が左手を出すと、小山は光史朗の薬指にシンデレラリングをはめた。
リングをはめられた手が、かすかに震える。
こんなことをされたのは初めてだ。
「プレゼントだよ」
「…ありがとう」
嬉しいやら恥ずかしいやらで、光史朗は次になんと言うべきかわからなかった。
「あの…もう店を出ようか」
店員にジッとこちらを見つめられていることに気づいて、光史朗はそう促した。
「うん」
光史朗が店のドアノブを掴むと、去り際に女性店員が「ありがとうございました」と入った。
それに応えるように会釈すると、2人はドアをくぐって店を出た。
──ガラスの靴を履かせてもらったシンデレラって、きっとこんなカンジなのかな?
光史朗は左手を顔の高さまで上げて、小山にはめてもらったシンデレラリングを見つめた。
ブルーのカメオが、光史朗にその存在を主張するかのように光って見えた。
すると、なぜだろうか。
不思議と口角が上がってきて、気持ちも上を向いてきた。
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
「短冊に秘めた願い事」
悠里
BL
何年も片思いしてきた幼馴染が、昨日可愛い女の子に告白されて、七夕の今日、多分、初デート中。
落ち込みながら空を見上げて、彦星と織姫をちょっと想像。
……いいなあ、一年に一日でも、好きな人と、恋人になれるなら。
残りの日はずっと、その一日を楽しみに生きるのに。
なんて思っていたら、片思いの相手が突然訪ねてきた。
あれ? デート中じゃないの?
高校生同士の可愛い七夕🎋話です(*'ω'*)♡
本編は4ページで完結。
その後、おまけの番外編があります♡
新緑の少年
東城
BL
大雨の中、車で帰宅中の主人公は道に倒れている少年を発見する。
家に連れて帰り事情を聞くと、少年は母親を刺したと言う。
警察に連絡し同伴で県警に行くが、少年の身の上話に同情し主人公は少年を一時的に引き取ることに。
悪い子ではなく複雑な家庭環境で追い詰められての犯行だった。
日々の生活の中で交流を深める二人だが、ちょっとしたトラブルに見舞われてしまう。
少年と関わるうちに恋心のような慈愛のような不思議な感情に戸惑う主人公。
少年は主人公に対して、保護者のような気持ちを抱いていた。
ハッピーエンドの物語。
漢方薬局「泡影堂」調剤録
珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。
キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。
高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。
メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる