【完結】オメガの純が夢見ていること

若目

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疑心暗鬼

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「何かって、いったい何だい?教えてくれる?」
アクリル板の向こうで高貴が、かわい子ぶった女の子のようにカクッと首を傾げた。
普段なら滑稽に感じるそれも、今の大貴にはただただ恐ろしい。

「…お前なら、オレたち4人が仙次のオッサンに呼び出しくらって、部屋から離れたときにグラスに何か入れるぐらい、余裕でできただろ?」
アクリル板の向こうから、大貴が睨みつけてくる。
「だから何だっていうんだい?」
「否定はしねえんだな?」
大貴はより食ってかかるが、高貴は変わらず冷静なままだった。

「いや、否定はするよ。兄さんは僕をそういうふうに疑ってるわけだよね?まあ、別に疑うのは好きにすればいいよ。すでに塀の中にいる兄さんに疑われたって、大した実害は無いしね。でもね、反論はさせてもらうよ。もしそれができたとして、何か証拠はあるのかい?」
高貴はゴソゴソと身じろぎして、足を組んだ。
「…ない」
大貴の眉間に寄っていたシワが伸ばされて、吊り上がっていた目尻が下がる。

当然と言えば当然であろう。
貴彦が死んだのはもう15年も前だし、あの現場にあったものは警察によって全て処分されている。
そもそも、これといった味方もおらず、これから塀の中で過ごすことになる大貴に何ができようか。

「そんなことだろうと思ってたよ。じゃあ、僕はもう失礼するね。きちんと罪を償って、しっかりするんだよ。まあ、ちょくちょく面会には来てあげるから。何か欲しいものがあったら言ってね。差し入れはしといてあげるから」
高貴は組んだ足をほどいて椅子から立ち上がると、一瞥もくれることなく、面会室から出て行った。

去っていく高貴の背中を見届けながら、大貴はについても考えていた。

──ひょっとしたら…26年前のアレも、アイツが何かしたんじゃないか……

確固たる証拠などない。
それこそ、事件については、ついこないだまで何らの疑問も抱いていなかった。
あの事件は、正妻が愛人やその子どもたちに嫉妬してやったことだ。


しかし、今にして思えば、これについても疑問が残ることがある。
正妻はなぜ、父の豪貴や自分たちが家にいる時間帯を知っていたのか。

平日の昼間に家にいる人間の方が珍しいはずなのに。
正妻は夫との連絡はある程度はとっていたようだが、番の愛人たちの居所や生活時間帯まで、どうやって把握できていたのだろうか。

また、事件当時は「弟とまで不倫していたことに腹が立った」と供述していたけれど、正妻たる知世はどのような経緯で自分の弟と夫が関係を持ったことを知ったのか。

誰かが知世に告げ口したとしか考えられない。
そして、大貴が知っている限り、それができるのは高貴だ。
先日、面会にやってきた母親から聞いた話によれば、どうやら高貴は知世とひっそり親交があったらしく、今は母親の実家で使用人をしていると聞いている。

その親交が、26年前のあの頃からあったのだと考えれば、知世をけしかけて、あのマンションへ襲撃させることだって可能なのではないか。


ここでさらに、大貴の胸にはある疑いが芽生えてきた。

──高貴は、正妻を使ってオレを殺そうとしたんじゃ…?

大貴の背中に、冷たい汗が伝っていく。
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