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返答
しおりを挟む「今日は少ないんだね。お腹の調子悪い?」
光史朗がエビフライ定食を乗せたトレーを、テーブルの上に置いた。
「いや…大丈夫だよ」
いつもはバカに食べるのに、今日に限って菓子パン1つと紙パックのコーヒー牛乳だけを摂る小山を不思議に思ったのだろう。
食事に誘われることも、光史朗から話しかけられるのも、これが初めてのことだ。
今までは小山が話しかけて、光史朗が最低限の返事をする、ということの繰り返しだっただけに、小山は戸惑いが抑えられなかった。
──伊伏さん、どうしたんだろ…まあ、嬉しいけどさ……
菓子パンをかじりながら、小山はエビフライを箸でつまむ光史朗を見つめた。
光史朗は箸の持ち方はもちろん、食べ方もキレイなので、ともに食事していると気分がよくなる。
「ダイエットとか?あ、違うよね。営業部ってすごい歩くもん。脚すっごい鍛えられるでしょ?」
光史朗が箸で白米を1口分つまんで、口に放り込む。
「まあね、日によっては1日中外回りだよ。そういうときはもう、ふくらはぎがパンパンになってるね。競輪選手ってあんなカンジかも」
「そうだよね。ぼくは1日中デスクに座りきりだよ。だから、うちの先輩は「腰が痛い」「肩がこる」ってしょっちゅう嘆いてる」
昨夜からの苦悩がウソのように、小山は晴れやかな気分になった。
光史朗の心情ははっきりしないが、こうも気にかけて、話しかけてくれるのは素直に嬉しい。
「ねえ、ワンダーランドカフェで隣に立ってたあの女の人は?」
「ああ、アイツはうちの姉だよ。アイツのワガママであそこに行くことになって、そこで伊伏さんに会ったワケ」
話しながら食べているうち、小山はコーヒー牛乳も菓子パンも全て食べきった。
「キレイな人だよね。最初見たとき彼女かと思ったよ」
「イヤだな伊伏さん、よしてくれよお!あんなのが彼女とかマジ勘弁!!」
光史朗の言葉に、小山はケラケラ笑った。
「そんな否定しなくても…」
「いや、マジでムリ。アイツ、ホントにガサツだし、人づかい荒いし。あ、そうだ。伊伏さんと一緒にいた女の子たちは?あの子たちとはどういう関係?」
「みんな友達だよ」
幸史郎が首を振った。
「へえ、高校の同級生とか、大学の友達とか?」
「ううん、全員ネットで知り合った子。実を言うとね、本名も住所も知らない」
「え?マジ⁈それで友達って言えんの?……いや、今どき珍しくないか。最近はそういう人が多いって聞くし」
小山がウーンと考え込む。
思い返してみれば、自分の友達にもどこに住んでいるのか、仕事は何をしているのか全く知らないが、それなりに仲良くしている人がいる。
「まあ、気は合うし、いっしょにいると楽しいよ」
「まあ、いっしょいて楽しかったら、なんでもいいよね!」
「うん、そうでしょ。あ、ねえ、ところで、昨日の話の返事なんだけど…」
エビフライ定食を完食した光史朗が唐突に切り出してきて、小山は身構えた。
「な、なに?」
小山がごくりと生唾を飲みこむと、口内にわずかに残っていたコーヒー牛乳が喉を通り抜けていった。
「ぼくでよかったら、付き合ってください」
「え、あの…いいの?」
小山はかーっと顔が熱くなり、酸欠寸前の魚みたいに口をパクパク動かした。
「告白してきたのはそっちじゃない。ヘンな小山さん!」
光史朗がクスッと笑った。
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