【完結】オメガの純が夢見ていること

若目

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姉の事情

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「軽井沢くん、相田くん、皿洗いと掃除を手伝って!」
厨房から、日菜乃さんの声が聞こえてくる。
「失礼しますね」
「すんませんね」
純と仁志は、高貴さんと聡美さんに一言断りを入れると、急ぎ足で厨房に向かった。

「久しぶりだね、真理恵まりえちゃん。元気かい?仕事は順調かな?」
「ええ、おかげさまで」
厨房から。高貴さんが聡美さんの向かいに座っている華奢な女──真理恵に、笑いかけるところが見えた。
それに対して、真理恵もにっこり笑い返す。
聡美さんたちが座っている席から厨房まで、さほど離れていないせいか、話の内容が嫌でも耳に入るし、何をしているのかもわかってしまう。

「ジュンちゃん、あの子だよ。店長にお金出して、「番にしてください」って言ったオメガの子。真理恵ちゃんって言うんだけど」
仁志が耳打ちしてきた。
「へえ…」
真理恵は、身長150センチ程度で細身、前髪はきっちり真ん中で分けられていて、肩まで伸ばした黒いストレートヘアーは清楚な印象を与えた。
そのストレートヘアーの隙間から、彼女の白い首筋が覗けて、そこにくっきりキレイな咬み傷があることに、純は気がついた。

「真理恵さんね、今は聡美さんの番になってて、聡美さんの会社で働いてるらしいよ。聡美さんも高貴さんと一緒で、実家から離れて事業立ち上げたんだって。聡美さんのオフィス、ここからちょっと離れたとこにあるんだよ」
そばで皿洗いをしている日菜乃さんが、真理恵さんについて説明してくれた。

つまり、聡美さんもアルファなのか。
純は少し向こうで高貴さんと話し込む聡美さんと、真理恵さんを見つめた。

「まったく、父さんといい兄さんといい、アルファはトラブルメーカーが多いって俗説、アレは本当なのかもねえ」
「アンタもアルファでしょ?」
言うと聡美さんが、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。
「姉さんほどトラブルメーカーじゃないよ。裁判所、あと何回行くことになってるの?」
「……失礼するわね、ほら、行くわよ!」
高貴さんの言葉に顔をしかめたかと思うと、聡美さんは席を立った。
真理恵も、それについていく。
「りょーかい。長田さん、会計お願いするよ」

レジを任されている長田さんが会計を担当し、聡美さんと真理恵さんは勘定を済ませると、足早に店を出て行った。

「裁判所って、どういうことだろう?」
「姉さんね、従業員のひとりにパワハラで訴えられてるの、それで今は係争中ってワケ」
純が疑問を口にすると、いつの間にか厨房に入ってきていた高貴さんが答えた。
「そうだったんですか。あの人はきっちりしてるから、その手のトラブルとは無縁だと思ってました」
日菜乃さんが不思議そうな顔をした。
「うん、きっちりしてるよ。完璧主義なんだよ。で、その完璧主義を相手にも求めちゃう。おまけに姉さんは仕事はバリバリこなせるだけに、できない人の気持ちがわからないから、ついイライラしちゃうんだね。「どうしてこんなこともできないの!」「こんなの猿でもできるわよ!」って口走ってね。で、よりにもよって、それを録音されてたもんだから……」

高貴さんがまた「ああウンザリ」という顔をしたと同時に、彼のエプロンのポケットに入ったスマートフォンが鳴った。
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