【完結】オメガの純が夢見ていること

若目

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店長の経歴

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「高貴さんはなんで、おじいさんの会社で働かなかったんですか?家の偉い人とケンカして追い出されたとか?」
仁志がこんな無神経な質問をしても、高貴さんは眉ひとつ動かさない。

「自分から出て行ったんだよ。あんな大奥みたいなとこで仕事するとかまっぴらごめんだもの。スキあらば母親がすがりついてくるんだよ?」
「大丈夫だったんですか?反対されたりとかは?」
仁志のことを「失礼なヤツ」と思いつつ、純も気になったことを聞いてみる。

「母親は「裏切ったな!」みたいなこと言ってきたけど、会社の年嵩としかさ連中は何も言わなかったよ。会社のポストで椅子取りゲームしてる人たちだからね、むしろ敵が少なくなって都合が良かったんだろうね。「がんばれよ」って笑顔でエール送ってくれた人もいたよ。内心どう思ってたかは知らないけど」
「えー、でも、自分の店を立ち上げるなんて、大変じゃないですか?あ、出資してくれたとか?「ライバルがいなくなってくれるなら、それぐらいやろう!」みたいな?」
「いや、店舗とか備品は引き継いだものだから。この店はね、もともと僕の面倒を見てくれてた家政婦さんと、その旦那さんの店だったんだよ。長いこと夫婦ふたりでなんとか切り盛りしてたんだけど、途中、不況で閑古鳥が鳴いちゃってね。そこで、奥さんが店の存続のために、僕の家で家政婦さんやることにしたの。その収入で、夫婦ふたりでなんとか暮らしていけてたわけ」
「この店、そんな経緯あったんだ……」
初めて知った事実と、高貴さんの行動力に、純は改めて感心した。

「そう。でもね、僕が成人した頃合いに、ご夫婦ふたりは高齢で後継ぎもいないから、店を閉めようかと思ってるって言い出したんだよね。そこで僕が面倒見てくれた恩返しがてらに、ここを継ぐことにしたわけ。ちょうど大学卒業する前だったしね、何かと好都合だったわけだ。僕が店を継ぐ頃には、お客さんもそれなりに来てて、経営も安定してたし。そろそろ休憩終わるから、先に失礼するよ」
高貴さんは軽くのびをすると、重い足取りで休憩室から出て行った。

実家の年嵩連中や、依存気質な母親、遊び人な兄に振り回される苦悩からか、去って行く背中に、妙な哀愁を感じた。


「高貴さん、ホント苦労人だよなあ。せっかくがんばって独立しても、母親とか兄貴がおかまいなしにズカズカ上がり込んでくるし。こないださ、ジュンちゃんがオフのとき、高貴さんのお姉さんと妹さんが来たよ。あ、腹違いじゃなくて、直系のね。高貴さん、実の兄弟だけでも5人いるんだって」
「うわー、それだけでも十二分にめんどくさそう……」
純は姿勢をだらけさせて、イスの背もたれに体を預けた。
「お姉さんと、あの大貴っていうイヤミな兄貴と、弟さんと妹さん」
仁志は数を数えるように右手の指を1本ずつ折りながら、高貴さんの兄弟構成を説明した。
「姉と兄と弟と妹がそれぞれ1人ずつってことかあ……」
純もそれに倣うように、指を1本ずつ折っていく。
「いやー、でも、弟さんは早いうちに亡くなってるから「実質4人兄弟だよ」って高貴さんは言ってた」
「どのみち面倒な状況なのは変わらないんじゃない?」
「あー、そうかも。そもそも、高貴さんのお父さんも、おじいさんから見たら愛人の子。それで、おじいさんは他の愛人にも子ども生ませてるから、父方の兄弟めちゃくちゃいるらしい。さらにその兄弟も何人も愛人囲ってバカに子ども生ませてる人がいるから、従兄弟も山ほどいるんだって」
仁志はなんとも言い難い、とばかりに苦笑した。

「めんどくさ……ていうか、ややこしいな…」
仁志の話を聞くと、純はますます高貴さんに同情する気持ちが強くなっていった。
こんな複雑な人間関係を形成しているお家に生まれては、抜け出したくもなるだろう。
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